藍色の光を放つレアメタル元素 タッチパネルに大活躍のインジウム

元素記号In、原子番号49の元素、インジウム。ドイツの化学者ライヒとリヒターは閃亜鉛鉱(硫化亜鉛ZnSに鉄、カドミウムなど他の元素を不純物として含む天然鉱石)の発光スペクトルの中から、藍色(インジゴ)の輝線を見つけた。その色は不純物として含まれていたインジウムによるものであった。これが元素発見および元素名の由縁である。インジウムは日本でも2006年ごろまでは北海道の豊羽鉱山で産出されていて、かつては世界で最多産出量であった。現在は中国、韓国、カナダで多く産出されていて、日本は世界一の消費国となっている。

インジウム金属の塊
インジウム金属の塊

Nerdtalker による”https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Indium.jpg?uselang=ja”ライセンスはCC BY-SA3.0 (Wikimedia Commons)

インジウムは、水や酸素に強いことからメッキ材料として用いられたり、p型半導体をつくるためにシリコンやゲルマニウムにごく少量添加(ドープ)するのに使われたりしてきた。近年では薄型テレビの液晶画面、スマートフォンやタブレットなどのタッチパネル透明電極材料としてその消費量が増え続けている。その他、歯科用金属や脳・脊髄の診断薬としても活躍する。重要なレアメタルの一つであり、そのリサイクルや高効率な利用が求められている。

 

 

実験1 インジウムの炎色反応

インジウムの炎色反応
インジウムの炎色反応  写真提供ご協力:結晶美術館ホームページ

インジゴカラー(藍色)の炎色反応を見てみよう。炎色反応を示さない金属線(アルミニウムや白金など)を用意して先端部分をループまたはコイル状にする。試料の比較的濃い水溶液(1 mol/L程度)をループ状の先端に付け、ガスバーナーの炎の中に入れると観察できる。塩化インジウム(InCl3・4H2O)の水溶液などが扱いやすい。

余談ではあるが炎色反応を観察するとき、炎自体の色が気になることがある。ろうそくでは赤い炎が、ガスバーナーでは青い炎が見えるだろう。ろうそくの炎では、ロウの成分が高温で炭化し高温で赤(だいだい)色に光る熱放射の色が見える。ガスバーナーの場合、燃料ガス(メタンなど)の燃焼反応において、不安定な中間体ラジカルなどが発する光による青く見える。不完全燃焼がおきていると煤(すす)の発生とともに赤い炎になる。

 

 

実験2 ITO薄膜の合成

酸化インジウムスズ ITOは、酸化インジウムIn2O3に酸化スズSnO2が含まれている複合酸化物で、現在はタッチパネルなど透明電極の材料として多用されている。ITOは透明性、導電性、ガラスへの付着力、加工性において類似の材料に比べるとトータル的に優れた材料であるといえる。

ITO薄膜はスパッタ法やナノレベルの微粉末などを経てつくられる。現在では、レアメタルの世界的な事情からも、省インジウムプロセスが必要だ。高性能なITO提供するためには、緻密で接触抵抗が低減できるなどの高性能化も求められる。
スパッタ法ではインジウムの利用効率が悪く、また大型薄型テレビなどの生産などには設備的に不向きである。一方、ナノ微粒子の塗布法では、ITOのナノ粒子をインク化し、基板上に塗布したあと焼成することによって薄膜を形成し配線化できる。スパッタ法に比べると必要な範囲だけ薄膜化できるので、効率が非常によい。ただし粒子のサイズや形状が揃っていないと緻密な膜が形成しにくくなったり、導電パスがうまく作れなくなったりなどの原因となる。

東北大学の村松教授らは、ITO微粒子のサイズや形状、接触面積、配列などを制御することに成功した。結晶性を高めることで粒子内の導電性を増大させることができ、粒子間の接触抵抗を下げることで粒子間でも高い導電性を達成できたという。薄膜の中の粒子の充填密度を高め、粒子間の接触面積を増大させるような制御が技術的に可能となった。具体的には写真のように結晶性が高くサイズの揃った立方体を合成することに成功したのだ。反応に使う溶媒の種類や濃度、反応時間などを制御することで粒子サイズもコントロールできる。

合成に成功した緻密で結晶性の高い立方体のITO微粒子
図・写真提供ご協力:東北大学多元物質科学研究所村松淳司教授

 

 

実験3 フレキシブルなタッチパネル

スマホ、タブレット、電子ペーパー、薄型テレビ、電子表示板など、フレキシブルなタッチパネルつまり透明電極が求められている。タブレットとスマホの画面がシームレスに切り替えられる新しい感覚のスマホが身近になるかもしれない。そんなフレキシブルな透明電極の開発が盛んにおこなわれている中、早稲田大学の庄子教授らが新しい技術を開発した。

折りたためるスマホ タブレット
折りたためるスマホ(タブレット)のイメージ図 出典:makkyon web

 

世界初、マイクロサイズのメッシュ構造で硬いはずのITO透明電極がフレキシブルにできるのだ。様々な材料を使ったフレキシブル透明電極が報告されてきた中、やはり他の材料に比べて特性に優れているITO透明電極のフレキシブル化が求められてきたものの硬い材料のフレキシブル化は困難とされていた。

フレキシブルなITO電極を可能にした新しい二つのメカニズム 図提供協力:早稲田大学理工学術院 庄子習一教授

フレキシブルなITO電極を可能にした新しい二つのメカニズム
図提供協力:早稲田大学理工学術院 庄子習一教授

庄子教授らの研究グループは、単純なフォトリソグラフィとエッチングにより、ITOにマイクロサイズのメッシュ構造をパターニングすることで、ITOのフレキシブル化を実現した。単なるメッシュ構造だけではなく、新しく屈曲時に発生する応力をメッシュの開口部(ITOがない箇所)に逃がす機構と、メッシュ構造によってクラックの伝搬を抑制する機構の相乗効果によってITOのフレキシブル化を可能としたのだ。通常のITO電極を1000回屈曲させると抵抗値がおよそ1700倍に上昇するのに対し、研究グループのメッシュパターンITOでは、抵抗値上昇率を通常のITO電極の1/1500に抑制することに成功した。

メッシュパターンITO電極を用いた液体有機EL 早稲田大学

メッシュパターンITO電極を用いた液体有機ELの特性は数多い折り曲げテストのあとも変わらない(左:屈曲前、右:100回屈曲後)
写真提供協力:早稲田大学理工学術院 庄子習一教授

 

 

参考文献
桜井弘、「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年

結晶美術館 インジウム:https://sites.google.com/site/fluordoublet/elements/indium

makkyon web :「画面が……曲がる!全世界注目の折りたたみスマホ、メリットは?デメリットは?Appleは?メーカー5社の製品まとめ」2019年3月

Royole Corporationのホームページ:http://www.royole.com/jp

髙木悟、「透明導電膜の現状と今後の課題」p.105-110, Vol. 50, No. 2, J. Vac. Soc. Jpn., (2007)

早稲田大学プレスリリース「世界初・マイクロサイズのメッシュ構造で硬いITO透明電極をフレキシブル化」:https://www.waseda.jp/top/news/57173

Kosuke Sakamoto, Hiroyuki Kuwae, Naofumi Kobayashi, Atsuki Nobori, Shuichi Shoji,“Highly flexible transparent electrodes based on mesh-patterned rigid indium tin oxide” Scientific Reports, 8, 2825(2018)https://www.nature.com/articles/s41598-018-20978-x#Ack1

「ITOナノインク」村松淳司、東北大学多元物質科学研究所:http://www2.tagen.tohoku.ac.jp/lab/muramatsu/html/research/ITO-Nanoparticles.htm

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山﨑 友紀

山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。