永遠の定番実験! マグネシウムの還元&酸化反応

元素記号Mg、原子番号12番の元素。マグネシウムは海水や岩石、生体の中などにも多く含まれ、にがり(主成分は塩化マグネシウムMgCl2)や便秘薬(主成分は酸化マグネシウムMgO)にも含まれていることからも身近であろう。

血液に含まれる赤い成分ヘム鉄によく対比される、植物の緑色素クロロフィル。その分子の中心にマグネシウムが位置している。環状の有機化合物ポルフィリンがFeやMg元素と安定な錯体を形成するため、似たような構造になるが、それぞれ異なった性質や機能を示す 。

クロロフィルは光合成を行うバクテリアや植物に含まれており、光エネルギーを吸収して、酸化還元反応を通じて化学エネルギーへと変換する役割を果たしている。一方、ヘム鉄はヘモグロビンによる酸素の運搬や、酸素を使ったエネルギー代謝サイクルに関係している。

クロロフィルの分子構造例

マグネシウムは実用金属の中で、最も軽量で高強度、高硬度、高振動吸収性、高切削性など の優れた性質を示す。このことからマグネシウムは合金として20世紀初めごろから、フォルクスワーゲン、フォード、GM、マツダなどの自動車エンジンの主要部品の部材として使われてきた。その後2015年、世界で初めてドイツのポルシェが金属マグネシウムの板材を量産車の外装に使うことに成功した。何重にも施された表面処理が、車のボディに必要な高い耐食性を現実のものにした。近年、自動車や航空機のボディ素材としてマグネシウムが大きく注目されているのは、とにかく軽くて丈夫だから。そして、車両重量と燃費が密接に関係しているため、ボディの軽量化が温室効果ガスである二酸化炭素の排出量削減になるという理由もある。

マグネシウムの工業的な用途としては、アルミニウム合金への添加材が最も多く、全需要量の約40%になる。次いで金属の鋳造方法のひとつであるダイキャスト(またはダイカスト)、つまり溶解金属を鋳型に圧力注入する方法の材料として多く利用されている。パソコン、ビデオカメラのボディ、携帯、などの軽量で強度を求められるものがその利用例である。

実験1 ドライアイス灯篭(空気のいらないマグネシウムリボンの燃焼を体験しよう!)

マグネシウムリボン(金属マグネシウムを薄く細いリボン状に加工したもの)に空気中で火をつけると眩しい光を放ちながら、激しく燃焼するのを見たことのある人も多いだろう。

ドライアイスの中に閉じ込めた、空気のない状況でもマグネシウムを激しく燃やすことができる。ドライアイスのブロックと板を準備して、マグネシウムを閉じ込めるための本体と蓋をつくる。大きさは自由である。

まず本体となる方に、ナイフかマイナスドライバーなどで直径および深さ1~2 cmの穴を掘る。その穴の中にマグネシウムの粉末を入れ、マグネシウムリボンを立てる。マグネシウムリボンの先端に着火する。マグネシウムの粉末に火が届いたらドライアイスの板で蓋をすると灯篭のように光輝く燃焼反応を見ることができる。

実際の反応では、マグネシウムが空気中の酸素ではなく、二酸化炭素の酸素を奪って反応することによって燃焼し、ドライアイス(二酸化炭素)が炭素に還元され黒い炭が得られる、という仕組みである。
CO2  + 2Mg → C + 2MgO

ドライアイス灯篭の様子(動画では、直接触っているのではなく、手をかざしてわずかな放射熱を確認している) 動画再生時間:12秒

(注意)マグネシウムの粉末は空気中の酸素と反応しやすいため試薬瓶の蓋をすぐ閉めるなど、空気にできるだけ長時間さらさないよう、取り扱いに注意する。

実験2 マグネシウムによる水素発生実験

科学的な根拠を別として、水素風呂など水素水を求める消費者が近年増えている。金属マグネシウムを利用した水素風呂のキットや製品も数多く販売されている。その原理は、下の反応式のように金属マグネシウムが水と反応して水素を発生することを利用したものである。

2H2O + Mg → Mg(OH)2 + H2

金属マグネシウムの板を約5%のクエン酸水溶液に浸すだけで小さな水素の気泡が発生し続けるのを実験的に確認することができる。

※冷水、熱水、酸性水溶液を使った水素発生の実験動画は
下記のリンクをクリックしてください(再生時間:4分)
動画はこちらから
画質は720p以上を推奨します(水素の気泡が細かいため)

金属マグネシウムの安全性や取扱い、入手方法などについては日本マグネシウム協会のサイトを参考にされたい。

 

Wikipedia 英語サイト https://en.wikipedia.org/wiki/Chlorophyll
日本マグネシウム協会 http://magnesium.or.jp/property/
武田秀「自動車用マグネシウムダイカスト技術動向」まてりあ、p.594-598、第53巻 第12号(2014)https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia/53/12/53_53.594/_pdf
大人のための科学実験教室 (ドライアイス灯篭の動画)https://www.youtube.com/watch?time_continue=8&v=bQ59kZjULcU

 

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。