エタノールの血中濃度とそのリスク

はじめに

エタノール(C2H5OH)は、分子量46.07の炭素数2の1級アルコールです。嗜好品としてのアルコール類は身の回りにたくさんありますが、エタノールはその主成分です。飲用すると酔います(酩酊状態)。酩酊状態では、けんかや交通事故などの事件(暴行傷害、飲酒運転の加害者や被害者)、転倒・転落、溺死などの事故も多く、法医学的にも重要な薬物です。法医解剖では必ず、血中と尿中のアルコール(エタノール)濃度を測定します。エタノールの測定は比較的簡単で、気化平衡法(ヘッドスペース法)を用いて、ガスクロマトグラフで測定します。約1時間あれば測定できます。

酩酊度

酩酊の程度を酩酊度といいます。日本酒は約15%エタノールを含み、エタノールの比重0.789を考慮すると、1合(180mL)に約21gのエタノールを含みます。このエタノール量を便宜上、アルコール1単位とします。

日本酒1合を飲むと、胃や小腸からすみやかに吸収され、標準的な体格の男性では、約30分後に血中エタノール濃度は約0.5mg/mLとなることがわかっています1。個人差はありますが、ほろ酔い気分になる血中濃度です。道路交通法の酒気帯び運転の基準は0.3mg/mLなので、日本酒1合であっても、飲酒後の運転は絶対だめです。ビールの場合、約5%のエタノールを含むので、ビール中瓶(500mL)が日本酒1合(アルコール1単位)相当となります。飲酒量の増加とともに、血中エタノール濃度はほぼ比例して上昇します(1単位で0.5mg/mL 、2単位で1.0mg/mL、・・・、10単位で5.0mg/mL)。表に酩酊度と血中アルコール濃度、症状をまとめました。

エタノールの毒性

エタノールに対して、細胞に特異的なレセプターはないとされています。それでは、なぜ酒を飲むと酩酊するのでしょうか。エタノールはその化学構造から、親水性のヒドロキシル基 -OH、疎水性のエチル基 C2H5-を有しています。つまり、水にも油にも溶けます。そのため、体の隅々に拡散して行き渡ります。当然、脳にも達し、脳の神経細胞の細胞膜に入り込み、膜の安定性に影響を与えます。そうすると、脳の神経活動に影響を与えます。簡単にいうと、脳が麻酔されてしまいます。そのため、感覚が鈍ったり、気分爽快になったり、理性がとれて感情的になったりします。エタノールの怖いところは、中毒濃度と致死濃度が近いことです。

薬物が生体に作用する場合、レセプターに作用する場合では、薬物の有効濃度はng/mL、または、μg/mL程度です。しかし、エタノールはmg/mLではじめて作用(酩酊)が見られます。つまり、通常の医薬品の1000倍高い濃度で使われる薬剤とも言えます。逆説的に言うと、エタノールは相当「効きが悪い」薬物です(生体の感受性が低い)。他方、エタノールの致死濃度は血中4.5mg/mLとされています(致死量 200g程度)この濃度では、脳の生命維持中枢の延髄が麻酔され、呼吸や心拍が停止するからです。日本酒9合、先ほどのアルコールの単位数でいうと9単位が致死量に相当します。通常の宴会などで、飲み過ぎた場合、日本酒3〜5合程度の飲酒量になることは普通です。その場合、酩酊状態として、悪心・嘔吐、千鳥足になります。

また、気分が大きくなって、けんかしたり、転倒して頭部を打撲するなどすることもあります。これは、エタノールは毒性が低いため、薬物としては多量に摂取して、その毒性を発現させ、酩酊状態を楽しんでいるわけです。しかし、通常飲酒量の2倍程度の飲酒量は致死量になっていることに起因します。毎年のように、お花見や新入生歓迎会の時期に日本酒1本(1升 = 10合)の一気飲みでの不幸な死亡事故が起こっています。

なお、同じ1級アルコールでも、炭素数1のメタノール(CH3OH)はエタノールより毒性が強く、致死量は50〜150gです。メタノールの工業用途は広く、製造工程などでの労災事故もあります。また、酒に混入されたメタノールによる中毒事件もあります。メタノールの特徴的な毒性として、網膜毒性があり、失明することもあります2

おわりに

アルコール(エタノール)は毒性が低いため、生体は多量に摂取して、ぎりぎりのところまで耐えている状態ですが、それを越えるとすぐに致死に至るという特徴(安全域が狭い)があることも忘れず、お酒を楽しむことにしましょう。次回も、エタノールの続きです。飲酒の個人差、悪酔い、などについて書きます。

 

参考文献:
1.古村節男. アルコール.永野耐造,若杉長英編.現代の法医学 第3版.pp. 185-191,金原出版,東京,1995.
2.Anthony T. メタノール中毒. 中毒学概論 –毒の科学-. pp.120-123, じほう, 東京, 1999.

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上村 公一

上村 公一

東京医科歯科大学教授、専門は法医学、もと高校教諭(化学)。死因究明業務と薬毒物による細胞死の研究に従事。最近、テレビドラマの法医学監修もしている。