希土類金属 南鳥島近海海底に大量に発見

皆さんこんにちは。
今日は希土類金属のニュースです。東京大学と早稲田大学等の研究グループが日本近海に多くの希土類資源があることを可視化して示し、さらにそれらの効率的な分離方法を提案しました。[1]この結果は学術論文としても発表されました[2]が、その内容は海外の研究者にも関心を持たれています[3]

希土類とは?

ところで希土類とはどのような元素でしょうか。一般的にはあまり知られていませんが、現代社会の様々な場所で活躍している一連の元素のことです。周期表ではなぜか欄外に2列の元素の並びがありますが、そのうちの上の列15個の元素(原子番号57:La(ランタン)~原子番号71:Lu(ルテチウム))とSc(スカンジウム)とY(イットリウム)をまとめて希土類と呼びます(下の周期表の黄色部分)。なぜScとYもあわせて呼ぶかというと、それらの元素の性質が似ているため地球上であわせて産するからです。

希土類元素の性質

希土類はすべて銀白色をしている金属です。酸化されやすいとか、ほとんどが+3価のイオンになりやすいとか化学的な性質は相互によく似ています。なぜ似ているかというと、電子の配置によります。高校の化学では、原子は族が違えば最外殻の電子数が変わり、それによって性質が異なると習ったでしょう。しかし、希土類はイオンの場合最外殻の電子配置(イオンの場合5s軌道と5p軌道)はほとんど同じで、その内側の4f軌道の電子数が互いに異なっているだけなのです。つまり図1に示すように希土類たちは皆同じ上着を着ていて中のシャツの色だけが違うようなものなのです。

図1 典型元素は原子番号が変化するにつれ最外殻の電子数が変化する。つまり異なる原子番号の元素は互いに上着の色が異なるようなもの。それに対して希土類は原子番号が異なると最外殻より内側の電子数が変化する。つまり上着は同じで内側のシャツの色が違うだけ。従って一連の希土類元素は相互に性質が似ている。

 

希土類元素の利用

筆者と同年代以上の年齢の方は、昔「キドカラー」というテレビをある電機メーカーが売り出していたのを覚えておられるでしょう。これはブラウン管の内側で画像を発色させるのに、希土類の化合物を使っていたことによるのだそうです。赤と緑の発光を出すために、それぞれユウロピウム(Eu)とテルビウム(Tb)の化合物が使われました。現在も一部の蛍光灯にはこれらの元素が使われています。

近年百均ショップでは、小さいのに非常に強力な磁石が売られていることはご存じでしょう。裏を見るとネオジ磁石とか、ネオジウム磁石とか書いてあります。正式にはネオジム(Nd)と呼ばれる希土類元素が含まれている磁石で、モーターをはじめ様々なところで利用されています。特に最近は電気自動車やハイブリッドカーのために小型で強力なモーターが必要とされており、磁石の材料としての希土類はますます重要となっています。ネオジムだけではなく、ジスプロシウム(Dy)が磁石の特性を向上させるために不可欠とされてきました。

希土類の不足と高騰

2008年にリーマンショックが起きましたが、その後希土類や貴金属の価格が高騰する事態となりました。ジスプロシウムは2011年~2012年の短期間の間に10倍近くにも価格が上昇しました。特に希土類は産出する地域が地球上できわめて限られているために、ちょっとした需給バランスの崩れで価格が変化しやすいのです。現在世界の希土類のほとんどが中国で産出されたものです。ジスプロシウムなどの代替物の研究が進められてはいますが、各国にとって安定的に希土類を得ることはきわめて重要な問題となっているのです。

太平洋の海底における希土類資源

近年南鳥島の近海の海底に希土類の濃度が高い泥が堆積しているとの調査結果が明らかになっています。冒頭で紹介した研究では、南鳥島近海の海底の泥を採取して調べたところ、ある海域の100km2ほどの地域で、海底から5~6 m下の泥に3000 ppm以上の希土類元素が含まれていることが判明したとのことです。この地域だけで酸化物として100万t以上の資源が見込め、これはジスプロシウムの50年分以上の使用量に相当するそうです。ただし、この見積もりが正しいとしても1000 m以上の深さの海底なので採掘コストが非常な問題となります。

今回の研究ではその点についても新たな提案がなされています。海底の泥には生物由来のリン酸カルシウムが含まれており、特にリン酸カルシウムは比較的粒径の大きな粒となっていること、しかもそのリン酸カルシウム粒の中に多くの希土類元素が集中していることから、大きさの大きな粒のみをより分けて持ってくるだけで、泥をそのまま採ってくるよりはさらに希土類が高濃度の原料泥を得ることができることが実証されたとしています。この操作は比較的簡単であることから、海底でその分別を行うことで、採掘コストを下げられることが期待されます。

太平洋の海底ですから、泥を採掘するとはいっても簡単なことではないでしょう。しかし資源の乏しい日本としては大きな期待が持てるニュースかもしれません。

 

参考資料:
[1] https://www.waseda.jp/top/news/58275 2018/4/30閲覧
[2] Y. Takaya, Y. Kato et al., Sci. Rep. 2018, 8, 5763. https://www.nature.com/articles/s41598-018-23948-5
[3] 米国化学会機関誌C & En 2018, 96(17); https://cen.acs.org/materials/Japanese-researchers-discover-new-supply/96/i17

The following two tabs change content below.

坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。