クロム(Cr)~「色」という意味の名前をもつ元素~

元素記号Cr、原子番号24番の元素クロムは、めっきやステンレスなど、身近なところで多く使われている。我々の体にとってもクロムは必須元素なのである。古くからクロムを含む物質がカラフルであることは知られており、ギリシャ語のχρῶμα(クロマ)にちなんでこの名前が付けられている。

現在、私たちが何気なく使ってるシンクや、鍋、ハサミ、包丁などキッチン道具の多くが、鉄とクロムの合金、“ステンレス鋼”で作られている。ステンレス鋼は、耐腐食性や高硬度を有するので錆びにくく硬くて強い。我が国のステンレス鋼の生産量は現在、国民一人当たり熱間圧延材ベースで3 kg程度と見積もられているほどである。

家庭用ステンレス鍋 (写真:Photo AC)

またクロムは、自転車、バイク、自動車などの多くのパーツの表面コーティングにも使われている。クロムめっきはその銀白色の美しい光沢が長時間持つことから、様々な材料を高級感あふれる装飾品に変身させてくれる。
めっきを施した材料には高い硬度と耐摩耗性が与えられるので、工具、金型、冶具などの性能と寿命を高めるために工業的に広く使われている。一見、その材料が金属の塊のように見えても、プラスチックやガラスが本体で、表面はメッキというものもの少なくない。現在は、クロムでめっきができないものはないといわれるほど、技術は進歩しており、様々なものの上にめっきをすることができる。

実験1 カラフルなクロム

クロムという名前どおり、クロムの化合物や溶液は赤から青までの様々な色を見せてくれる。ルビーの赤や、エメラルドの緑も極微量に不純物として入っているクロムによる。クロム酸鉛は「クロムイエロー」や「クロムレッド」と呼ばれる顔料として広く用いられていたが、現在は六価クロムの毒性から、顔料や材料の中での使用が規制されている。クロム酸イオンの系統は、酸性が強くなるほど赤みを帯び、三価のクロムイオンは緑色を呈する。写真に示すように、クロム酸カリウム水溶液に酸を加えるとニクロム酸カリウムになり、オレンジ色に変化する。ニクロム酸カリウムを亜硫酸ナトリウムで還元すると緑になり、ニクロム酸カリウムを過酸化水素水で還元するとより青に近い色に変化する。

左からクロム酸カリウム、ニクロム酸カリウム、酸化クロム(III)
写真協力:京都府立嵯峨野高等学校

クロム水溶液の様々な色
写真協力:京都府立嵯峨野高等学校

また塩化クロム(III)六水塩は、[CrCl2(H2O)4]Cl・2H2O と示される化学式を持つ。水溶液では錯体を形成し、緑色を呈する。水溶液中では、 [CrCl2(H2O)4]+ → [CrCl (H2O)5]2+ → [Cr (H2O)6]3+と順に塩化物イオンを放って加水分解することが知られている。この過程で順に緑、青、紫色と変化する。

 

実験2 ワイヤーやプラスチックのクロムめっき

一般に、クロムめっきでは、酸化クロム(Ⅵ)の硫酸溶液をめっき液として、目的の金属製品を陰極、鉛(または鉛合金)を陽極にする。最近では、樹脂やプラスチック材料にクロムめっきを施すことも多くなっている。樹脂は不導体であるので、表面に密着性や導電性を付与するための前処理を施してからクロムがめっきされる。

その前処理は、「脱脂工程」⇒「エッチング(表面に微小凹凸の形成)」⇒「触媒付与」⇒「活性化」⇒「無電解ニッケルめっき(樹脂表面の導電化)」⇒「ストライクめっき」⇒「硫酸銅めっき)」⇒「半光沢ニッケルめっき」⇒「光沢ニッケルめっき」⇒「マイクロポーラスニッケルめっき」⇒「クロメート」⇒クロムめっきと以外と複雑である。このようにして得られたクロムめっきにより、樹脂の表面に高級感が得られるだけでなく、耐食性や強度が増すので材料としての機能が著しく向上する。

クロムめっきされたプラスチック
写真協力:株式会社 真工社

下の写真は、国際熱核融合実験炉計画の核融合炉に組み込まれる超電導コイルに用いられているもので、0.1μmレベルでのクロムめっき厚がコントロールされている。導線にクロムめっきをすることで電流偏流による不安定現象が発生しないことが見出され新しい導体の開発につながることとなった。

クロムめっきされた超電導コイル

 

参考文献:
小西三郎・只腰光章、「クロムめっきの外観におよぼ す浴組成とめっき条件の影響」、金属表面技術, 23(10), p.585-590 (1972):https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1950/23/10/23_10_585/_pdf

ステンレス協会:http://www.jssa.gr.jp/contents/

写真協力:京都府立嵯峨野高等学校
(化学のShowCaseのページ§8 第4周期の遷移元素:
https://www.kyoto-be.ne.jp/sagano-hs/5-JHS/56kyouka/ShowCase/chem_sc08.htm )

Nature Chemistry 6, (2014年10月号):
https://www.natureasia.com/ja-jp/nchem/in-your-element/article/68214

「樹脂めっき」製品の生産プロセス:
http://www.sankei-corp.com/mono-plating.html

濱田一弥、小泉徳潔、「核融合装置用超伝導コイルの電磁現象-強制冷却型超伝導コイル-」
J.Plasma Fusion Res., 78(7), p.616-624 (2002):https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspf/78/7/78_7_616/_pdf

写真協力:株式会社真工社
写真プラスチックのクロムめっき
https://shinkosya.co.jp/original.html

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。