エチレンの電気による製造法

皆さんこんにちは
今回はエチレンの新しい製造方法についてのニュースです[1]。エチレンは現代の石油化学工業で最も重要な材料といっていいでしょう。日本でも毎年600~700万tのエチレンが製造されています。ちなみに無機化学工業製品で最も多量に製造されている硫酸も同程度の量が毎年製造されています。実はお米の生産量も国内で700万t代なので、この3つは同じくらいの量が毎年生産されていることになります。

エチレンの性質

エチレンは沸点が-104℃の気体で、かすかに甘いにおいがするとされています。皆さんが使っているポリエチレンの原料になるほか、様々な合成樹脂や化学製品の原料として利用されています。エチレンはC2H4の分子式を持ち、二重結合を持つ化合物として高校の化学でも習いますが、同じ炭素が2つでも二重結合を持たないエタンに比べるとはるかに化学反応を起こしやすく、それによって様々な化学製品の原料となるのです。

エチレンの製造

現在エチレンは、エタン(C2H6)や原油の成分であるナフサに水蒸気を混合し、高温で熱分解させる方法で製造されています。ナフサには様々な炭化水素が含まれていますが、これを高温(800℃以上)で水蒸気と反応させることにより、エチレンをはじめ、水素やプロピレン、芳香族化合物などが生成します。これを様々な操作によって分離することでエチレンを得るのです。

米国では近年シェールガス(従来の天然ガス油田とは異なる場所で高圧水を加えることで産出する天然ガスのこと)に含まれるエタンを熱分解することでエチレンが主に作られているとのことです。この熱分解によるエチレン製造には触媒は不要で、技術的には昔から確立されている方法なのですが、非常にエネルギーコストがかかります。

エチレン1t作るためには20×109 Jものエネルギーが必要とされています[2]。これは1kWの電力を200日ぶっ通しで使うエネルギーに相当します。なお、そのうち2/3が熱分解に、そして分離と濃縮に残りが使われます。世界中の熱分解反応で毎年2億tのCO2が発生しているとも試算されています。

新たな電気分解法

この方法に代わる様々な方法がこれまでに提案されてきましたが、なかなか良い方法は見つかっていませんでした。今回アメリカのアイダホ大学のグループはエタンの電気分解 による方法を提案しました[3]。この方法において、陽極ではエタンから電子が電極に引き抜かれ、エチレンと水素イオンが発生します。水素イオンは電解質中を通り、陰極で電子と合体して水素分子が生成します。

陽極上での反応 C2H6 → C2H4 + 2H+ + 2e
陰極上での反応 2H+ + 2e → H2

陽極の材料にはエタンの反応が生じやすいことが知られているニッケル金属が、陰極には水素発生が効率的なことで知られる多孔質のペロブスカイトと呼ばれる材料が選択されました。そして、固体電解質にはセリウム酸バリウムにジルコニウムとイットリウム、イッテルビウムを加えた材料BaZr0.1Ce0.7Y0.1Yb0.1O3-δが用いられています。これはイオン伝導性が高いことで知られています。このような仕掛けを使って電気分解を行ったところ、熱分解温度よりはるかに低い400℃程度で0.4Vの電圧をかけることで効率よくエチレンが生成したと報告されています。

省エネルギープロセス

この電気分解システムを使うと熱分解より65%少ないエネルギーでエチレンを製造できると筆者らは計算しています。また、排出二酸化炭素も70%少なくできるとしています。さらにもし風力などの再生可能エネルギーを使用すれば98%の二酸化炭素削減になると主張しています。大規模に工業化するには様々な問題点はあるでしょうが、近い将来石油化学工業は電気化学工業に様変わりするかもしれません。この発明の今後に期待したいと思います。

それではまた次回お会いしましょう。

 

[1] このニュースを知ったきっかけは米国化学会の機関誌です。Chem. Eng. News, April 29, 2018.
[2] T. Ren, M.Patel, K.Blok, Energy, 31, 425-451, 2006.
[3] D. Ding, Y. Ahang, W. Wu, D. Chen, M. Liu, T. He, Energy Environ. Sci. 2018, DOI: 10.1039/c8ee00645h.

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坪村太郎

坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。
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