レンガで作るスーパー電池

皆さんこんにちは。今日は何千年も前から使われている材料を使って新しい電池が作られたという研究成果1をお伝えします。電池とはいっても、今回のものは普通の電池ではなく、コンデンサの一種です。コンデンサ(英語ではcapacitor)は、2枚の金属板で物質をはさみ、両極に正と負の電圧をかけると電気を貯えることができるものです(図1)。コンデンサはさまざまな目的のためにPC、スマホを始め多くの電気製品に大量に使われています。従来のコンデンサはそれほど多くの電気をためることができなかったので、エネルギーを貯えるという観点では有用なものではありませんでしたが、近年スーパーキャパシタと呼ばれる新しい高容量のコンデンサが世の中に出てきて、ハイブリッド自動車などの電池の代わりにする研究が進められています。すでに安いものは1個100円程度で売られているものもあり、実際に製品にも使われています。以前のコンデンサは通常使われるものは容量が大きなものでもせいぜい数千μF(マイクロファラド)2程度でした。ところがスーパーキャパシタは写真(図1B)と同程度の大きさの製品でも1 F程度の容量があります。つまり同じ大きさでも従来のコンデンサの1000倍程度の電気を貯えることができるのです。

図1 (A) コンデンサの概念図。2枚の電極の間に誘電体をはさみ+と-の電圧を加えることで電荷が蓄積される。 (B) パソコンのマザーボード上での従来型コンデンサの例。矢印で示したのがすべてコンデンサ、高さ約2cm。

 スーパーキャパシタは通常のコンデンサとは全く異なる構造であり、電気二重層というものを利用しています。図2に示すように、陽イオンと陰イオンが溶けている溶液に電極を浸し、正の電圧を掛けます。すると電極のすぐそばに陰イオンが集まってきます。イオンの周りには溶媒分子が取り囲んでいるので、非常に単純に考えれば、溶媒分子のサイズだけ間を空けて+の電荷と-の電荷が向かい合う形になります。これが電気二重層で、まさにコンデンサと同じと考えることができます。コンデンサは+と-の電極間の距離が小さいほど多くの電荷を蓄えることができますが、電気二重層ではその距離が分子サイズと非常に短いのでそれだけ多くの電荷をためることができるのです。実際のキャパシタを作るには2つの電極を溶液につけて2つの電気二重層を向かい合わせにしたかたちとします。

図2 (A) 電気2重層の概念図。金属電極を電解質溶液に浸し、+の電圧をかけると溶液中の陰イオンが電極に近づき、電極中の+電荷と二層を形成する。これは一種のコンデンサとみなすことができる。  (B)  電気二重層コンデンサまたはスーパーキャパシタと呼ばれるものの概念図。2つの電極に正と負の電圧を加えると、逆の電荷を持つ2組の電気2重層ができ、それぞれに電荷を蓄えることができる。

 前置きが長くなりましたが、今回のニュースは、レンガを原料としてこのスーパーキャパシタを作り、電池として機能することを示したというものです。近年実用化されているスーパーキャパシタは活性炭などの炭素材料を使っています。活性炭の特徴は表面積が非常に大きいことで、その性質を利用して空気中や水中の不純物を吸着除去したりすることができます。多くの電気をためるには広い電極の表面積が必要なのです。さて、米国のWangらはレンガが多孔質の材料であり表面積が大きいことに着目しました。レンガは絶縁体ですが、研究者たちはレンガの細部にわたり導電性の材料でコーティングすることを考えたのです。レンガはご存じのように赤色をしていますが、これは鉄の酸化物に由来します。導電材料として有機伝導体であるPEDOTと呼ばれる材料は近年よく研究に用いられていますが、これを合成するには図2のように鉄を触媒として用いる方法が知られています。そこでレンガにPEDOTの原料をしみこませ、レンガ内に含まれる鉄を触媒として、PEDOTをレンガの表面と内部で合成することを考えました。実際にやってみるとその反応が起こり、PEDOTでコーティングしたレンガが得られました。このレンガ(1個 1 cm × 0.5 cm × 0.28 cmの大きさ)を2つ組み合わせて硫酸中に浸すことでスーパーキャパシタ素子が作られました。この素子は貼り合わせた部分の断面積1 cm2あたり1.6 Fの電気容量をもち、優秀なキャパシタになり得ることが示されたのです。この素子を3つ直列にして充電すると2.68 Vの電圧がえられ、LEDを点灯させることができました。3さらに使いやすくするために溶液ではなく、ゲル状の電解液を用い、素子全体をプラスチックで覆うことで、機械的にも安定で-20℃から60℃まで使用可能なスーパーキャパシタとなったということです。この素子は10000回の充放電後でも当初と同じ電荷をためることができるそうです。これは普通の充電池には見られないスーパーキャパシタの特長です。

図3 (A) EDOTからPEDOTが合成される化学式。 (B) レンガのまわりと内部にPEDOTのコーティングを作る操作。 (C) 作成したレンガを2つ合わせ、電極をつけて作られたキャパシタ(図は論文から引用し、写真中の図番号を表す記号部分を削除した。この論文はCreative Commons Attribution 4.0 International License(CC BY)にもとづき内容の複製が認められているhttp://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

 今回はレンガから電池をつくるというお話しでした。古い材料が最先端の素子になるというのは面白いですね。ではまた次回お会いしましょう。

 

1)Wang, H.; Diao, Y.; Lu, Y.; Yang, H.; Zhou, Q.; Chrulski, K.; D’Arcy, J. M. Nature Communications 2020, 11 (1), 3882. https://doi.org/10.1038/s41467-020-17708-1. 本論文はオープンアクセスで誰でも読むことができます。レンガの電池の写真も載っています。
2)「ファラド(F)」はコンデンサの容量の単位。
3)LED点灯の様子はビデオをダウンロードしてみることができます。

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坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。