地球は酸素だらけ

今回は、元素記号O、原子番号8番の元素「酸素」について紹介しよう。
地球を構成する元素のうち、酸素は重量比で約30%を占めており、鉄についで2番に多い(Masonら1966年)。酸素は大気にも、水にも、生物の体にも、岩石にも、人工的に作られた建造物にも、地球上ならどこにでも存在していることに気づく。地球はどうやら酸素だらけのようだ。

酸素の働き

もともと酸素は地球外の宇宙で作られ、隕石などとなって地球に運ばれたわけであるから、そこには地球や宇宙の長い歴史的な時間スパンを知らされる。また、地球の大気に含まれる酸素は、光合成産物によってのみ形成されたわけでなない。大昔まだ生物が誕生する前、地表に降り注いだ太陽からの強い紫外線によって水分子が分解され、緩やかに酸素濃度が増えたとされている。のちにシアノバクテリアなどの光合成植物が発現し、順に今の濃度にまで増えていった。

その途中過程では酸素が紫外線の影響を受けてオゾンO3になり、オゾン層が地球に形成された。現在そのベールによって私たちは太陽からの強い紫外線から守られている。オゾンは酸素の同素体であるが、酸素O2よりも高い酸化力を持つため、殺菌、脱臭、漂白の効果がある。水道水を作る浄化設備でも高度浄化技術のひとつとして利用されている。

酸素は敵か味方か?

生物は、酸素を細胞内のミトコンドリアに取り入れることで呼吸をし、生きていくためのエネルギーを獲得している。特にヒトの“脳”はとくに酸素を多く必要とする器官であり、酸欠になると活動に支障が出るばかりでなく、後遺症が残ることもある。

酸素の化合物はときによって“良者”にも“悪者”にもなることをご存知だろか。ヒドロキシルラジカル HO•や、スーパーオキシドアニオンO2 などの活性酸素は反応性に富み、強力な酸化力をもつ。これらはさまざまな物質を分解できるので、漂白剤や防カビ剤として家庭でも工業的にも利用される。

一方、ヒトの肌のシワやシミ・そばかす、または癌細胞の発生などにおいて、これらの活性酸素が関与することもわかっており、近年“抗酸化・・・”と銘打った商品が化粧品や食品などの業界で増えている。

さて次に、酸素に関する実験を二つ紹介しよう。

実験1 液体窒素と液体酸素(色と磁性)

液体窒素(左)と液体酸素(右)の写真 (川口液化ケミカル株式会社様より提供)

写真のように液体窒素に色はないが、液体酸素には色がある。液体酸素の青い色を実験室で再現したい場合、酸素ガスで充満されたゴム風船を試験管に取り付け、風船部分または試験管を液体窒素(沸点-196℃)に付けて冷やしていくと試験管に液体酸素(沸点-183℃)をためることができる。液体酸素は常磁性であるため磁石に対する応答を確認することもできる。

また、動画(下記リンクをクリック※画像が90度回転して表示されますがご了承ください)が示すように、液体酸素の容器の上は酸素ガスが気化し続けているため、火のついた線香をかざすと猛烈に燃焼して発光する。
液体窒素と液体酸素に線香を近づけると?(Video)

※1また、液体酸素が気化し、火のついた線香をかざすと猛烈に燃焼して発光する様子が公開されています。「液体窒素と液体酸素」(川口液化ケミカル㈱)←ここをクリック

実験2 簡単な酸素の発生実験(酸素系漂白剤と大根)

酸素の発生実験、というとオキシドール(低濃度の過酸化水素水)と二酸化マンガンの組み合わせが有名だが、もっと簡単な方法がある。チャック付き袋に、大根おろし大さじ約大盛4杯と酸素系漂白剤(過炭酸ナトリウムが主成分の粉末タイプ)大さじすりきり約3杯を入れ、空気を押し出してからチャックを閉じて中身を手で揉むだけ。次第に気体が発生して袋が膨れてくる。袋の口を開けたところに、火のついた線香をかざすと激しく燃えることを確認できる。

この実験は、過炭酸ナトリウム(Na2CO4または2Na2CO3・3H2O2と表記される)を水に溶かすと過酸化水素が発生し、大根に含まれるカタラーゼが触媒となって酸素が生じるしくみである。反応式で書くと以下のようになる。ぜひ試してみてはいかが。

Na2CO4 +H2O → Na2CO3 + H2O2
2H2O2 → 2H2O + O2

 

※1 リンク先を変更しました。(2019年7月25日)

 

参考文献
Mason, Brian, “Principles of Geochemistry”, Wiley, New York (1966)
写真および動画の提供協力:川口液化ケミカル株式会社http://www.klchem.co.jp/blog/2010/11/img_1259mov.php
下井守、“液体酸素はどうして青く 磁性があるのか”、化学と教育、 54 巻 5 号 p.282-285 (2006)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/54/5/54_KJ00007744695/_pdf

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。