真の赤色発光を実現した元素 ユウロピウム(Eu、原子番号63)

カラーテレビとユウロピウム

我々が常日頃見る多くの物質は様々な色を呈しており、着色材料として用いられている。なかには様々な色を出して光る物質もある。あまり耳慣れないかもしれないが、元素記号Eu、原子番号63番の元素ユウロピウムは、カラーテレビの赤色を「真の赤色」にした革新的な発光元素なのである。
現在は液晶テレビや有機ELテレビなど、大型でも薄くて軽いテレビが電気店で販売されているが、かつては図1のような大きくて重いブラウン管を用いたテレビが普及していた。

図1 ブラウン管テレビ

カラーテレビは光の三原色である赤、緑、青の三色を組み合わせてフルカラーを実現している。動作原理を簡単に説明すると、テレビ画面の後ろにある電子銃から電子ビームをあてて、画面に塗られた蛍光体を順次光らせる。

図2 光の三原色

カラーテレビ用赤色蛍光体は、Zn3(PO4)2:Mn2+にはじまり、(Zn,Cd)S:Agを経て、ユウロピウムを発光源としたYVO4:Eu3+, Y2O3:Eu3+, Y2O2S:Eu3+が開発された。ここで、各蛍光体において、コロン(:)の左側に書かれた物質が母体結晶であり,右側のEu3+などが発光イオンとして母体結晶の構造に添加されていることを表している。図3に示すように、初期の蛍光体では発光スペクトルの線幅が広く、赤以外の色も含んだ発光色になるのに対し、ユウロピウム蛍光体では線幅が極端に狭くなり、「赤のみ」を発光していることがわかる。

図3 赤色発光蛍光体の発光スペクトル

このようにして、Eu3+を発光源とした蛍光体の開発により、カラーテレビは、真の「カラーテレビ」となったといっても過言ではなく、赤色の明るさや色再現性が大幅に改善されたのである。そして、蛍光体にイットリウムやユウロピウムという希土類元素が用いられていることから、「キドカラー」という商品名で販売され、一世を風靡した。

 

ユウロピウムの発光原理

なぜEu3+イオンの発光スペクトルはこんなに鋭くなるのであろうか。これは、4f電子軌道間の遷移に基づく発光だからである。図4に示すように、4f軌道は原子の内側にあり、外側にある5sや5p電子軌道により遮蔽されているため、周囲にある他のイオンの影響を受けにくい。したがって、Eu3+の発光は外部すなわち結晶場の影響を受けず、幅の狭い発光スペクトルを示すのである。

図4 4f, 5s, 5p, 5dおよび6s軌道の空間的広がり

一方、同じユウロピウムでも酸化数の異なるEu2+では、発光に伴う電子遷移に5d 軌道が関与する。d軌道は外側にあり、外部の影響を受けやすいため、母体結晶の構造に伴い発光波長が変化すると共に、発光スペクトルも幅広くなる。坪村先生のブログで少し紹介されたアルミン酸ストロンチウムを用いた無機系の蓄光材料にはEu2+が用いられている。

図5  Eu3+蛍光体とEu2+蛍光体の発光スペクトルの違い

Eu3+とEu2+をともに用いた応用例として、光の三原色を利用した照明デバイスである三波長型蛍光灯がある。図6に蛍光灯の模式図を示す。蛍光灯の管の中にはアルゴンとともに水銀の蒸気が封入されており、管の内壁には光の三原色である赤、緑、青に発光する3 種類の蛍光体が塗布されている。電源を入れると管内に電子が放射され、この電子が水銀に衝突すると水銀原子を励起する。励起された水銀原子が基底状態に戻る際に紫外線が放出され、それを3 種類の蛍光体が吸収して今度は蛍光体中の発光イオンが励起される。これらが基底状態に戻る際に、それぞれの蛍光体から赤、緑、青の光が放出され、3つの発光色の重ね合わせにより白色光となる。この三波長型蛍光灯の赤色蛍光体にEu3+、青色蛍光体にEu2+がそれぞれ用いられている。

図6  蛍光灯の原理

 

新素材への展開

時代の流れとともに新しい技術が開発され、現在ではブラウン管テレビはなくなってしまった。また、液晶ディスプレイのバックライトにも初期の頃は冷陰極間と呼ばれる蛍光灯によく似たランプが用いられてきたが、白色LEDに置き換わっている。照明デバイスである蛍光灯も同じ白色LEDに置き換わりつつある。
新しい応用例として、発光イオンと有機分子を組み合わせた「希土類錯体」の研究が進展している。希土類錯体は有機溶媒に均一に溶かすことができ、発光インクや図7に示すような発光プラスチック材料への展開が容易であるという特徴があるため、次世代発光素子として期待されている。写真中の赤色発光プラスチックには、図8に示すようにホスフィンオキシドとヘキサフルオロアセチルアセトナトを配位子とするユウロピウム(Eu3+)錯体が含まれており、新しい発光体として注目されている。

図7 希土類錯体を含む光るプラスチック
写真協力: 北海道大学 長谷川靖哉教授

図8 ホスフィンオキシドとヘキサフルオロアセチルアセトナトで構成されるEu3+の錯体
図面協力: 北海道大学 長谷川靖哉教授

 

参考文献:
足立吟也 編著, 「希土類の科学」,化学同人,1999.
足立吟也,「入門 レアアースの化学」,化学同人,2015.
足立吟也・南 努 編著, 「現代無機材料化学」,化学同人,2007.
田中勝久, 「無機物質の色」, 化学と教育, 65(4), 194-197, 2017. https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/65/4/65_194/_pdf
戸田健司, 増井敏行, 今中信人, 「未来を照らす希土類蛍光体」, マテリアルインテグレーション, マテリアルインテグレ-ション, 19(1), 31-38, 2006.
坪村太郎, 「世界初の有機蓄光材料」, 高純度化学研究所公式ブログ, https://www.kojundo.blog/news/1344/
長谷川靖哉, 「希土類で構成される高分子材料:強発光と熱耐久特性」, 希土類, 75, 7-12, 2019.

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増井 敏行

増井 敏行

鳥取大学工学部教授。無機化学と希土類の教育・研究を行っています。ISO/TC298 Rare earth/WG4 Testing and Analysis コンビーナ。学生時代はボウリングに夢中でした。