ケイ素(Si)-情報社会を支える元素

ケイ素を含む物質は,水晶(石英)・ガラス・ケイ砂などが古代から知られ,シリカ(二酸化ケイ素)は18世紀までは元素であると考えられてきました。フランスのA.ラヴォアジエの著書『化学原論』にある元素表には,「塩をつくる土類の元素」として,シリカが石灰,苦土,重土,アルミナと共に挙げられています。

 

ケイ素の単離と名称,そして漢字

ラヴォアジエは,フランス革命が起きた1789年に『化学原論』(Traité Élémentaire de Chimie)を出版しました。その中には現在の元素に相当する「単一物質」(Substances simples)の一覧表があり,カロリック(熱素)なども含む33の「単一物質」が挙げられています。同書は,気体の生成分解(第一部),酸・塩基・塩(第二部),化学の実験器具とその操作(第三部)から成り,出版後の10年間,欧州における標準的な教科書とされました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラヴォアジエの「単一物質」(元素表)
(最終行にシリカ(Silice)が挙げられている)
出典:”Tableau des substances simples of Antoine Lavoisier”ライセンスはPD(WIKIMEDIA COMMONSより)

 19世紀になると,シリカは未知元素の化合物であると考えられるようになりました。イギリスのH.デーヴィーはケイ酸をアルカリに溶かして電気分解を行いましたが,単体を得ることはできず,次いでフランスのJ.ゲイ・リュサックが,石英とフッ化水素酸(HF)から得た四フッ化ケイ素(SiF)の気体をカリウムと反応させて赤褐色の固体を得ましたが,これは不純な単体と考えられました。
1824年,スウェーデンのJ.ベルセリウスは,ゲイ・リュサックが行った方法を再検討し,精製された単体を得ることに初めて成功しました。1854年には,フランスのH.ドヴィルが,ナトリウムとアルミニウムとの混合塩化物の融解塩電解で陰極に析出した物質を酸に溶かし,アルミニウムを分離したのと同時にケイ素を得ました。

ケイ素の名称の語源は火打石を表すラテン語のsilexシレクスです。デーヴィーは,これを語幹としたsiliciumシリシウムを1808年に提案し,ドイツ語,フランス語では今でも元素名として使われています。これに対して英語のsiliconは,イギリスのT.トムソンが非金属元素であるホウ素(boron)や炭素(carbon)にならい,語尾を-onとしたものです。一方でベルセリウスは,母国での呼び名からkieselキーゼルと命名しました。今でもシリカゲルは「キーゼルゲル」と呼ばれることがあります。

漢字では「珪素」や「硅素」が使われます。「珪」は皇帝が諸侯に授ける宝石を表し,「珪素」は,kiezel(オランダ語では砂利,丸い小石の意味)に「珪砂」の字を当てたことが元素名に受け継がれたとされます。
では「硅」はどうでしょうか。元素を表す漢字では,気構え(气)は気体,金偏かねへんは金属元素,石偏は非金属元素を表します。石偏の漢字では,ホウ素の「硼」,硫黄の「硫」,ヒ素の「砒」はよく見かける方ですね。リンは「磷」よりも「燐」がよく使われるようです。以下には,中国で元素記号の漢字表記に使われる字のうち,石偏のものを挙げておきます。
石偏に炭(碳)=炭素(C)    石偏に申(砷)=ヒ素(As)
石偏に西(硒)=セレン(Se)   石偏に帝(碲)=テルル(Te)
石偏に典(碘)=ヨウ素(I)   石偏に艾(砹)=アスタチン(At)

『舎密局必携』にある漢字の元素記号
(「国際周期表年2019」の展示,名古屋市科学館)

 写真は『舎密局必携』(1862(文久2)年刊)にある元素一覧表です。同書は,写真術師の上野彦馬が湿板写真術の付録として蘭語を読めない学生のために作成したもので,明治初期まで化学の教科書として使われました。『舎密局必携』には57の元素名が挙げられ,漢字による当て字表記と,漢字1字または2字を用いた符丁(記号)が列挙されています。ケイ素は,デーヴィーが提案したsiliciumを「悉里叟母シリシユム」とし,その符丁は「悉」です。

 

地殻中で酸素に次いで多い元素

ケイ素は自然界にはケイ酸塩,酸化物として広く岩石に含まれ,地殻中の存在量(クラーク数)は酸素に次ぐ多さです。ケイ素は,半導体材料としてトランジスタ(増幅や発振などを行う素子),ダイオード(整流を行う素子),太陽電池などに使われ,シラン(水素化物),シリコーン(ケイ素を含む合成高分子)のほかに,フェロシリコン(ケイ素鉄)などの合金としても重要です。

上記のうち,シランはSiHとその類縁体の総称です。ケイ素は炭素と同族の元素ですから,有機化合物の炭素原子をケイ素原子に置き換えた形の化合物をつくります。例えば,メタン(CH)の炭素をケイ素に置き換えた化合物がシラン(SiH)です。シラン類縁体のいくつかは多結晶ケイ素の原料になります。

 

 

 

ケイ素の単体
 (左)多結晶ケイ素
 (右)単結晶ケイ素(ウエハ,直径12㎝)

 

 

半導体の原理とケイ素の役割

ケイ素の単体は,電気炉内でケイ石(酸化ケイ素)をコークスで還元することによって純度99%程度のものが得られます。半導体用の高純度ケイ素をつくるには,先ず炭素還元で得られた単体をテトラクロロシラン(SiCl)やトリクロロシラン(SiHCl)などの中間体に導きます。これらは沸点が低いので蒸溜によって精製され,精製後に熱分解して高純度ケイ素とします。こうして得られたケイ素の純度は通常99.99%(フォー・ナインズ)以上で,99.9999999%(ナイン・ナインズ)のものもつくられています。

半導体は,電気伝導性について良導体と不導体(絶縁体)の中間の性質を示す物質で,電圧を大きくすると電流が生じ,電圧が小さいと電流は流れません。
ケイ素の場合は,下図のように,高純度ケイ素にホウ素,アルミニウムなどのⅢ価元素を添加するとp型半導体(電荷を正孔(電子の空所)が運ぶ)になり,リン,ヒ素などⅤ価元素を添加するとn型半導体(電荷を自由電子が運ぶ)になります。そしてこれらの添加量にほぼ比例して抵抗率(比抵抗とも,単位断面積及び単位長さ当たりの電気抵抗でSI単位は[Ωm],その逆数は電気伝導率)が減少します。

LSI(大規模集積回路)や,LSIがさらに大規模化したVLSI(超大規模集積回路)などは,こうしてできたp型半導体またはn型半導体を原料として作られます。具体的には,先ず単結晶をつくり,これを薄板(ウエハ)にしてから研磨し,その表面に素子を形成してチップ(集積回路が乗った基板)とするのです。

 

参考文献■
「元素大百科事典」渡辺 正監訳(朝倉書店,2008年)
「元素の名前辞典」江頭和宏著(九州大学出版会,2017年)

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園部利彦

2017年まで岐阜県の高校教諭(化学)。非常勤講師として2019年に名古屋工業大学「科学史」(工学部二部),2020年に名古屋経済大学「生活の中の科学」(全学部共通)を担当。趣味は鉱山の旅とフランス語。