くさいもと!?臭素を使った実験

元素記号Br、元素番号35の元素、臭素。その英名も「悪臭」の意をもつギリシャ語bromosを由来としている。非金属元素の中では常温・常圧で液体となる唯一の元素である。常温・常圧で揮発しやすく、激しい臭気を放ち有毒性と腐食性があるため、密栓が必要である。

ガラス瓶内の臭素(液体)
W. Oelenによる https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bromine_25ml_(transparent).png ライセンスはCC-BY-SA-3.0

 

1826年、フランスの化学者バラ―ルによって塩湖の水から分離され、臭素は彼による発見とされる。臭素は海水中に約60 ppm含まれ、推定資源量は100 兆トンと見積もられているほど地球上に豊富に存在する元素と言える。臭素の用途は、以前は写真の感光体として臭化銀AgBrがよく用いられていた。また、臭素を含む合成有機化合物誘導体は、難燃剤、殺菌剤、農薬、医薬品、工業原料などに広く利用されている。

 

日本における臭素の製造の歴史は、第二次世界大戦における海軍が航空機燃料のアンチノック剤用添加剤の原料として、臭素が必要になったことに始まる。写真のような臭素蒸留塔の中には、なんと竹材の充填剤が用いられた。竹材は東洋曹達工業(現・東ソー)によって選択され、半年程度の寿命とも予想されていたのにも関わらず10年以上も使用でき、日本の臭素の安定な生産に貢献した。

 

 

 

(右)臭素製造用の石製蒸留塔(マナック(株)所蔵)写真提供ご協力:マナック株式会社および日本化学会化学遺産委員会

 

 

 写真提供ご協力:東ソー株式会社

 

 

 

実験1 臭素の付加反応

 

アルケンは、分子内に二重結合を有するため、アルカンに比べると水素の数が2個少ない。二重結合は反応性が高いため臭素Br2と反応し、臭素が付加した化合物を形成する。動画では、シクロヘキセンに臭素水を反応させると、茶褐色であった臭素水が無色透明になる。

試験管に、ヘキサン、1-ヘキセン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、ベンゼンをそれぞれ入れる。それぞれの試験管に臭素水を滴下してから、よく攪拌して変化を見る。また、順序としては先に臭素水を入れてもよい。

ヘキサン、1-ヘキセン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、ベンゼンがそれぞれ入った試験管に臭素水を滴下してよく攪拌し、変化を観察する。

 

ヘキサンとシクロヘキサンには臭素付加は起こらず臭素水の色は消えない。しかし、1-ヘキセンとシクロヘキセンには臭素付加が起こり液は無色透明になる。ベンゼンには臭素付加は起こらないので臭素水の色は消えない。

 

動画:アルケンへの臭素付加

動画および情報提供ご協力:都留文科大学教養学部学校教育学科 山田暢司特任教授

 

 

 

実験2 液体臭素と金属アルミニウムの反応

 

液体臭素2~3 mLと市販のアルミニウムホイル10 cm角程度のものを棒状に丸めたものを準備する。ドラフトチャンバー内など安全な場所で試験管を試験管立てに設置し、そこに液体臭素を入れたあと、アルミニウムホイルを入れると激しい反応が始まる。

臭素とアルミニウムが激しく反応をはじめ、アルミニウムは融解して白熱して液化する。アルミニウムの蒸気と臭素が反応して、反応式が示すように臭化アルミニウムAlBr3が生成する。しかしアルミニウムのほとんどが融解しただけで、反応終了後に冷却されて固体の塊上の金属アルミニウムとして残る。また、反応中に見られる煙の中では、臭化アルミニウムの二量体Al2Br6(s)も形成される。

2Al(s) + 3Br2(l) → 2AlBr3(s)

この反応の直後に、水を加えると臭化アルミニウムが水と激しく反応して水和アルミニウムイオンが形成される。ただし、すぐに次式のような加水分解反応を生じるので、臭化水素HBrの水溶液(臭化水素酸)となる。

(左)液体臭素とアルミホイルの反応 (右)反応がおさまってすぐに水を滴下した様子

 

 

Al(H2O)63+(aq) + H2O(l) → Al(H2O)5(OH)2+(aq) + H3O+(aq)

 

動画:Reacting Bromine and Aluminum

動画提供ご協力:NileRed  https://nile.red/

 

 

 

 

参考文献・参考資料

臭素化学懇話会のホームページ

http://www.bromine.chem.yamaguchi-u.ac.jp/

 

日本化学会、化学遺産のページ

認定化学遺産 第056号 『苦汁・海水を原料とする臭素製造設備と磁製容器』

https://www.chemistry.or.jp/know/heritage/12.html#056

 

金本尚真、「ケミカルス覚え書き 臭素」、有機合成化学 第47巻 第12号、p.1167-1168 (1989)

 

藤川卓志・田中義靖、「忍者のような臭素の実験―化学平衡における臭素の教材化―」化学と教育 55巻4号、p.166-167(2007 年)

 

YouTube動画:アルケンへの臭素付加
「https://www.youtube.com/watch?v=z2QFVkxlK1Y&t=24s」

Royal Society of Chemistry , Education in Chemistry, “The reaction between aluminium and bromine”

https://edu.rsc.org/exhibition-chemistry/the-reaction-between-aluminium-and-bromine/2020075.article

 

YouTube動画:Reacting Bromine and Aluminum
「https://www.youtube.com/watch?v=ZpQkgM0msj4」

 

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山﨑 友紀

山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。