ソーダ?ソディウム?ナトリウム?~とっても身近な元素の実験~

元素記号Na、原子番号11の元素、ナトリウム。アルカリ金属の中でもっとも自然界に豊富に存在する元素だ。『そうだ村の村長さん』は、阪田寛夫(童謡『サッちゃん』の作詞で知られる詩人)による言葉遊びの歌。『そうだむらの そんちょうさんがソーダのんで しんだそうだと、みんながいうのは ウッソーだって、そんちょうさんが のんだソーダはクリームソーダの ソーダだそうだおかわり十かい したそうだ・・・』と“ソーダ”が続く。

高知県には、そうだやま温泉(桑田山温泉)というのがあるが、その泉質は残念ながら、硫黄泉だそうでナトリウムはあまり含まれていない。『そうだ村の村長さん』の歌にあるように、ソーダとは炭酸飲料のことを示すが、その由来はもともと英語のSodiumが炭酸ナトリウム(Na2CO3)を語源としているから。アメリカなど英語圏では、炭酸飲料であれば甘いかどうかに限らずソーダと呼ばれる。

ドイツ語のNatrium もNatronつまり炭酸ナトリウムから来ている。日本語では英語よりも先にドイツからこの元素の名前が入ってきたので、以来ずっとこの元素はナトリウムと呼ばれている。

ナトリウムは食塩(塩化ナトリウム)や、ベーキングパウダーの主成分である重曹(炭酸水素ナトリウム)などに含まれるので日常でよく聞いたことのある元素だろう。ちなみに、日本では食塩の取りすぎを「“しお(塩)”の取りすぎ」というが、英語圏では「“ソディウム”の取りすぎ」といわれ、減塩のことをレスソディウムという。

図1 金属ナトリウムの写真
大気中の水分と容易に反応するためふつうは灯油などのオイル中で保存する。

左:Dnn87による”Sodium metal from the Dennis s.k collection. Selfmade photo taken 12/12-07”ライセンスはCC BY-SA 3.0(WIKIMEDIA COMMONS)
右:株式会社高純度化学研究所

 

ナトリウムの利用は幅広い。例えば高速増殖炉の冷却材として利用されるほか、水酸化ナトリウムや、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどよく聞いたことのある化学薬品としても化学工業、食品産業、医薬品業界などでの用途は広い。また、身近なところではトンネル内のオレンジ色の照明「低圧ナトリウムランプ」がある。トンネルに入るとオレンジ色の光を目にしたことも多いだろう。低圧ナトリウムランプの寿命は約8000時間と長く、オレンジ色の光がちりや排気ガスなどの影響を受けにくいため、視界の悪いトンネルに適切であると長期にわたって利用されている。しかし、近年の高速道路用トンネルのランプは、白色にだんだんと移行してきている。NEXCO(日本高速道路株式会社)によると、より自然光に近い色のでる高効率(Hf)蛍光ランプに代わっていくそうだ。

図2 低圧ナトリウムランプ
Proton02による”Low Pressure Sodium Lamp, OSRAM 35W SOX, running”ライセンスはPD(WIKIMEDIA COMMONS)

 

実験1 金属ナトリウムと水の反応

金属ナトリウムの反応性の高さは有名だ。褐色ガラス瓶にミネラルオイル(灯油)に入って試薬会社から販売されている。金属ナトリウムの取扱いには十分注意し、ゴーグル着用の上、ドラフトチャンバー内でピンセットを用いて実験すること。

まず、ステンレスなどの金属バットに乾いたろ紙を2枚ほど敷いて、反応での飛散を防ぐため500mLまたは1000mLのビーカーをかぶせておく。別途フェノールフタレイン液を2滴ほど滴下した水を100~200 mLほど準備しておく。

金属ナトリウムはやわらかく、ナイフでバターのように切り取ることができる。必要な量を取り(5mm角程度)さきほどのろ紙の中心において、ビーカーをかぶせる。準備した水をバットの端から流し入れ、ろ紙が完全に水でつかる程度までとする。

動画のように、激しい反応とともに液体(ろ紙も)がピンク色に変わり、最後にナトリウム表面にあった灯油成分が引火して小さな爆発音がする。

動画提供:公立大学法人 都留文科大学教養学部学校教育学科山田暢司特任教授

 

実験2 葉脈の標本を作ろう

アルカリ水溶液として1.5 mol/L程度の水酸化ナトリウム水溶液を準備する(水1Lに対して、水酸化ナトリウム50~60gを溶かすとよい)。水酸化ナトリウムが手に入らない場合には、炭酸ナトリウム約60gを1Lの水に溶かして作るか、重曹(炭酸水素ナトリウム)約60gを鍋かフライパンで10分ほど中火で加熱したものを1Lの水に溶かして使う。

葉を20枚ほど準備して、アルカリ水溶液をビーカーまたは鍋などで約1時間煮る(沸騰しすぎないように注意する)。葉の種類や堅さによって、20分程度でやわらかくなる場合もある。また、サザンカ、クチナシ、ナンテン、ヒイラギなどの葉は比較的きれいな標本を作りやすい。アルカリ水溶液の調整や煮る作業のときにはゴーグルやディスポ手袋などを着用し目や皮膚を保護すること。

葉が柔らかくなり、葉肉と分離できるほどになれば葉をピンセットで取り出して、よく水洗いする。使い終わった歯ブラシなどを利用して、優しく葉脈から葉肉を取り除き、また丁寧に水洗いする。葉脈に色を付けたい場合には、塩素系漂白剤の原液に数時間付けて漂白してから、インクなどに浸漬して着色する。

色を付けたものをキッチンペーパーと新聞紙を重ねたものに置き、自然乾燥またはアイロンで乾燥させる。好みに応じて、ラミネーターなどでパウチするとしおりを作ることもできる。

小学生が作った葉脈のしおり

 

実験3 二次電池と我々の生活 ~次世代ナトリウムイオン二次電池の開発~

リチウムイオン電池は、私たちの生活において身近でまた欠かせないものとなっている。パソコンやスマートフォン、ゲーム機器などの様々な電子機器は、すでに小型化が進み、多くの場合ポータブルである。そこには小型でパワーのある充放電可能な二次電池が活躍している。しかしその一方で、電池材料に使われている元素には埋蔵資源量に限りがあるものが多く、リチウムもその一つで枯渇が危惧されている。

近年、リチウムと同じアルカリ金属元素であるが、地球上に豊富に存在するため枯渇が心配ない元素が二次電池で利用可能であることが示された。すでにナトリウムとカリウムイオンの二次電池が研究開発されており、それらが安定に作動することが発表されている。これらの電池は長寿命で、優れた急速充放電特性を有していて、将来型の低コスト大型電池としての実用化が期待されている。


図3 ナトリウムイオン電池(左)とカリウムイオン電池(右)の構成例と作動原理
(図面提供 東京理科大学理学部 駒場慎一教授)

 

参考文献:
桜井弘「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年
そうだ山温泉の泉質(日本温泉協会のページ)https://www.spa.or.jp/search_p/detail_p/?F_ID=390390&pg=258
https://ameblo.jp/yoshinoyan-0904/image-12021606036-13293877241.html
博物館普及行事 葉脈標本できれいなしおりづくり
http://www.museum.tokushima-ec.ed.jp/ogawa/yomyaku/default.htm
N Yabuuchi, K Kubota, M Dahbi, S Komaba, “Research development on sodium-ion batteries”, Chemical reviews 114 (23), 11636-11682 2683(2014)
熊倉真一・久保田圭・駒場慎一「次世代のバッテリーー希少・有害元素からの脱却を目指して」化学2017 5月号 No.72、p.33-38 化学同人

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。