体に大切なヨウ素
元素記号:I 原子番号53番の元素。ヨウ素は他の3つの (フッ素、塩素、臭素)と異なって、反応性も低く、優しいハロゲン元素といえる。
ヨウ素は甲状腺ホルモン(図の分子構造参照)を構成し、ヒトにとって必須の元素である。
チロキシン:T4(左)とトリヨードチロシン:T3(右)
出典:WIKIMEDIA COMMONS
(左)Emeldir氏による”Structure of (S)-2-amino-3-(4-(4-hydroxy-3,5-diiodophenoxy)-3,5-diiodophenyl)propanoic acid”ライセンスはPublic Domain
(右)Jü氏による” (S)-Triiodthyronin = L-Triiodthyronin Strukturformel”ライセンスはPublic Domain
欠乏すると発育障害やエネルギー代謝、運動機能の低下の原因となる。そして免疫反応への影響や乳腺の病症に有効である可能性も示唆されていて生理学的機能があるとされている。海苔やヒジキ、魚介類などの海産物を摂取する日本人は欠乏症になりにくいが、欧米では以前からヨウ素不足による甲状腺障害者の割合が高く、ヨウ素添加食塩が一般の家庭でも多く利用されておりヨウ素不足の抑制に一役を担っている。
アメリカで販売されているヨウ素添加食塩(左)と以前にヨウ素不足を防ぐために販売されていたチューイングガム(右)
自然界には土壌や地下水、チリ硝石、海藻などの海産物などに含まれている。日本はチリに次いで世界第二位のヨウ素生産国である。
ヨウ素を含む物質は放射線を遮断しやすい、殺菌性、光の偏光面を制御できる、などの性質があり、X線造影剤、殺菌剤、医薬品、偏光フィルム、触媒、などの用途がある。最近では、以前多用されていた皮膚用消毒液ヨードチンキの代わりに、うがい薬の成分でもあるポビドンヨードが使われるケースが増えている。ポビドンヨードはポリビニルピロリドンとヨウ素分子の錯化合物として合成されたもので、ヨードチンキよりも刺激は小さい。イソジンの商品名で知られているうがい薬の場合、遊離のヨウ素分子が約0.7%含まれていて、うがい薬1 mL中にヨウ素が約7 mg含有されていることになる。
ポビドンヨードの分子構造
出典:WIKIMEDIA COMMONS
Vaccinationist氏による”Skeletal formula of povidone-iodine (PVP-I) ”ライセンスはPublic Domain
実験1 カラフルなヨウ素溶液
ヨウ素は水にはほとんど溶けないが、有機溶媒には比較的よく溶ける。他のハロゲン分子に比べて反応性が乏しく水に対する溶解度が低い。いくつかの溶媒に溶かしてみると写真のように様々な色を見ることができる。写真は左から固体(粉末)のヨウ素をエタノール、ヘキサン、メタノール、酢酸エチル、アセトンに溶かした様子である。
実験2 ヨウ素デンプン反応を使った時計反応
デンプンを検出するためにヨウ素液をジャガイモの切り口や、光合成産物である植物の葉の一部などに滴下すると深い青色を呈した経験はないだろうか。
比較的入手の簡単な材料で時計反応を行うことができる。酸化・還元反応を制御して、透明な液体があるとき突然青くなる、そんな手品のような実験を紹介しよう。ここでは、ヨウ素デンプン反応がある特定の時間差で起こるように仕組むことができる時計実験を紹介する。
1.A液を作る。
次のものをビーカーに入れてよく混ぜ合わせる。
※液体が透明でない場合には、ビタミンCドリンクを1滴ずつ加えて透明にする。
- ビタミンCドリンク(C1000ビタミンレモンなど)10 mL
- うがい薬(イソジンなど)1 mL
- 1%デンプン液10 mL
- 水20 mL
2.A液を試験管4本に 5 mLなど同量ずつ入れて、試験管立てに並べる。
3.B液(オキシドール)を1, 3, 6, 10 mLなど量を変え4つの小さな容器に入れて準備する。
4.上の4つのB液を同時に4本の各試験管に入れる。
5.試験管の中で変化の起きる時間をストップウォッチで計測する(写真参照)。
右から一つ目に次いで、二つ目の試験管の液体が、無色透明から青色に変化する様子
実験の原理は、ビタミンCが還元剤、オキシドールが酸化剤として働くことにある。最初のA液ではポピドンヨード中のヨウ素分子がヨウ化物イオンへ変化する。
ヨウ素デンプン反応ではデンプンの高分子 (アミロース)とヨウ素分子(厳密には3~6原子からなるポリヨウ素と分子状ヨウ素の平衡状態)がらせん構造の 錯体を形成することで色を呈すると考えられている。
ヨウ素学会のHPより。一部改
ヨウ化物イオンの状態では、デンプンが存在していても液体は無色透明になる。そこへB液を加えると、オキシドールがビタミンCの還元性をなくし、さらにヨウ化物イオンからヨウ素分子への反応を促すために、再びヨウ素分子とデンプンがともになってヨウ素デンプン反応(深青色)を見せる。深青色に変化するタイミングは、オキシドールの量によって反応速度が変化する。しかし、気温やA液の調整条件によっても反応速度は影響を受けてタイミングがずれることもある。
※参考として、硫酸水素ナトリウムとヨウ素酸カリウムによる時計反応の実験 をお見せします。デンプンを用いていませんが、同様の時計反応としてイメージできると思います。動画時間は38秒。
「らくらく化学実験」時計反応 山田暢司氏より提供
参考文献:
The Iodine Issue:http://health101.org/art_iodine.htm
海宝龍夫、「日本が資源大国? それはヨウ素」化学と教育 64 巻 5 号(2016 年):https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/64/5/64_234/_pdf
明治うがい薬のページ:http://www.meiji.co.jp/drug/meiji-ugai/learn/povidone-iodine/
肆矢浩一、「ヨウ素の実験材料としての魅力」國學院高等学校「外苑春秋」第5号、2015年:http://www.kokugakuin.ed.jp/contents/wp-content/uploads/2017/08/d951cb5dea8db3db3829b21d9aa812a0.pdfヨウ素学会のHP:http://fiu-iodine.org/studies/
矢島博文、「ヨウ素デンプン反応の発色のしくみ」、化学と教育 63 巻 5 号 (2015 年):https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/63/5/63_KJ00010110249/_pdf/-char/ja
山﨑 友紀
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