発光・着色・磁性の機能を持つ元素 テルビウム(Tb、原子番号65)

緑色発光蛍光体

最もよく知られているテルビウムの応用例は、リン酸ランタン中に発光イオンであるTb3+と増感剤のCe3+を固溶させた緑色発光蛍光体LaPO4:Ce3+,Tb3+である。この蛍光体は、ユウロピウムに関するブログで紹介した3波長型蛍光灯の緑色成分として実用化された。Eu3+イオンと同様、Tb3+の発光も4f電子軌道間の遷移に基づくため、スペクトルは鋭くなり、周りにいる他のイオンや配位子の影響をほとんど受けないため、安定した緑色発光を示す。そのためテルビウムを発光イオンとする有機錯体も同じ緑色の発光色を示す。

図1  緑色発光テルビウム蛍光体

また、プラセオジム同様、テルビウムも化合物によって色が異なる。下の図2(左)は硝酸テルビウム六水和物(Tb(NO3)·6H2O)、(右)は酸化テルビウム(Tb4O7)の写真であるが、それぞれ無色と黒褐色になる。前者はPr3+が可視光線の波長範囲に吸収を持たないため無色になる。これは塩化物六水和物(TbCl3·6H2O)でも同様である。一方、Tb4O7は実はTb7O12とTb11O20という二つの酸化物の混合物であり、これらのいずれにおいてもTb3+とTb4+が共存しているため、黒褐色になる。

図2 硝酸テルビウム6水和物(左)と酸化テルビウム(右)の写真

 

黄色顔料

テルビウムとアルカリ土類金属であるストロンチウムあるいはバリウムを組み合わせ、金属元素比が1:1のペロブスカイト型複合酸化物(SrTbO3,BaTbO3)にすると、黄色になる。SrTbO3とBaTbO3のいずれにおいても、O2p–Tb4f軌道間の電荷移動遷移により黄色の補色である青色光に相当する波長450 nm付近の光を強く吸収する。SrTbO3、BaTbO3、及び、前回このブログで紹介したプラセオジムイエロー(ZrSiO4: Pr)の写真を図3に示す。SrTbO3はやや緑みがかった黄色になり、一方BaTbO3はやや赤みを帯びた黄色になるが、いずれもプラセオジムイエローに劣らぬ鮮やかな黄色を呈することがわかる。

図3  SrTbO3とBaTbO3及びプラセオジムイエローの写真

 

テルビウムの磁性や磁歪を利用した材料

発光や着色に関する材料だけでなく、テルビウムの磁性や磁歪(磁力によって磁性体が伸び縮みする現象)を応用した製品もある。テルビウム-鉄-コバルト合金(TbFeCo)のキュリー温度(加熱によって磁性が失われる温度)は約190℃と低く、レーザー光線による加熱で容易に磁性が失われる。この性質をうまく利用してパソコンの記録媒体へ応用したのが光磁気ディスク(Magneto-Optical disk: MO)である。MOは赤色レーザー光と磁場を用いて磁気記録を行い、レーザー光を用いて再生を行う記録媒体のひとつであり、主に1990年代の前半に使用された。信頼性・耐久性・使い勝手の面から、我が国を中心に登場時からデータの保存・運搬用としてMOが積極的に採用されたが、データを記録する際に、消去、記録、検証の3工程をディスクの1回転毎に行っていたため、書き込み速度が遅いことがネックであった。後に消去と記録を同時に行ったり、ディスクの回転数をあげたりしてやや改善されたものの、1990年代後半からCD-RやDVD-Rが出回るようになり、さらにはフラッシュメモリの大容量・低価格化による普及により急速に衰退した。現在はMOディスクドライブの生産と販売はすべて終了している。一方、磁歪を利用した応用例としては、テルビウム-ジスプロシウム-鉄合金(Tb0.3Dy0.7Fe2)が大きな磁歪を示すことから、プリンターの印字ヘッドに使用されている。

図4  光磁気(MO)ディスク

光アイソレーターは、磁気光学効果の一つであるファラデー効果(磁場に平行な進行方向に、直線偏光を物質に透過させたときに偏光面が回転する現象)を利用し、順方向では光が透過し逆方向では光が透過しないという特徴を持つ部品である。レーザー加工機に使用される波長1μm帯において、このファラデー素子にテルビウムガリウムガーネット(Tb3Ga5O12:TGG)単結晶が実用化されている。
また、テルビウムをガラスに組み込んだ磁性ガラスも知られている。テルビウムのような比較的強い磁性を持つ元素を多量にガラスに含ませると、磁石にくっつくガラスとなる。現在知られている金属磁性体や酸化物磁性体はいずれも透明性がないのに対し、このガラスは可視光域において80%程度の透過率を示し、やや黄色がかっているが透明である。また、ガラスなのでいろいろな加工や成形が可能になるなど、変わった磁性材料として非常に興味深い。このように、テルビウムも他の希土類元素と同様、多彩な能力を有するおもしろい元素の一つである。

 

参考文献:
足立吟也 編著, 「希土類の科学」,化学同人,1999.
足立吟也, 「入門 レアアースの化学」,化学同人,2015.
足立吟也監修,足立吟也・佐々木正元・吉田紀史編集, 「希土類の材料技術ハンドブック」,エヌ・ティー・エス,2008.
G. Adachi, N. Imanaka, Chem. Rev., 98, 1479-1514, 1998.
沢登成人, 森 直子, 今泉 大, 「磁石につく透明ガラスー希土類酸化物を多量に含むガラスー」, NEW GLASS 71, 18(4), 5-9, 2003.
R. Oka, T. Tsukimori, H. Inoue, T. Masui, J. Ceram. Soc. Jpn., 125, 652-656, 2017.
増井敏行, 「真の赤色発光を実現した元素 ユウロピウム」, 高純度化学研究所公式ブログ, https://www.kojundo.blog/color/3065/
増井敏行, 「焼き物の黄色を演出する元素 プラセオジム」, 高純度化学研究所公式ブログ, https://www.kojundo.blog/color/3343/

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増井 敏行

増井 敏行

鳥取大学工学部教授。無機化学と希土類の教育・研究を行っています。ISO/TC298 Rare earth/WG4 Testing and Analysis コンビーナ。学生時代はボウリングに夢中でした。