フロン類

はじめに

フロン類は炭素とフッ素が共有結合した化合物です。さらに、塩素、臭素、水素が結合することもあります。無色無臭、常温で気体、化学的に安定な化合物です。

用途

フロン類は冷蔵庫の冷媒として開発が進められました1)。当時、冷媒としてアンモニアが使われていましたが、その有毒性のため代替品が求められていました。1928年、冷蔵庫メーカーを傘下にもつアメリカのゼネラルモーターズ社の研究員トマス・ミジリーがジクロロジフルオロメタン(CCl2F2 Freon-12、R-12) を発明しました。1930年、DuPont社と共同でフレオンという商標でフロン類の生産を開始しました。フロン類は圧力をかけると簡単に液化し、不燃性であり、当初は毒性がないとされたことから、1970年代まで、冷媒、洗浄剤、発泡剤、噴射剤、消火剤として幅広く用いられてきました。具体的には、冷凍機の冷媒、エアゾール噴霧剤(スプレー)、電子部品の洗浄剤、脱脂剤、などです。また、ハロンは液体燃料による火災の消火剤として使われます。

化学構造による分類:

クロロフルオロカーボン(CFC、狭義のフロン) : C、F、Cl
ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC) : C、F、H、Cl
ハイドロフルオロカーボン(HFC、代替フロン) : C、F、H
ハロン : Brを含むフロン

フロン類の命名法:

R-ABCd (諸外国では Freon-ABCd と表記)

A(百の位): 炭素数 -1 (ゼロであれば表記しない)
B(十の位): 水素数 +1
C(一の位): フッ素数
d(添え字):構造異性体の区別

(例)

沸点 -29.8℃
CCl2F2 (dichlorodifluoromethane ): R-12  (CFC) 特定フロン
沸点 -40.7℃
C2ClF5 (chloropentafluoroethane): R-115 (CFC) 特定フロン
沸点 -38.7℃
C2ClF5 (chloropentafluoroethane): R-115 (CFC) 特定フロン
沸点 -26.3℃
C2H2F4 (CH2FCF3) 1,1,1,2-tetrafluoroethane: R-134a (HFC) 代替フロン

フロン類による事故

フロン類の吸入による多幸感や高揚感が得られるため、欧米では1950年代から乱用が始まりました。また、漏出事故に起因する曝露による死亡例もありました。ちなみに、シンナーの吸引でも同様の薬理効果があり、我が国ではシンナーの乱用がより問題となりました。

環境破壊

300nmより短い波長の紫外線は地球に届かないことなどから、大気中のオゾンによる紫外線の遮断があり、高層の大気にオゾン層があることがわかっていました。オゾン層は紫外線から地球上の生物を保護する役割があります。ところが、1974年ローランドとモリーナが上部成層圏(高度約40km)でのフロンによるオゾン破壊の可能性を初めて指摘しました。そして、1984年〜1986年にかけて、南極のオゾンホールの存在が確認されました2)。 1987年にモントリオール議定書が採択され、CFCの製造と輸入が禁止されました。代わりにオゾン層を破壊しにくい HCFC や HFC が利用され始めました。また、1990年代になると地球温暖化とその弊害は多くの人々の関心事になってきました。原因は産業の高度化によるによる温室効果ガスの排出増加であり、排出規制が行われるようになりました。フロン類もCO2やCH4と同様、温室効果があります。フロン類は1996年までにCFCを含む特定フロンが使用禁止になりました。CFCは2009年に、HCFCは2020年に先進国では全廃されました。Clを含まないHFCは現在でも代替フロンとして使われています。我が国では、15年以上前に製造されたエアコンの冷媒では、特定フロンであるR-22がよく使われていました3)

フロン類の毒性

フロン類に毒性があり、吸入されると肺から血中に入り、全身に行き渡ります。脂肪に溶けやすいので、脳、脂肪組織、肝臓などに高濃度に分布します1)。 吸入の際、空気と置換されて体内に入るので、低酸素状態を引き起こします。これは、N2、He、CO2などの不活性ガスを吸入したときに窒息するのと同様です。また、脂溶性であるので、炭化水素の吸引と同様、脳の麻酔作用や心臓の不整脈を引き起こします4)。 また、肝毒性や皮膚の脱脂による傷害もあります。フロン類による中毒を証明するために、血液、尿、諸臓器を検査試料として、ヘッドスペース法を用いて、ガスクロマトグラフ・質量分析計で定性・定量検査をします。

事故例

(1)40代男性、食料品店の駐車場内の自家用車の運転席で死亡していた。車の中に約40個のエアゾール噴霧剤(1,1-ジフルオロエタン、R-152a)の缶があり、乱用が疑われました。検視から死後4日と考えられました。解剖により、冠状動脈狭窄と左心室の線維化・新しい梗塞がありました。薬物検査により、1,1-ジフルオロエタンは血液 136.3μg/mL、脳 117.5μg/g、肝臓 87.6μg/g、脂肪 235.7μg/gでした。死因は1,1-ジフルオロエタン中毒による致死性不整脈と考えられました5)
(2)深海トロール船で機関室に隣接する船室で30代男性が死亡していた。3か月前にモノクロロジフルオロメタン(R-22)を冷媒とする冷凍装置のガス漏れがあり、修理されていました。解剖から、高度肺水腫、小腸粘膜の出血を認めました。薬物検査により、モノクロロジフルオロメタンは血液 169μg/mL、脳 199μg/g、肝臓 131μg/g、脾臓 143μg/gでした。死因はモノクロロジフルオロメタンの急性中毒とされました6)

終わりに

フロン類は冷媒として、産業用途で広く使われてきました。その後、オゾン層破壊の原因であり、温室効果ガスでもあることから、先進国では事実上、使用禁止になりました。しかし、禁止前に製造された冷凍装置の冷媒として、まだ現役で使われている場合もあります。環境への配慮から、特定フロン類を冷媒とする冷凍装置の廃棄の際、冷媒の回収が義務づけられています。

(参考)
1. 上条吉人. フロン類(フッ素を含むハロゲン化炭化水素) 臨床中毒学 第2版. pp.462-465. 医学書院. 2023.
2. フロンによるオゾン層の破壊. 環境科学解説「オゾン層の破壊」 2004年11月10日 国立環境研究所. https://web.archive.org/web/20210116064143/http://www.nies.go.jp/escience/ozone/ozone_02.html
3. R22冷媒(HCFC)生産終了のお知らせ. ダイキン工業ホームページ. https://www.ac.daikin.co.jp/r22
4. Zhou Y et.al. Ionic mechanisms underlying cardiac toxicity of the organochloride solvent
Trichloromethane. Toxicology 290: 295–304, 2011.
5. Avella J, et.al. Fatal Cardiac Arrhythmia After Repeated Exposure to 1,1-Difluoroethane (DFE). Am J Forensic Med Pathol 27(1): 58-60, 2006.
6. Koreeda A. et.al. An accidental death due to Freon 22 (monochlorodifluoromethane)
inhalation in a fishing vessel. Forensic Science International 168: 208–211, 2007.

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上村 公一

東京医科歯科大学名誉教授、もと高校教諭(理科・化学)。専門は法医学、中毒学。テレビドラマや小説の法医学監修をしてきた。

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