はじめに
食中毒は有毒な物質が含まれた食品を摂取することによって、引き起こされる急性の病気です。その原因の代表例1)は(1)細菌:消化管に感染(サルモネラ菌、病原性大腸菌)や細菌が産生する毒素(黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌)による障害、(2)ウィルス:例えば、ノロウイルスは感染力が強く、しばしば集団発生、(3)自然毒:動物性のフグ、貝、植物性のキノコ、ジャガイモの芽など、(4)寄生虫:アニサキスは胃粘膜に食い込み、アレルギー反応の発症に関与、(5)化学物質:例えば、ヒスタミン、洗剤、漂白剤、です。
ヒスタミンによる食中毒
(5)のヒスタミン(図1)による食中毒は高濃度のヒスタミンが含まれた魚介類を摂取することによって起こります。サバ、マグロ、カツオなどのサバ亜目やアジ、イワシなどの赤身の魚は保存状態が悪いと、魚肉中にヒスタミンが蓄積し、食べると食中毒になります。現在では、一般に「ヒスタミン魚中毒」と呼ばれて、しばしば集団発生します2)。

図1.ヒスタミンの構造式
作用機序
これらの魚は捕獲時には毒性がありません。しかし、その後、魚肉中のヒスチジンからヒスタミンが生成されて、蓄積することにより、毒性を持つようになります。
魚肉中のヒスタミン濃度は、(1)遊離ヒスチジン含有量、(2)細菌性ヒスチジン脱炭酸酵素の濃度が関与します。このうち、(1)は捕った時点での個々の魚により確定しますが、一般に赤身の魚には遊離ヒスチジンが大量に含まれています。(2)は、魚の表在菌や二次的な汚染によるヒスタミン産生菌(大腸菌、Klebsiella pneumoniae、Morganella morganiiなど)は30℃前後の至適温度で増殖してヒスチジン脱炭酸酵素を産生します2)3)。この酵素は遊離ヒスチジンを脱炭酸してヒスタミンを産生します(図2)。26℃では12時間程度で中毒濃度まで増加します2)。また、捕獲後の保存状況が悪く、細菌数が増加し、ヒスチジン脱炭酸酵素が増加してから冷蔵保存しても、酵素活性は持続し、徐々にヒスタミンを産生します。ヒスタミンは熱に強く調理では分解せず、また、無臭です。味は胡椒や金属のように感じることがありますが、気付かれないこともあります2)。
図2. ヒスタミンの産生経路
毒性と症状
食物中のヒスタミン濃度は通常、<0.1mg/100g です。中毒濃度は>20-50mg/100gです。ヒスタミンは生体のヒスタミンH1受容体、H2受容体に作用します。中毒症状は、摂取後の早期に発現します(10分〜1時間)。悪心、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状、皮膚の紅潮・発赤・紅斑・発疹・じんま疹などの皮膚症状、頭痛、発汗などです。重症では、気管支攣縮、喘鳴などの呼吸器症状、上室性不整脈、血圧低下などの循環器症状が見られます。これらの症状は食物のアレルギー反応(IgEを介するⅠ型アレルギー)と似ていますが、発症の機序が異なります。なお、孤発例のヒスタミン魚中毒は食物のアレルギーと誤診されることがあります。また、まれですが、ヒスタミンの作用によって心臓の冠動脈攣縮が引き起こされ、胸痛や心筋梗塞を生起する急性冠症候群があります(Kounis症候群)。ヒスタミン魚中毒の治療法として、ヒスタミンH1受容体拮抗薬(d-クロルフェニラミンマレイン酸塩、H2受容体拮抗薬(ファモチジン)の投与があります。前者はアレルギーの治療、後者は胃潰瘍の治療にもよく使われています。
中毒例4)
中国でカニを食べたことによる死亡例が報告されています。30代女性が調理されたカニ(ノコギリガザミ)を購入して、家族で夜に食べたところ、翌日の午前3時頃に腹痛、下痢を示し、その後、嘔吐、めまいがありました。午前6時に近医を受診し、下痢止め薬の投与、点滴が行われました。症状の改善はなく、午後0時に病院に搬送されましたが、そのまま死亡しました。死亡者よりもカニの摂取量が少なかった10代の息子は症状が出現しましたが治療により回復しました。夕食に同席した他の家族はカニを摂取せず、症状もなかったようです。法医解剖が行われ、アレルギー症状の喉頭浮腫や肉眼的病変はなく、病理組織学的検査でも異常所見はありませんでした。薬物分析によるヒスタミン濃度(mg/100g)は凍結生カニ 8.334、調理されたカニ 47.08、心臓血 7.708、肝臓 5.753、胃内容 4.64、十二指腸内容 22.54 でした。死因はヒスタミン食中毒とされました。今回、調理後、室温で約20時間保存されていました。まれですが、赤身の魚以外でもヒスタミン中毒は起こります。
終わりに
我が国は海に囲まれ、従来から多種類の魚介類を食卓に載せています。特に、赤身の魚は保存に注意が必要です。古くなった魚は今回のようなヒスタミン魚中毒以外に細菌性中毒の恐れもあります。法医学的には、食物の摂取で起こる食中毒は疾患(病気)に分類され、不幸にも死亡した場合、病死です。一方、睡眠薬、麻薬、青酸カリなどを服用して中毒死した場合、食品ではない劇毒物の摂取なので、外因死(不慮の事故、自殺、他殺)となります。
(参考)
1. 食中毒の分類と種類. 目黒区ホームページ. https://www.city.meguro.tokyo.jp/seikatsueisei/kenkoufukushi/eisei/bunrui.html
2. 上条吉人.ヒスタミン(サバ亜目). 臨床中毒学 第2版. pp.571-576. 医学書院. 2023.
3. ヒスタミンによる食中毒について. 厚生労働省ホームページ. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130677.html
4. Yu Y. et al. Rare death via histamine poisoning following crab consumption: A case report. J Forensic Sci 63(3); 980-982, 2018.
doi: 10.1111/1556-4029.13611
上村 公一
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