10000年デジタルデータが保存できる記録方法の開発

皆さんこんにちは。皆さんは大事な写真などのデータをどのように保存されていますか。私は10年以上前から自分で撮った写真データをブルーレイ(Blu-ray)ディスクに保存してきました。これに保存しておけば何十年も安心だと信じていたのです。ところが、実はCD-R以来多くの人に使われてきた記録メディア(図1)のデータは長くはもたないらしいということを最近知りました。また、誠に残念なことに、この分野で世界をリードしてきた日本のメーカーの多くがブルーレイの記録再生装置だけでなく、メディアも(録画用、データ用ともに)生産を終了するというニュースが最近報じられました。ファイルはクラウドに置いておくことが一般的になり、映画やテレビ番組も自分で録画したものを置いておくのではなく、ネット配信を見る時代になってきて、販売量が落ち込んでいることが理由だそうです。

図1 光記録メディアの記録面 (上)ブルーレイディスクBD-R、(下)DVDディスクDVD-R

データの保存をどうしたらよいのかは個人の写真等のみならず、世界的な問題となっていて、様々な方法が提案されているようです。最近英国のMicrosoft Researchがガラスに記録する新しい方法を開発したと発表しました。今回は、その方法とともに、CD-R以降の記録メディアとその原理を紹介いたします。
1988年に日本の太陽誘電株式会社がCD-Rディスクを初めて商品化しました。CD-Rディスクは図2のような構造になっています。DVD-Rも同様です。データは1または0のデジタルデータですが、これを書き込むのは主に有機物の色素の層です。レーザー光を色素に照射すると色素は光を吸収して分解されます。分解されたところとそうでないところで1と0を記録します。データを読み出すときは色素が分解されないようにレーザーの強度を弱くして当てます。色素が分解されたところでは、色素の層の裏側にある反射層でレーザー光が反射されて戻ってくるので、それを検知することで、デジタルデータを読み出すのです。

図2 CD-RやDVD-Rディスクでの光記録の仕組み
(a) ディスクの断面図。レーベル面は下になっている。下に示す矢印はディスクの回転移動方向を示す。
(b) データ書き込み。強いレーザーを記録層に当て、記録層の物質を分解する。
(c) データ読み出し。弱いレーザーを当てる。記録層が分解されている場合はレーザー光は反射層で反射される。記録層が残っている場合、光は吸収されて戻ってこない。

色素としては、主として図3に示すような有機系の色素が用いられてきました1 。これらの色素は熱や環境中の光によって分解されやすいのが欠点で、これにより長期保存には向かないとされてきました。

図3 有機系光ディスクに用いられる記録層用材料の例。
(a) シアニン系色素の例  (b) フタロシアニン系色素の例

その後、書き換え可能型のCDやDVDも登場しました。CD-RWとかDVD-RAMとか言われる製品です。これらには色素の代わりに相変化材料が用いられています2 。相変化とは、温度や圧力などによって物質の状態や性質が変化することを言います。氷が溶けて水になるのも相変化ですが、固体のまま性質が可逆的に変化する物質も存在し、それらの物質を使っているのです。例えばゲルマニウムとテルルとアンチモンの合金Ge-Te-Sbの結晶は強いレーザー光を当てて加熱すると溶融し、そのまま冷却されるとアモルファス状態(原子がランダムに並んだ状態)になります。その後弱いレーザー光で溶融しない程度に加熱することで結晶状態に戻ります。図4にその概念図を示しました。結晶状態とアモルファス状態では光の反射の度合いが大きく異なるので、それをごく弱いレーザー光をあてて読み出すのです。相変化型もやはり長期保存には向かないとされています。

図4 無機系書き換え型光ディスクの原理
(a) 結晶相
(b) レーザー光を当てることでアモルファスとなる
(c) 弱いレーザー光を当てることで元の結晶相に戻る

さて、今回発表された記憶媒体はガラス です。石英ガラスまたは硼珪酸ガラス内部に強力なレーザー光を用いてデータを記録するもので、石英ガラスは高価ですが、硼珪酸ガラスは家庭でも耐熱ガラスとして使われている安価なものです。冒頭に記した研究機関内のMicrosoft Research Project Silica Teamというグループで研究を行い、なんと10000年以上の耐久性がある記録方法を開発した3というのです。
フェムト秒(1 fs = 10-15 s)レーザーと呼ばれる、ごく短時間に非常に強力な光を毎秒1千万回出すことができるレーザーを用いて研究が行われました。2つの記録方法が論文では述べられていますが、そのうち硼珪酸ガラスに記録する方法では、角型(120㎜四方)のガラス板を使います。厚さ2㎜のガラス板の内部になんと300層のデータを記録する層を作って記録するというものです。アクセサリや置物として、ガラス内部に動物などの像を立体的に作りこんだものがありますよね。あれと原理的には似ていると思います。記録と読み出し方法は極めて複雑なのですが、概略を図5に示しました。各層は上から見ると0.7μm×0.5μmの大きさの区画ごとにレーザーが当たり、ここにデータが記録されます。異なる層に記録するときはレーザー光の焦点の位置を変えて記録していきます。読み出すときはガラス板の上から読み出したい層にピントを合わせて、一度に多くのデータを読み出すという仕組みです。実験に使っている多くのコンポーネントのうち重要な部分にMitutoyo、Olympus、Hamamatsuといった日本メーカー由来の製品が使われており、なんとなくうれしく感じました。

図5 ガラス内にデータを書き込む方式
(a) ガラス内に泡をレーザーで書き込んだアクセサリ。
(b) 新たに開発された記録方式で用いられたガラス板
(c) 上から見た時のガラス板の一部の拡大図。4本のレーザービームで特定の層に同時にデータを書き込んでいく。
(d) ガラス断面一部の拡大図。データを読み出すときは特定の層のある面積の部分を一度にカメラで読み込む。

今回の方法では、先ほどのガラス板(120 mm×120 mm×2mm)に4.8 TB(テラバイト)のデータを記録することができ、寿命は10000年を超えると見積もられたそうです。2層ブルーレイが50 GBですから、ブルーレイディスク100枚分になりますね。4本のレーザービームで同時に記録すれば100 M bit/sの速度(実質の5G通信速度程度)で書き込めるそうです。
この装置をこのまま市販すると1億円位?しそうですが、そのうちこのようなやり方でデータを長期保存可能なディスクにしておくサービスが使えるようになるかもしれませんね。はてさて私の写真データは当面どうしておけばいいでしょうか。ではまた次回。

  1. 前田修一、色材協会誌、2002, 75, 172-175. https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/75/4/75_172/_pdf/-char/ja
  2. 太田 威夫、応用物理、2000, 69, 73-75. https://doi.org/10.11470/oubutsu1932.69.73
  3. Microsoft Research Project Silica Team, Nature, 2026, 650, 606–612. https://www.nature.com/articles/s41586-025-10042-w
    (オープンアクセスなので、誰でも読めます)
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坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっていました。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。