ガラスを水晶のように見せる元素 ~鉛を使った実験~

元素記号Pb、原子番号82の元素、鉛。融点が低く、軟らかくて加工しやすい金属として、エジプトやローマ、中国などで紀元前から使われている元素だ。鉄などに比べると圧倒的に腐食しにくく水に溶けにくい性質から、毒性が知られるまでは、酒や水の貯蔵、食器などに重宝され、人類の歴史を支えてきた金属の一つといえるだろう。自然界には方鉛鉱として多く産出され、他の鉱物や宝石類と同時に存在することもある(写真)。

図1 左:方鉛鉱と水晶(ブルガリア産)右:蛍石と方鉛鉱(アメリカイリノイ州産)
写真提供協力:鉱物たちの庭ホームページ http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery7/523galena.html

鉛はその他にも、鉛筆(現在は黒鉛が主成分)、水道管、化粧品、医薬品、ハンダの材料としても長年使われてきた。ガラスに鉛を添加するとその屈折率が著しく向上する。まさしく宝石(水晶)のようにキラキラと輝くため、鉛ガラスは“クリスタルグラス”と呼ばれるようになった。鉛ガラスは、バカラのワイングラスや江戸切子に代表されるような食器類や、部屋の照明用のシャンデリアに多用されている。

図2 クリスタルガラス(鉛ガラス)
Paolo Neoによる”Crystal glass” ライセンスはPD

また、電気抵抗や密度が高いこと、優れた放射線遮蔽能からも工業的に幅広く用いられている。酸化鉛 PbO 自体は単独でガラスを形成する能力はないものの、ガラス構造の中心をなすシリカSiO2と直接結合をつくって網目を形成することができる。PbO は最高91.8 wt%にまでガラスに導入することができそのガラスに高密度(約6.0 g/cm3)、高屈折率(約2.000)の性質を示す。

しかし残念ながらその毒性による健康被害が明らかにされてからは、鉛の利用が世界的に控えられる方向になり、水道管の鉛、電化製品やクリスタルガラスに含まれる鉛について、使用、輸入、排出物、食品容器などに関して厳しく規制されるようになっている。

実験1 鉛樹をつくろう

金属樹をつくる実験は高等学校では定番かもしれない。手軽にそのイオン化傾向の違いを利用して美しい形状をつくることができる。ここでは亜鉛の金属(0.5 mm程度の厚みで5 mm程度の小片)と鉛の水溶液(0.1 mol/L 酢酸鉛(Ⅱ)水溶液  (CH3COO)2・3H2O)を使う。イオン化傾向の大小はZn>Pbである。

亜鉛版はサンドペーパーなどで表面の酸化膜や汚れを落としておく方がよい。鉛樹の生成は次の二つの反応式で表される。

Zn →  Zn2 + 2e-  および Pb2 + 2e → Pb

亜鉛が電子を放出して亜鉛イオンZn2+となる一方で、酢酸鉛水溶液に含まれた鉛イオンPb2+が電子を受け取り単体となって析出する。金属亜鉛の表面で鉛Pbが一度析出すると、その部分からはZnの溶解はおこりにくくなる。一方、金属亜鉛からイオンとしてZn2+が溶解している部分では、イオンの存在によりPb2+は析出しにくくなる。よっていったんPbの析出した同じ場所に次々とPbの析出が繰り返されることになり、樹枝状に鉛の結晶が成長する。

ろ紙に酢酸鉛(Ⅱ)水溶液をしみこませ、亜鉛片を設置する様子

鉛樹の様子 左:約10 分経過後 右:約30 分経過後

(写真および情報提供協力:岩手県立総合教育センター理科教育担当化学研究室)

金属樹の観察方法は、ペトリ皿に酢酸鉛(Ⅱ)水溶液を入れて、そこに亜鉛片を静置してもよいし、写真のようにろ紙(4分の1程度の大きさ)に酢酸鉛(Ⅱ)水溶液を十分湿らせてから、そこに亜鉛片を置き、ビニル袋などで包んで放置するのでもよい。

実験2 鉛蓄電池をつくってみよう

車のバッテリーなどでおなじみの2次電池、鉛蓄電池を簡単につくってみよう。
まず準備するのは釣り用のおもりの鉛2個。釣り具店で簡単に手に入る。100 mL ビーカーに1~2 mol/L程度の硫酸を20 mL程度入れる。その中に鉛を離して入れ、9 Vの乾電池をミノムシクリップでつないで充電する。鉛同士が接触しないように注意すること。

釣り用おもりの鉛2個に充電

充電を続けると表面に泡の発生(水の電気分解により陽極側は酸素、陰極側は水素)が見られ、陽極側の鉛の表面に褐色の酸化鉛PbO2が析出するのが観察できる。充電後、電圧計に繋いでみると起電力は2V程度を示すことが確認できる。

充電すると陽極に酸化鉛PbO2が析出

羽根車などを付けたモーターに繋ぐと凄い勢いで回ることを確認することができる。モーターの回転が止まったら、再度充電するとよい。充放電を繰り返す2次電池が簡単につくれる。

放電時の反応は以下のとおりで充電時はその逆反応が生じる。
(-) Pb + SO42- → PbSO4 + 2e
(+) PbO2 + SO42− + 4H+ + 2e   → PbSO4+ 2H2O

モーターなどに繋いでその威力を確認できる

(写真提供協力:ふたばのブログ 〜理科教育と道徳教育を科学する〜)

 

 実験3 鉛ガラスによる放射線の遮蔽実験

先に述べたように鉛ガラスはレントゲン室の扉の窓などに使われ、X線などの放射線を遮蔽することができる。この実験では、鉛ガラスが実際に放射線を遮蔽できるかどうかを確かめることができる。

ここでは、キャンプ用などのガソリンランタンの芯に使われるマントル(硝酸トリウムと硝酸セリウムを浸透させた袋状の繊維、2013年ごろ購入したもの)を放射線源にした。

写真のようにガイガーカウンター放射線測定器(インスペクタープラス:α線、β線、γ線が測定可能)の下にマントル芯を切った一部を測定器の下1~2 cmのところに置いて直接、放射線量を測定したところ約9.2 μS/hrであった。ちなみに室内のその日の放射線量のブランク値は0.135 μS/hrであった。次に板状の鉛ガラス(厚さ7 mm、10 cm×10 cm)をマントル芯の上に置いて測定したところ0.18μ S/hrと50分の1にまで低減することがわかった。

左:鉛ガラスなしの測定(測定器の下1~2 cmの位置に試料)
中央:鉛ガラスを重ねた様子
右:鉛ガラス越しの測定

 

 

参考文献:
桜井弘、「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年
鉱物たちの庭ホームページ:http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery7/523galena.html
吉田尚幸、「鉛蓄電池」、化学と教育, 58巻11号、 p.524-525(2010年)
寺井良平、「解説ガラスに出会う―鉛ガラスから鉛を除く(1)―」、マテリアルインテグレーション、Vol.17 No.1(2004)
岩手県立総合教育センター理科教育化学研究室、21 金属樹の生成と金属のイオン化傾向の大小 ~金属のイオン化傾向~ http://www1.iwate-ed.jp/tantou/kagaku/kagakukiso/kagakukiso%202/sapoto21.pdf
鉛蓄電池を作ってみよう、「ふたばのブログ」より https://futabagumi.com/archives/811.html

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。