ローレンシウム(Lr)~長らく周期表の最後だった元素

 ローレンシウムは原子番号103の元素で,周期表第7周期のアクチノイド系列の最後の元素です。超ウラン元素で,半減期は比較的短く,安定同位体は存在しません。1997年にラザホージウム(104Rf)からマイトネリウム(109Mt)までが周期表に加えられるまで,半世紀以上にわたって周期表の末尾でした。今回は,ローレンシウムと,その名前の由来となったアメリカの物理学者E.ローレンスをご紹介します。

 

ローレンスとサイクロトロン

ノルウェーからの移民だった両親のもと,E.ローレンスはサウスダコタ州に生まれました。父は学校の校長から教育長になった人物で,ローレンスは幼少期から科学に関する本に接する機会に恵まれ,無線送信機など,器械を作るのが好きな少年になりました。サイクロトロン(Cyclotron)で加速した重陽子を用いて最初の人工元素としてテクネチウム(43Tc)をつくり出した物理学者E.セグレは,『X線からクォークまで』の中でローレンスについて,“科学者というより発明家であった。エジソンより教育はあるにしても,この大発明家と彼には一脈相通じるところがある”と書いています。

ローレンスは地元の高校からサウスダコタ大学に進み,1922年に卒業しました。その後は原子核物理学と加速器学の道に進み,1928年にカリフォルニア大学バークレー校(UCB)の物理学准教授(1930年からは教授)となり,1931年にはUCBのキャンパス内にバークレー放射線研究所(現・ローレンス・バークレー国立研究所)を創設し,その所長になりました。
ローレンスは,1932年にサイクロトロンを考案し,1934年に合衆国特許(第1948384号)を取得しました。サイクロトロンは,磁場内で円運動しているイオンを1000万~数億eV(電子ボルト)のエネルギーに加速することができる装置です。

合衆国特許・第1948384号
E. O. LAWRENCE. METHOD AND APPARATUS FOR THE ACCELERATION OF IONS. U. S. Patent 1,948,384. 1934-02-20.

 第二次世界大戦中はマンハッタン計画に参加し,核分裂による連鎖反応を起こす質量数235のウラン同位体(235U)を天然ウランから質量分析法を用いて工業的に分離することに成功しました。1939年には,「サイクロトロンの開発および人工放射性元素の研究」によりノーベル物理学賞を受賞しました。
ローレンスは戦後も加速器の改良に力を注ぎ,UCBにベバトロン(Bevatron)を建設しました。ベバトロンは1954年に造られ,陽子を60億eVの高エネルギーにまで加速することができる陽子シンクロトロンで,反陽子や反中性子などの発見に活躍しました。また,日本のサイクロトロンが進駐軍によって廃棄されたことを遺憾に思い,1951年と1955年に来日して研究者に再建について助言しました。

 

超ウラン元素の合成に挑む

ローレンスがUCBに赴任した頃は,量子力学の理論がほぼ確立し,加速された荷電粒子によって原子核を壊変する実験などから,元素を人工的に合成する試みが行われていました。彼は1929年のある日,大学図書館で近着の学術誌を見ていて,ドイツの電気工学雑誌に掲載されていたR.ヴィデローによる粒子加速の報文を見付けました。それは線型加速器で陽イオンを多段階に加速する方法と装置に関するものでした。

ウランより大きな原子番号の元素はいずれも人工の放射性元素で,「超ウラン元素」と総称されます。超ウラン元素の合成にあたって有力な仮説が,カリフォルニア大学のG.シーボーグによって1944年に提起されました。
シーボーグは,超ウラン元素と稀土類元素(周期表3族のスカンジウム(21Sc)とイットリウム(39Y)にランタノイド系列の元素を加えた17の元素群)との類似性から,ランタン(57La)はアクチニウム(89Ac)に似ているので,超ウラン元素は,ランタノイド系列の元素のように,アクチノイド系列の一連の元素群であると考えました。現在では,ランタノイド系列の元素間の類似性は,最外電子殻の内側(4f軌道)に電子が順次満たされていくことによって説明され,アクチノイド系列では,同じく最外電子殻の内側(5f軌道)が順次満たされていくことによって説明されます。

 

アクチノイド系列最後の元素の合成

ローレンスは,円形加速器を試作して実験を重ね,徐々に装置を大型化しました。また,門下の物理学者たちによるサイクロトロンを用いた人工放射性元素の合成を指導しました。その結果,バークレー放射線研究所では,テクネチウム(43Tc,1937年)に加え,1950年代までにネプツニウム(93Np)以降の超ウラン元素の多くが合成されました。

1961年,UCBのA.ギオルソらは,加速したホウ素のイオンをカリホルニウム(249Cf,250Cf,251Cf,252Cfの混合物)に照射し,新たな元素を人工的につくり出しました。このときに得られたのはローレンシウム258(258Lr)で,半減期は4秒程度でした。
B + 98Cf → 103Lr
合成された新元素の化学的性質が調べられ,酸化数は+Ⅲであることが分かりました。ランタノイド系列最後の元素ルテチウム(71Lu)の代表的な酸化数は+Ⅲで,予測通りの結果でした。新元素はアクチノイド系列の最後に位置付けられたのです。
発見者たちは,その名前をローレンスに因むローレンシウムとし,元素記号にはLwを提案しましたが,1963年,国際純正・応用化学連合(IUPAC)によってLrと定められました。

研究室のローレンス(右端)
Department of Energy. Lawrence Berkeley National Laboratory. Public Affairs Department. Strategic Resources Office. Photography Servicesによる”From left to right: Donald Cooksey, Robert Sproul, and Ernest Orlando Lawrence. Photo taken 3/19/1943”ライセンスはPD(出典:WIKIMEDIA COMMONS)

 

科学博物館ローレンス・ホール・オブ・サイエンス

ローレンスの名を冠した科学博物館Lawrence Hall of Science(LHS)がUCBの裏山にあります。LHSはUCBの附属機関で,カリフォルニア大学で初めてノーベル賞を受賞したローレンスを記念して1968年にでき,館内にはローレンス記念室があります。

ローレンス・ホール・オブ・サイエンスの建物(絵葉書より)

 LHSはまた,GEMS(Great Explorations in Math and Science)という理数領域の教育プログラムでも知られています。GEMSはLHSにある科学教育研究所で開発され,幼稚園児から高校生を対象とした参加体験型のプログラムです。1980年代に開発が始められ,実験や観察をする過程で学習者の自由な想像力を引き出しながら自然科学の基本概念や方法を学ぶことを目指しています。

 

参考文献:
「ノーベル賞講演 物理学6」中村誠太郎・小沼通二編(講談社,1978)
「X線からクォークまで 20世紀の物理学者たち」E.セグレ著,久保亮五・矢崎裕二訳(みすず書房,1983年)
「元素発見の歴史3」M.ウィークス・H.レスター著,大沼正則監訳(朝倉書店,1990年)
「ノーベル賞受賞者業績事典」ノーベル賞人名辞典編集委員会編(日外アソシエーツ,2003年)
「ノーベル賞受賞者人物事典 物理学賞・化学賞」東京書籍編集部編(東京書籍,2010年)
「元素118の新知識」桜井 弘著(講談社,2017年)

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園部利彦

園部利彦

2017年3月まで岐阜県立高等学校で化学を教え退職。化学(科学)の歴史と科学者に興味があり、趣味は鉱山の旅とフランス語。