光源により色が変わる元素 ネオジム(Nd、原子番号60)

ネオジムと色ガラス

住宅の窓などに用いられる普通のガラスは無色であるが、食器や花瓶などには薄く青やピンクに着色しているガラスが用いられる。これらは普通のガラスに色のついた金属酸化物を着色剤として混ぜて作られたガラスである。一般的に、マンガン、ニッケル、コバルト、クロムなどの遷移金属の酸化物が用いられ、ガラスの成分が異なると同じ着色剤を使っても色が変わる。ところが、希土類元素のひとつであるネオジムの酸化物を着色剤として用いると、全く同じ成分であっても光源の違いで色が変わる。
下の写真は酸化ネオジム(Nd2O3)を混ぜて着色したガラスで作ったペーパーウェイトであるが、同じものであるにも関わらず、太陽光の下で見た場合と蛍光灯の下で見た場合で色が異なる。このような性質を持つものは多色性ガラスとよばれる。これは、ネオジムが黄色に相当する570 nm付近の光をきわめて強く吸収することに起因する。太陽光や電球など、赤色が強い光の下で黄色が吸収されると、もともと強い赤色に加え、黄色の補色である青色が強調されて青紫色になる。一方、蛍光灯のように青色と緑色が強い光の下では、黄色が吸収されて青色が強調され、残った緑と混ざることで青緑色になるのである。

図1 ネオジムガラス製ペーパーウェイトの写真
(左)太陽光下で撮影 (右)蛍光灯下で撮影

 

ネオジムとレーザー

ネオジムはレーザーにも用いられる。最もよく用いられているレーザーのひとつは、イットリウムアルミニウムガーネットにネオジムを添加したY3Al5O12:Nd3+で、YAG(ヤグ)レーザーとよばれている。ネオジムはイットリウムのおよそ1%を置換するかたちでY3Al5O12に含まれており、レーザー光を発する。レーザー光は元素固有の波長からなる単色光で、ほとんど広がることなくまっすぐに進むという特長を有する。YAGレーザーの波長は1064 nmの近赤外光で目には見えないが、樹脂や金属のマーキング、トリミングなどの加工や、脱毛及びシミ、ソバカス、アザ、刺青などを取り除くレーザー治療に用いられる。

図2  YAG:Ndレーザーによる美容皮膚科治療

また、学術講演会などで用いられる緑色光レーザーポインターにもYAG:Ndが応用されている。現在市場に出ているものは532 nmの波長の製品が多いが、これは波長808 nmの近赤外線レーザーダイオードの光をYAG:Nd結晶で1064 nmに変換し、さらにこの光をKTiOPO4(KTP)単結晶に通して半分の波長である532 nmへと二段階で変換することで緑色の光を作り出している。その結果、構造は複雑になり、KTPの価格も高いため、半導体レーザーそのものが650 nmの赤色光を発光し、波長変換用の結晶を必要としない赤色レーザーポインターよりも値段が高くなる。最近ではこの欠点を克服し、半導体レーザーが直接波長512 nmの緑色レーザーを発光するタイプの製品が開発されている。

図3  YAG:Ndを用いた緑色光レーザーポインターの原理

 

ネオジムと永久磁石

ここまで、ネオジムと色との関わりについて述べてきたが、ネオジムの最も有名で大きな応用例はネオジム磁石(Nd2Fe14B)とよばれる永久磁石である。ネオジム磁石は、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする希土類磁石のひとつであり、現在知られている永久磁石のなかで最も強力である。我が国の佐川眞人博士によって開発された。
永久磁石の吸引力は磁束密度の2乗に比例し、この値が大きいほど強い磁石となるが、ネオジムの磁気モーメントは、軽希土類(原子番号が小さくイオン半径の大きい希土類元素)のなかで最大である。また、磁束密度は熱、浮遊磁場、機械的振動などにより小さくなるので、これらに対する抵抗力、いわゆる保磁力も大切である。すなわち強力な磁石とは取り出せる磁束密度と保磁力が大きい磁石である。そこで磁石の吸引力を表す指標として、磁束密度と磁束密度をゼロにする印加磁場の強さとの積の最大値(最大エネルギー積)で評価する。ネオジム磁石の最大エネルギー積は従来のフェライト磁石のおよそ10倍にも及ぶ。

図4 永久磁石の吸引力の比較
(左)従来のフェライト磁石 (右)ネオジム磁石

では、なぜネオジム磁石は強力なのだろうか。実はこれにもネオジムの4f電子が大きな役割を果たしている。すなわち、ネオジムなどの希土類イオンでは、磁気モーメントを担う4f電子が内部にあり、結晶場や配位子場の影響を受けないため、電子のスピンにより生じる磁気モーメントと軌道運動により生じる磁気モーメントの両方が寄与できる。さらにネオジムなどの軽希土類と遷移金属である鉄の磁気モーメントは、足し合わさるように相互作用する。このため、ネオジム磁石は極めて強い吸引力を発現するのである。

 

参考文献:
足立吟也 編著, 「希土類の科学」,化学同人,1999.
足立吟也, 「入門 レアアースの化学」,化学同人,2015.
足立吟也・南 努 編著, 「現代無機材料化学」,化学同人,2007.
佐川眞人監修, 「ネオジム磁石のすべてーレアアースで地球を守ろうー」, アグネ技術センター, 2011.

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増井 敏行

増井 敏行

鳥取大学工学部教授。無機化学と希土類の教育・研究を行っています。ISO/TC298 Rare earth/WG4 Testing and Analysis コンビーナ。学生時代はボウリングに夢中でした。