メタンと二酸化炭素は、温暖化を促進する気体としてよく知られています。また、それらは反応させて別の物質に変えて利用することが困難な気体としても有名です。しかし温暖化抑止などの環境問題、そしてエネルギー問題解決のためにこれらの気体分子を有用な物質に変えることは重要な課題です。光のエネルギーや触媒を利用してこのような反応を進めようとする試みは以前から行われています。
光はその波長(またはエネルギー)によって図1のように分類されます。目に見える光は波長がおおむね400-700 nmの光とされています。これより短波長(高エネルギー)の光が紫外線、長波長の光が赤外線です。紫外線の中で200 nmより波長が短い光は遠紫外線と呼ばれ、空気中の酸素や水蒸気によって吸収されるので地表には届きませんし、実験室での実験でも特別な用具が必要です。
図1 光の分類。光の波長が短いほど高エネルギーである。
メタンや二酸化炭素は通常実験で用いられる光(可視光や紫外線)を吸収しないので、それらの光を当てても何も起きません。しかし遠紫外線ならそれらに反応を起こさせることができます。例えば1992年に大阪大学の研究者を含む研究チームは、特別なレーザーから出る158 nmの光をあてると二酸化炭素とメタンが反応することを見つけました1。また、2008年に米国の研究者たちは116.5と123.6 nmの光をメタンに当てると炭素数の多い炭化水素が生成することを見つけました2 。ごく最近、中国の研究者たちは、185 nmの遠紫外線を含む光を出し、比較的容易に入手可能な水銀ランプを使って、メタンと二酸化炭素の混合気体に光を当てる実験を行い、触媒を全く使わなくてもエタン(C2H6)や工業原料となる一酸化炭素(CO)が生成することを見出しました3。
通常低圧水銀ランプと呼ばれているもの(蛍光灯もその一種です)は、254 nmの光(およびそれより波長の長い光)を発します。特別な材料を使った水銀ランプは185 nmの光も出すことができ、オゾン発生装置などに利用されています4。今回発表された研究ではそのような遠紫外線ランプを用いて実験を行っています。

図2 メタンと二酸化炭素から燃料ガスをつくる実験の概略。
今回の研究の概要を図2に示しました。この実験で用いた光源の特徴は、185 nmの遠紫外線だけではなくて、通常の紫外線(254 nmなど)、可視光、近赤外線も同時に発することです。以後単に光を当てたといった場合はその光源の光を指します。この研究では、まずメタンのみの気体に光を当てると水素とエタンが発生しました。二酸化炭素のみの場合は光を当てても反応は全く見られませんでした。メタンと二酸化炭素を等量混合した気体に光を当てた場合はエタンの発生量が増加し、さらに一酸化炭素が生成しました。もとの混合気体に、遠紫外線を除いた254 nm以上の波長の光を当てた場合は全く反応は進行しませんでした。当初の光源の光とキセノンランプ(200-1000 nmの光を含む)を同時に当てると、水素、エタン、一酸化炭素の発生量がさらに増加し、加えてプロパン(C3H8)も少量生成しました。また、少量の水を添加すると水素とエタンの生成量が数倍増加しました。
これらの実験結果と、密度汎関数法という理論を使った計算から、この反応がどのようにして進むのかが考察されています。その概要を示したのが図3です。まず反応が始まるには遠紫外線が必要です。遠紫外線がメタンを分解し、CH3部分(不安定でラジカルと呼ばれる)とH部分(Hラジカル)に分かれます。それぞれのラジカル同士が結合するとエタンと水素H2となります。またHラジカルは非常に反応しやすいので、二酸化炭素と反応して図の☆で示す物質が一時的に生成し、さらにそれらにHラジカルが反応して別の物質※1と※2が生成し、これが分解して水と一酸化炭素が生成するという機構が提唱されました。計算によれば、※1と※2から最終的に一酸化炭素ができる反応を起こすためにはエネルギーが必要ですが、それには近赤外や可視光の光で十分であるということが示されました。このことから、遠紫外線や紫外線だけでなく、可視光も同時に当てると反応が効率よく進むと推察されています。
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図3 メタンと二酸化炭素から燃料ガスが生成するときの予想反応機構
(論文の考察図を簡略化したもの)。詳細は本文参照してください。
今回の研究では、24時間の光照射で原料気体中の1.5%が生成物に転換されたという結果が得られました。決して多い数値ではありませんが、全く触媒を使わずにこの結果が得られたのは特筆すべきでしょう。この研究は将来宇宙で燃料や化学原料を得るために重要な方法になりうるとも評されています5。今回用いた光源が高価なレーザーではなく、入手しやすい遠紫外線ランプで、通常の紫外光や可視光も混ざっていたことが、実験がうまくいった秘訣だったのかもしれません。アイデア次第で画期的な研究がまだまだできることを示しているようにも思います。それではまた次回。
1 M. Kojima, Y. Ojima, N. Nakashima, Y. Izawa, T. Akano and C. Yamanaka, chem. Lett., 1992, 21, 1309–1312. https://doi.org/10.1246/cl.1992.1309
2 A. R. Derk, H. H. Funke, and J. L. Falconer, Ind. Eng Chem. Res. 2008, 47, 6568-6572.
https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ie0712840
3 J. Zhai, R.-Y. Wang, X. Chen, B. Zhou, Z. Xia, H. Wu, T. Xue, S. Jia, C. Chen, L. Jing, M. He and B. Han, Nat. Photon., 2026, 20, 63–70. https://www.nature.com/articles/s41566-025-01800-3
4 2017年に発効したいわゆる水銀条約によって、一般照明用のランプへの水銀の使用が禁止され、蛍光灯も2027年末までに製造・輸出入が禁止されますが、特種用途の水銀ランプは当面使用できるようです。
5 P. Patel, Chem. & Eng. News, December 9, 2025. https://cen.acs.org/energy/Light-turns-carbon-dioxide-methane/103/web/2025/12
坪村太郎
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