新しい充電式電池の開発~マンガン-水素 電池~

皆さんこんにちは。
皆さんのまわりでもたくさんの電池が使われていますね。特に最近は電気自動車やハイブリッドカーにも多くの電池が使われています。今後風力や太陽エネルギーなどの自然エネルギーを利用した発電が増えてくると、ますます電池が重要になってくると言われています。なぜでしょうか?

自然エネルギーはどうしてもいつも一定の電力を供給できません。太陽電池は夜発電できませんし、風力発電もどれくらい発電できるかは風任せです。そこで、大容量の電池と自然エネルギーを用いる発電源をあちこちに配置し、これらをIT技術を使って制御して効率よく電気を使えるようにしようという考え方が出てきました。

スマートグリッドなどと呼ばれるのはこのような考え方にもとづくアイデアです。そのためには高効率でローコストな電池の開発が必須ですが、現状のリチウムイオン電池や鉛蓄電池などはまだ、重量あたりの充電できる電力が少ないとか、繰り替えして使用できる回数が少ないとか様々な問題を抱えています。そこで新しい電池の開発が世界中で競われているのです。今回はマンガンと水素を利用した新しい電池をアメリカのグループが開発した[1]というニュースです。

新しい電池の構造と化学反応

今回の電池には、炭素フェルト電極が両極に使われています。炭素フェルトは炭素繊維をフェルト状に編んだもので研究用に市販されているそうです。正極ではこれをそのまま用い、負極ではこれに白金の微少粒子を表面にちりばめたような材料を用います。そして両極を容器に入れて、硫酸マンガンの水溶液にひたし、水素ガスを吹き込んで密閉するというものです。(図1参照)

図1 新しい電池の模式図  正極は炭素繊維のフェルト、負極は炭素繊維に白金をちりばめた触媒、容器内には硫酸マンガン水溶液を入れ、水素ガスも充填してある。

マンガン化合物は、よく知られているようにマンガン乾電池やアルカリ乾電池の材料として昔から使われています。アルカリ乾電池の放電の際の化学反応は

MnO2 + H2O + Zn → Mn(OH)2 + ZnO

と書かれ[2]、マンガンは放電によって+4価から+2価に還元されます。今回の電池も反応は似ています。

正極上での反応(充電時が右方向)    Mn2+ + 2H2O ⇌ MnO2 + 4H+ +2e
負極上での反応(充電時が右方向)    2H+ + 2e → H2
全体の反応(充電時が右方向)              Mn2+ + 2H2O + ⇌ MnO2 + 2H+ + H2

上の反応式に示すように充電の際は溶液中のマンガンイオンが二酸化マンガンとなって炭素電極上に沈着します。逆に放電の際は二酸化マンガンがマンガンイオンになって溶液中に溶け出します。また充電の際は負極状では水素が発生し、容器内にたまります。放電時は逆に水素が水素イオンに酸化されます。白金はこの反応の極めて効率の良い触媒であることはよく知られています。

電池の特徴

この電池がマンガン乾電池やアルカリ乾電池と大きく異なる点は、今回の電池は二次電池、つまり充電できる電池であることです。起電力は1.2V程度なので、ニッケル水素電池などと変わりません。この電池の特徴は
1)非常に急速に充電できること
2)10000回の充放電を繰り返した後もほとんど性能が変わらないこと
3)マンガンは非常に豊富で安価な材料であること
4)大規模電池に容易にスケールアップできること
と筆者らは主張しています。

欠点を挙げるとすれば、負極の材料として白金を使っていることでしょう。筆者らも指摘していますが、白金は効率の良い触媒ですが、地球上の資源が限られており、当然高価です。もしこの電池を大規模に使うとなれば白金に変わる材料が必要でしょう。

おわりに

新しい電池は、近年多くが提案されています。この電池はまだまだ解決すべき課題はありますが、比較的構造が単純であるのに二次電池として高性能であり、今後が期待できます。将来はこのような電池と太陽電池が各家庭にあって、昼間は太陽電池をつかい、夜は電池の電源を使うというような時代が来るかもしれませんね。

それではまた次回お会いしましょう。

 

[1] W. Chen, G. Li, A. Pei, Y. Li, L. Liao, H. Wang, J. Wan, Z. LIang, G. Chen, H. ZHang and Y. Cui, Nat. Energy, 2018, 3, 428-435. 著者の大学のHPから原文がダウンロードできます。https://web.stanford.edu/group/cui_group/papers/WeiC_Cui_NATENG_2018.pdf

[2] 電池工業会ホームページ2018/7/30閲覧。http://www.baj.or.jp/knowledge/structure.html

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坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっていました。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。

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