スカンジウム(Sc)-スウェーデンの二人が発見した元素

 スカンジウム(21Sc),ガリウム(31Ga),ゲルマニウム(32Ge)は,かつてD.メンデレーエフがそれぞれエカホウ素(Eb),エカアルミニウム(Ea),エカケイ素(Es)と予言した元素で,いずれも元素の発見者の母国の名前から命名されました。これらの元素が予言からほどなくして発見され,しかもその性質が予測とよく一致したことは,メンデレーエフの周期表の証左となりました。今回はスカンジウムをご紹介します。

予言から発見まで

周期律の発見以前にも,元素の存在に関する予言は周期律とは別に少数の科学者によってなされ,メンデレーエフ以外にも周期律を提唱した科学者がいくつかの元素の存在を予見しています。現在よく用いられる長周期表ではスカンジウムはホウ素と同族ではありませんが,当時用いられた短周期表では共にⅢ族に配置されていました。

短周期型周期表
高等学校・化学B教科書「新訂 化学」(開隆堂,1972年)をもとに作成

 1871年,メンデレーエフは,エカホウ素,エカアルミニウム,エカケイ素のほかにも次の元素の存在を予言しました(⇒ゲルマニウム(エカケイ素)についてはココをクリック)。なお,次の括弧内は,メンデレーエフが予測した原子量から比定できる現在知られている元素です。

スウェーデンの分析化学者L.ニルソンはJ.ベルセリウスの門下に入り,稀土類元素とその化合物の化学的・物理的定数を測定して周期律を検証する中で,後述するユークセン石(Euxenite)に出会いました。ニルソンは,10㎏のユークセン石から得た63gのエルビア(下図で下線のあるエルビア)を原料としてイッテルビア(下図で下線のあるイッテルビア)を分離し,それよりも塩基性の小さい未知の稀土類化合物を得ました。

ニルソンは,それがメンデレーエフによって1871年に予言されていたエカホウ素の性質にかなりよく一致することをつきとめ,故国の古名スカンジア(Scandia)に因んでスカンジウムと命名しました。1879年のことでした。現在,北欧の半島の名前などになっているスカンジナビア(Scandinavia)は,元々はスウェーデンの最南部にあるスコーネ(Skåne)地方に由来する地名です。

ニルソンとほぼ同時期に,スウェーデンの化学者P.クレーベもまた,稀土類元素の研究でユークセン石を分析し,エカホウ素にあたる元素の存在を明らかにしました。
次の表は,メンデレーエフが1871年に予言したエカホウ素と,ニルソンが1879年に発見したスカンジウムの性質を対比したものです。

メンデレーエフは,存命中に三つの元素が現実に発見されたことについて,自身が編纂した『化学の原論』に次のように記しています。
-“1871年に未発見元素の性質決定に周期律を適用することについて論文を書いたときはその周期律の結果が実証されるまで生きのびることはなかろうと思ったが,実際はそうではなかった。私は論文の中で三つの元素-エカホウ素,エカアルミニウム,エカケイ素-のことを書いておいたが,それからまだ20年もたたないうちにこの元素が三つとも発見されたのを知ってとてもうれしかった。

 

 

 

メンデレエフスカヤ駅(モスクワ地下鉄9号線)
出典:Mikhail (Vokabre) Shcherbakovによる”Mendeleevskaya”ライセンスはCC BY-SA 2.0(WIKIMEDIA COMMONSより)

エカホウ素,エカアルミニウム,エカケイ素をそれぞれ発見したニルソン,ボアボードラン,ヴィンクラーの三人については,“私はこの人たちを周期律の真実の強化者であると思う”と賞賛し,周期律については“将来において破壊されるおそれはなく,その建て増しと発達だけが約束されている”と断言しています。

その一方で,メンデレーエフにとって,稀土類元素を自身の周期表中に配列することは,いわゆる「エカ元素」とは異なる難しさをもった課題でした。当時は未発見の稀土類元素があり,総括的に考えられる段階ではなかったのです。例えば,稀土類元素は+Ⅲ価と考えられていたので,メンデレーエフはこれを周期表のⅢ族に置きましたが,セリウムは安定な+Ⅳ価をとることから,Ⅳ族に置いています。

 

スカンジウムの資源と用途

スカンジウムの単体は銀色の軟らかい金属(0℃での密度3.0g/㎤,融点1539℃,沸点2831℃)で,空気中で酸化されて淡黄色ないしはピンク色の酸化物を生じます。スカンジウムを含む鉱石には,ユークセン石やトルトベイト石(Thortveitite)があります。
ユークセン石は,1870年にドイツの化学者C.シェーラーによってノルウェーで発見されました。これをシェーラーが分析すると,タンタル,チタン,イットリウム,セリウム,ランタンなど多くの元素が含まれていることが判ったので,ギリシア語で「見知らぬ者の受容,客人扱いの良さ」を意味するευξεινοςユークセイノスから名付けられました。また,トルトベイト石は,1910年にノルウェーでペグマタイトの地層中にO.トルトベイトによって発見されました。トルトベイトはノルウェーの技師で,ペグマタイト鉱物の収集家でもありました。

    
[左] ユークセン石
出典:Robert M. Lavinskyによる”Euxenite-(Y)”ライセンスはCC BY-SA 3.0(WIKIMEDIA COMMONSより)
[右] トルトベイト石(白色部分は長石)
出典:Robert M. Lavinskyによる”Thortveitite”ライセンスはCC BY-SA 3.0(WIKIMEDIA COMMONSより)

スカンジウムの用途としては,固体酸化物形燃料電池(例:酸化ジルコニウム(Ⅳ)(ZrO)に酸化スカンジウム(Ⅲ)を固溶させた固体電解質を用いる電池),照明用光源(例:ヨウ化スカンジウム(Ⅲ)(ScI)を用いた高輝度メタルハライドランプ),スカンジウム・アルミニウム合金などが挙げられます。

近年のスカンジウムの世界での生産量は年間約15㌧,消費量は年間10~15㌧程度と小規模です。スカンジウムは,地殻中の存在量は少なくないものの,稀少元素になっています。その理由は,スカンジウムが多くの鉱産物に含まれながら,鉱床中に濃集していることが少ないからです。スカンジウムは,反応性が高いことに加えて高価なことから,応用に関する開発はあまり進んでいませんが,用途の拡大に伴って供給が不足する傾向にあります。

スカンジウムの用途のうち,スカンジウム・アルミニウム合金の用途開発が始まったのは,1971年にアメリカで特許が出されてからのことです。現在では,航空宇宙用部品の材料,スポーツ用品の材料などに用いられています。
アルミニウムにスカンジウムを少量(0.1~0.5%程度)混ぜると強靭な合金になります。スカンジウム・アルミニウム合金の結晶構造はアルミニウムよりも細粒かつ均質で,熔接時の加熱部分での再結晶化や結晶粒成長が抑制されるため,通常のアルミニウム合金では困難な熔接が可能になります。熔接が可能になれば,従来の手法である鋲(リベット)打ちと補強材による裏打ちなどが不要になるため,航空機の製造が迅速化し,機体の軽量化・強化が図られます。
スカンジウム・アルミニウム合金が最初に使用されたのは潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)のノーズ・コーン(nose cone)とされます。この合金によってノーズ・コーン(弾頭部分)が強化されたことにより,水面下の潜水艦から発射されたミサイルが海氷を貫いても破壊しない強度が確保されました。

 

 

 

 

 

潜水艦発射弾道ミサイルのトライデントⅡ(D5)
出典:”Trident-ii d5”ライセンスはPD(WIKIMEDIA COMMONSより)

 

 

参考文献
希土類元素の探求(3),奥野久輝,現代化学・1972年3月(東京化学同人)
「メンデレーエフ伝 元素周期表はいかにして生まれたか」G.スミルノフ著,木下高一郎訳(講談社,1976年)
「周期系の歴史 上巻:その前史・発見・発展」J.スプロンセン著,島原健三訳(三共出版,1988年)
「周期系の歴史 下巻:個々の問題とその解決」J.スプロンセン著,島原健三訳(三共出版,1988年)
「元素発見の歴史3」M.ウィークス・H.レスター著,大沼正則監訳(朝倉書店,1990年)
「古典化学シリーズ9 化学の原論(上)」D.メンデレーエフ著,田中豊助・福渡淑子訳(内田老鶴圃,1990年)
「古典化学シリーズ9 化学の原論(下)」D.メンデレーエフ著,田中豊助・福渡淑子訳

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園部利彦

2017年まで岐阜県の高校教諭(化学)。非常勤講師として2019年に名古屋工業大学「科学史」(工学部二部),2020年に名古屋経済大学「生活の中の科学」(全学部共通)を担当。趣味は鉱山の旅とフランス語。