新年おめでとうございます。毎年米国化学会は年の暮れに、”Molecules of the year”という分子を発表しています。2025年11月には5つの分子がノミネートされ、読者の投票によって順位がつけられます1 。このブログ記事が発表される頃には1位が決定しているでしょう。今回はその5つの分子(その中には以前このブログ記事でお知らせした窒素の新しい同素体も含まれています)の中から、大変興味深い炭素の新しい同素体2についてご紹介しましょう。

図1 今回報告されたC48分子(ピンク色)。炭素原子のみが48個結合した環状炭素分子に、3つの別の環状分子がはまった構造となっている。この図は筆者が計算で求めた3安定構造を示している。
今回報告されたのは48個の炭素が環状につながったC48です。48個の炭素原子が、三重結合と単結合が交互につながっていき、円形となっています。ただ、完全にC48のみではなく、C48に別の少し小さな環状有機分子が三分子はまっているような分子です(図1)。複数の環状の分子が(知恵の輪のように)共有結合をつくらずにつながっている化合物をカテナンと呼びますが、これもカテナンの一種です。これまでに、炭素のみからなる環状分子は多くのもの(C6からC26までの様々な分子)が報告されてきました。これらは固体表面上に、走査型プローブ顕微鏡と呼ばれる装置を用いて極低温(4K – 10K)で、原子1個1個を並べて作られたもので、溶液中、しかも室温で安定なものを作る試みはことごとく失敗してきたのです。しかし、 今回英国の研究者たちは図1のような分子を合成することに成功しました。驚くべきことに、この分子は溶液中、室温でも十分分析を行える程度に安定であることが分かったのです。

図2 C48分子の合成方法。説明は本文参照。緑のリング状の構造は図中右上の構造の環状有機物を示している。化合物の化学式も合成法も多少簡略化して示してある。
当該の分子は図2の方法で作られました。まず求める分子の部品となる、三重結合を3つ含む化合物(図2の1)を合成します。この1は、炭素8つが順番に結合した構造の部分が含まれ、さらにその一部にはコバルト(Co)原子を含むユニットがつながっています。環状分子Mを別途合成します。Mは(ウナギをとる仕掛けのように)まっすぐな炭素鎖が入り込みやすい性質を持っています。そこで、Mが存在する溶液内で、触媒を用いて2分子の化合物1を結合させると2・Mが得られます。この2・Mには8個の炭素が直線上に連なった部分があり、Mの穴の中にその部分がはまり込んだ構造となっています。分子の両側は大きな部分(コバルトを含む部品)がついているので、このような構造になるとMは抜けなくなります。2・Mには中央の直線部分以外に炭素鎖が両側に4個ずつついており、16個の炭素鎖があることになります。こうしてできた2・Mを3分子結合させると炭素が48個環状となった3・M3が生成します。これに強力な酸化剤を作用させることで、コバルト部分が外れて、最終目的物である4・M3が得られました。
この生成物に関しては、質量分析と核磁気共鳴という2つの分析手法によって、図1に示す構造であることが確認されました。また、この化合物は紫外光と可視光のうち500 nmより短い波長の光を吸収し、溶液中で黄色い色をしていますが、量子化学計算によってもそのような波長に吸収を示すことが確認されました。この化合物は有機溶媒中でゆっくり分解しますが、半減期(半分の濃度になるまでの時間)が、20℃で96時間と求められ、かなり安定であることが分かりました。なお、図2で緑色のリングで示したMを加えずに合成するとMのない3が合成され、これを酸化することで、純粋なC48と思われる物質も得られましたが、この物質は1時間程度で分解してしまうため、詳しい分析を行うには至らなかったとのことですが、それでも従来報告されたもっと小さな環状炭素に比べると安定です。
今回得られた環状C48を含む物質は、思いのほか安定であることが分かりました。その理由として、著者らは、このC48の環が非常に大きくて、本来直線上になるはずの−C≡C−ユニットがわずかしか曲がっていないこと、そして3つのMユニットで覆われており、効果的にC48分子が保護されていることをあげています。筆者は大学院生の時にC60が発見され、それには大変驚いたのですが、またこのような分子が合成され、当時の驚きを思い出しました。化学の世界は今年もまだまだ驚きがありそうですね。ではまた次回。
1 https://cen.acs.org/synthesis/Molecules-year-2025/103/web/2025/11
2 Y. Gao, P. Gupta, I. Rončević, C. Mycroft, P. J. Gates, A. W. Parker and H. L. Anderson, Science, 2025, 389, 708–710. https://www.science.org/doi/10.1126/science.ady6054
3 GFN2-XTB法による。
https://github.com/grimme-lab/xtb/releases/tag/v6.7.1
坪村太郎
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