はじめに
大麻には陶酔感や幻覚作用があり、古くから使用されてきました。薬理成分はdelta-9-tetrahydrocannabinol (⊿9-THC)(図1)で、麻の葉、種子皮(花に種皮がある)に含まれ、茎、根、種子にはほとんどありません。形態として、乾燥大麻(マリファナ)、大麻樹脂(ハシッシュ)、 液体大麻(ハッシュオイル)の3分類があります1)。我が国では厳しい法的規制がありますが、茎は線維などとして産業用に、種は食用に用いられ、なじみが深い植物です。大麻は自生植物で、公園や街角に生えていることもあります。家庭の庭に生えている場合、庭の所有者が刈り取って処分する必要があります。
図1.THCの構造式
作用機序と効果
THCは化学的に脂溶性で、摂取されると脂肪に蓄積します。血中半減期は20〜57時間と長く、尿から30日間にわたって検出されることもあります。THCのレセプターは、脳神経系に発現するCB1と免疫系に発現するCB2があります。薬理効果は主にCB1レセプターによるもので、多幸感、陶酔感、弱い幻覚作用、眠気、末梢血管拡張、気管支拡張作用があります。また、食欲増強、抗てんかん作用があり、医療用途(医療大麻)として、いくつかの国で認可されています。大麻の一成分で、法的規制外のCannabidiol (CBD)(図2)は抗けいれん、鎮静、鎮痛作用があり、その効能について、現在研究されています。

図2.CBDの構造式
毒性と症状
大麻の毒性はアルコール、タバコより弱いとされています。ヒトの死亡例はほとんどありません1)。イヌの致死量は経口>3g/kgとされています。吸煙した場合、薬理効果はすぐに発現するため、急性中毒は少ないです。しかし、経口摂取では30分以上遅れて効果が発現するので、過量摂取して急性中毒を起こすことがあります。大麻摂取による認知機能や運動障害はないとされていますが、機械の操作能力低下があり、車の運転は不適当です。精神依存に至ると、医学的に大麻使用障害と診断されます。
過量摂取による急性中毒の症状は以下の通りです。
| 中枢神経: | パニック、不安、抑うつ、幻覚・妄想、興奮、けいれん、集中力低下、運動失調、脱力、めまい、傾眠、昏睡 |
| 心血管系: | 頻脈・徐脈、血圧上昇、起立性低血圧、失神、眼球結膜充血 |
| 消化器系: | 悪心、嘔吐 |
| 離脱症状: | 落ち着きなさ、不安、不眠、食欲低下、振戦、自律神経症状 |
大麻に身体的依存はないとされていますが、精神的依存はあります。統合失調症の増悪に関与するといわれています(図3)。
図3. 各種薬物の身体的依存、精神的依存
法的規制
我が国ではTHCの化学構造を一部改変した合成カンナビノイドが1995年頃から、繁華街で販売されるようになりました。当初は法的規制がなく、ハーブなどの形態でした。合成カンナビノイドは、CB1、CB2レセプターへの親和性がTHCよりはるかに大きく、また、薬理作用もより強く、死亡例も見られるようになってきました。厚労省は新規の薬物は政令で規制薬物とし、その後、薬事法の指定薬物として規制してきました。新規薬物の出現が頻繁に見られることから、個別に指定するのは非現実的となり、2013年2月、化学構造が類似している薬物を一括して指定する包括指定とされました。名称は、合法ドラッグ→脱法ドラッグ→違法ドラッグ→危険ドラッグ(2014年)と推移してきました。
大麻は従来から、作物として栽培されてきました。大麻取締法(1948)により、栽培、販売、研究について、部位規制されてきましたが、2024年に法律改正があり、THCについての成分規制へ変更されました。現在、THCは麻薬および向精神薬取締法、麻の栽培は大麻取締法で規制されています。欧米では大麻使用が合法化されている地域があります。依存性薬物はその害とそれを禁止した場合の副作用(健康被害、密輸・密売防止のコスト増、など)を比較して、より合理的な方法が取られています。酒、タバコと同様、管理された使用を許容して、社会全体のダメージやコストを減らそうという考えがあります(ハームリダクション)。ただし、仮に合法化されても、大麻は強い精神的依存があるので、さらにより依存性の強いコカインやヘロインの使用につながるgateway drugと考えられています。欧米と異なり、我が国を始め、アジア諸国は薬物規制が厳しいのが現状です。
事件
我が国の近年の薬物事犯の検挙者は覚醒剤と大麻が大半をしめています(図4)2)。
図4. 薬物事犯の検挙者の年次推移
従来から、芸能人が大麻所持で検挙され、マスコミ報道されることがあります。また、最近、相撲界や大学の運動部における大麻汚染も話題となりました3)。つい最近、違法薬物ではありませんが、CBDの研究にからむ贈収賄事件で東大病院の医師が逮捕・起訴されたことが報道されています。
終わりに
大麻は比較的毒性が低いため、欧米では使用が合法化されている国や地域があります。そのような場所に渡航して、大麻使用を試みる人もいるかもしれません。ただ、我が国では大麻の薬理成分THCを摂取すると、麻薬および向精神薬取締法違反に問われます。また、大麻以上に毒性が強い合成カンナビノイドを含む「大麻グミ」などを過量摂取して、中毒に至ることもあります。特に、小児の誤食に注意が必要です。
(参考)
1. 上条吉人.大麻(マリファナ、ハシッシュ、ハッシュオイル). 臨床中毒学 第2版. pp.247-251. 医学書院. 2023.
2. 薬物事犯検挙人員の推移. 厚生労働省ホームページ.
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001540416.pdf
3. 大学運動部で相次ぐ違法薬物事件、厳しい上下関係も影響か…専門家「善悪の感覚がマヒしがち」. 読売新聞オンライン. https://www.yomiuri.co.jp/national/20250924-OYT1T50085/
上村 公一
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