新しい熱伝導材料

皆さんこんにちは
熱伝導率は熱の伝わりやすさを示す値です。熱伝導率が高い材料としてはたとえば銅やアルミニウムが知られています。これらは熱のまわりがいいということで鍋に使われたりもします。これに対してステンレスはなぜか鉄に比べても熱伝導率が悪いので、これを活かしてフライパンの取っ手や、断熱ボトルなどに使われています。せっかくボトルを真空層をはさんだ二重構造にしても熱伝導率の高い材料でボトルを作るとその材料を伝って熱が伝わってしまうのです。

図1 いくつかの材料の熱伝導率

近年高性能な熱伝導材料が求められています。特に電子機器が高性能になってくるとCPUなどの発する熱をいかに逃がすかが高性能化の鍵だそうです。PCでもちょっと高性能な奴には大きな放熱器がついていて、これがないとあっという間にCPUは200度以上になり壊れてしまうのです。

そこで熱を逃がすために様々な熱伝導材料が開発されてきました。最も熱伝導率が高い材料としてはダイヤモンドが知られています(図1参照)。 しかし当然ダイヤモンドをふんだんに使うわけにはいきませんよね。カーボンナノチューブや黒鉛など炭素からなる新材料も高い熱伝導率を持っていますが、ある方向にのみ伝導性がいいとか欠点もあります。

新しい熱伝導材料 BAs

2018年8月に、3つの研究機関から独立に新しい熱伝導材料の合成とその実際のデータが発表されました[1],[2],[3]。ヒ化ホウ素BAsです。この物質は以前理論計算により高い熱伝導率を持つことが予測されていたのですが、これまでは測定に十分な大きさの結晶を作ることができませんでした。今回3つのグループとも化学気相輸送法(Chemical Vapor Transport Method)によって、数ミリサイズの結晶を作ることに成功し、その熱伝導率を測定して熱伝導の機構を考察しています。化学気相輸送法とは、物質を合成する材料を加熱し、ガスの気流に乗せて基盤となる材料の上で化学反応させ、目的物を得る方法です。様々な新材料を作るために利用されています。

 

図2 ヒ化ホウ素の構造(黄色い玉がヒ素で青紫の玉がホウ素を表しています)

ヒ化ホウ素の構造は図2に示したとおりです。これは実は亜鉛の鉱石の一つである閃亜鉛鉱ZnSの構造と類似しています。この化合物の特徴は化合物を構成する元素の重さが極端に違うことです。(B : As = 11 : 75) このような違いがあることが恐らく合成が難しい要因の1つです。私の研究分野(錯体化学)では、陽イオンと陰イオンの大きさがなるべく近い方が結晶を作りやすいといわれています。今回合成条件を様々に工夫して材料の合成に成功したということです。2つの元素の重さが極端に違うことが実は高熱伝導材料となる条件の一つとして考えられてきたとのことです。

これらのサンプルの熱伝導率はいくつかの方法で測定されています。3つのグループがそれぞれ合成したいくつかのサンプルの中で最も高い熱伝導率を示した試料の熱伝導率の値は、1140 W/m・K (±15%)の範囲に入っており[4]、いずれにしても非常に高い熱伝導率を示すことが分かりました。温度が上がることで熱伝導率が下がるなど、様々な測定結果からなぜ高い熱伝導率を示すのかも考察されています。

この物質はダイヤモンドにはない長所も持っています。物質に熱が加わると膨張します。ケイ素の半導体にダイヤモンドを貼り付けて熱を逃がそうとすると、温度変化によってケイ素が膨張しますが、ダイヤモンドとケイ素は熱膨張率が大きく違うのではがれてしまう可能性があります。しかしBAsの熱膨張率はケイ素などの半導体材料の熱膨張率と近いので都合がいいということです。

おわりに

実は今回3つのグループが同様な結果を報告したのですが、不思議なことにその3つの論文は同じScienceという雑誌の同じ号に掲載されています。こんなことが偶然起こることは考えられません。実はこの3つのグループに属する何人かはかつて同じ研究室で研究していたとのことです[5]。どのような経緯でこのように3つのグループの論文が同じ号に掲載されたかは定かでありませんが、それらをまとめて論評した論文(参考文献4)も同じ号に掲載されており、極めてホットな内容を提供する意図が感じられますね。
それではまた来月お会いしましょう。

 

参考資料:
[1] J. Kang, M. Li, H. Wu, H. Nguyen, Y. Hu Science, 2018, 361, 575-578. http://science.sciencemag.org/content/361/6402/575

[2] S. Li, Q. Zheng, Y. Lv, X. Liu, X. Wang, P. Huang, D. Cahill, B. Lv Science, 2018, 361, 579-581. http://science.sciencemag.org/content/361/6402/579

[3] F. Tian, B. Song, X. Chen, N. Ravichandran, Y. Lv, K. Chen, S. Sullivan, J. Kim, Y. Zhou, T.-H. Liu, M. Goni, Z. Ding, J. Sun, G. Gamage, H. Sun, H. Ziyaee, S. Huyan, L. Deng, J. Zhou, A. Schmidt, S. Chen, C.-W. Chu, P. Huang, D. Broido L. Shi, G. Chen, Z. Ren Science, 2018, 361, 582-585. http://science.sciencemag.org/content/361/6402/582

[4] C. Demas Science, 2018, 361, 549-550. http://science.sciencemag.org/content/361/6402/549

[5] Chem. Eng. News 2018, July 23, 8.

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坪村太郎

坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。
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