チタン(Ti)~巨人タイタンにちなんだ工業界のスター元素。光触媒、食品添加物から航空機まで~

元素記号Ti、原子番号22番の元素チタンは、1790年ごろに発見されたとされており、発見者のクラップロートによって、ギリシャ神話の神々に鉱石中に閉じ込められた元素として命名された。地殻中の鉱石に多く含まれており、自然界での存在は無尽蔵と言えるほど豊富だ。しかしチタンが金属材料として利用され始めたのは1950年ごろと最近のことである。

軽量で抜群の強度と耐久性があるチタンは、今や工業界ではスター的な存在。日本はチタンの生産大国であるのをご存知だろうか。原料はすべて輸入しているものの、航空機分野で必須のスポンジチタン(スポンジ状の金属チタン)の世界シェアは約24%。

国産スポンジチタン(日本チタン協会より提供)

例えばボーイング787の機体のうち約14%もチタンが使われていて、日本のスポンジチタンも航空機産業に大きく貢献している。1900年代に航空機の材料はアルミニウムが主流であったが、現在では炭素繊維強化プラスチック(CFRP)がその大半を占め、CFRP との相性がよいことからもチタン合金の使用量は年々増加している。パラジウム、アルミニウム、白金、モリブデン、ニッケルなどが添加されると、チタンそのものの持つ高い機械的性質や耐腐食性がさらに向上した合金となる。

チタン合金が活躍する航空機の機体(日本チタン協会より提供)

また、チタンは人体に対して無害で生体適合性も優れる。メガネのチタンフレーム、ネックレスや指輪などに人に触れるアクセサリーとしても有名であるが、人工関節、人工歯など体内での拒絶反応がほとんどないことで医療界でも注目されている。そして酸化チタン(チタニアともいう)は紫外線を散乱する特性から日焼け止めクリームなども添加されている。経口摂取をしても人体に無害であることから、ホワイトチョコレートなどの白さを得る目的で食品添加物としても利用される。酸化チタンとくにアナターゼ型の結晶はその光触媒としての活性が高く、印刷用感光体、色素増感太陽電池の電極材料、抗菌材、セルフクリーニング材、脱臭剤として実用化されている。

チタン製ピアス(日本チタン協会より提供)

金属チタンは軽くて、強くて錆びにくく、不燃性で、様々な厳しい環境にも対応できることから、金属材料だけでなくモニュメントや建築物の材料としても活躍している。日本の有名な建築物、例えばフジテレビの展望室外装、北野天満宮宝物殿屋根や、浅草寺本堂や宝蔵門、そして大宰府にある九州国立博物館の屋根材など目にしたことがある読者も多いのではないだろうか。

九州国立博物館の屋根材(九州国立博物館より提供)

ロンドン五輪のモニュメント(日本チタン協会より提供)

実験:チタン板の表面をカラフルにしてみよう

簡単な電気分解でチタン表面の酸化被膜の厚さをコントロールし、様々な色を付けることができる。9 Vで金色、18 Vで青紫色になるのにチャレンジしてみよう!

準備するものは、Tiの板(または薄い箔でもよい)、電解液として、重曹水を加熱して二酸化炭素を飛ばしたあと冷却した炭酸ナトリウム水溶液。9 Vの乾電池2個、ミノムシクリップ、シャーペンまたは鉛筆の芯(主成分は炭素(黒鉛))。

チタン板を電池のプラス極に、鉛筆の芯を電池のマイナス極に繋ぎ、電解液につけるだけ。9 V乾電池を二つ直列にすると18 Vとなる(繋ぎ方を間違わないよう安全な実験に心がけること)。下の写真では約5%の重曹水を加熱して冷却したものを電解液として用い、電解時間10秒程度で、得られた表面の変化である。

実際に金属チタンの表面は空気中の酸素によって自然に形成された無色の酸化膜で覆われているが、陽極酸化法でその被膜の厚さをさらに10~300 nmの範囲で変えることができる。その酸化膜の厚さに応じ、可視光の干渉すなわち、複数の波長域の異なる可視光を重ね合わせることとなり、異なる色に見える。

発色させたチタンは、めっきや塗装では得られない色彩感を活かした装飾を施すことができる。その一部の例が写真のようなピアスやモニュメントである。さらに色彩感を楽しむだけでなく、酸性雨による腐食防止や、軽量化、強度の面で地震対策にもなるため、実際に屋根材としてあちこちの建造物において使用されている。

 

参考文献
日本チタン協会:
http://www.titan-japan.com/technology/properties.html
JOGMEC金属資源情報 鉱物資源マテリアルフロー 2016 25.チタン (Ti):http://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2017/06/25_201701_Ti.pdf
岡部徹、チタンの現状と生産技術、NSST通信2017.10.1.:https://www.nsst.nssmc.com/tsushin/pdf/2017/97_2s.pdf
広島市産業振興センターNEWS 第149号(2014.9.16):http://www.assist.ipc.city.hiroshima.jp/melmaga/no149/260916-6.html
北山司郎ほか、「チタンの陽極酸化に及ぼす表面状態の影響」鉄と鋼、第77年 (1991) 第 7 号p.1198-1205:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tetsutohagane1955/77/7/77_7_1198/_pdf
九州国立博物館ホームページ博物館建築情報より:https://www.kyuhaku.jp/museum/museum_info06.html
写真協力:日本チタン協会、九州国立博物館

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山﨑 友紀

山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。