様々な形の周期表と未発見元素

皆さんこんにちは

今年2019年は国際周期表年(International Year of Periodic Table: IYPT)です。このことはすでにこのブログメンデレーエフと周期律のところで取り上げられていますが、ここで周期表についてもっと詳しくお話ししましょう。表1は現在の周期表です[1]。長周期型と呼ばれます。表の上についているのが族の番号で1族から18族まであって、族ごとに元素の性質が似ているのです。

表1 現在の周期表
ニホニウムNh,モスコビウムMc、テネシンTs、オガネソンOgの4つが2016年に正式に追加された。

周期表を提唱したのはメンデレーエフDmitri Mendeleev(1834-1907)であることは知っている方も多いでしょう。今年は彼が周期表を発表[2]してから150年に当たります!!彼は全ての元素が埋まった表の夢を見て、その後起きてから早速表を作ってみたとも言われています。

彼が最初に発表した周期表は表2のようなものでした。今の周期表と違って縦に元素が並んでいます。見慣れない記号の元素もあります。彼は当時知られていた60余の元素を原子量の順に並べると同じ性質の原子が隣同士となることを見いだしたのです。そして彼はいくつかの元素は未発見であり、それを飛ばして並べるべきだと考えました。例えば現在ゲルマニウムやガリウムが当時知られていない元素だったのですがそれらは表では「?」と表示されています。彼はこの表からそれらの未知の元素の色や密度といった性質を予言しました。後になってそれらの元素が発見され、それらの性質が彼の予言とよく一致していたために彼の名声は高まったということはよく知られています。

表2 メンデレーエフが1869年に発表した周期表

実は彼以外にも似たことを考えた化学者は何人かいました。例えば英国のニューランズJohn Newlands(1837–1898) はいくつかの元素をその性質によって8種にわけ、表にしました。その結果同じ性質を持つ元素の原子量が8の倍数だけ違うことがよく見られることを発見したのです。また、ドイツのメイヤーJulius Lothar Meyer(1830-1895)はメンデレーエフと同じように元素を表に並べることを考えていました、1869年にメンデレーエフが周期表を発表して数ヶ月後に同様な周期表を発表しています。1882年にメイヤーとメンデレーエフは英国王立学会から同時にDavyメダルを受賞しています。

さて、1871年にメンデレーエフは、現在の周期表に近い横型のものを発表しました。それが進化したものが短周期型周期表と呼ばれるもので第2次大戦後まで使われました。この場合元素はI族からVIII族までと、0族のどれかに分類されました。いくつかの族ではさらにAとBに分かれていました。このような族の分類の名前は実は長周期型の周期表が一般的になってもしばらく使われました(AとBの記号の付け方は世界的には異なる定義が出回って混乱していました)。実は私は高校時代族の番号は古い定義で習った気がします。炭素は4族と覚えていたのにいきなり14族になって面食らったことを覚えています。

表3 短周期型周期表

これまでには様々な人が様々な形の周期表を提案しています。[3] フランスのジャネットCharles Janet(1849-1932)は表4のような長い周期表を考えました。この形にすると各原子の電子の配置をうまく説明できる利点があります。

表4 Janet型の周期表(最近発見された元素もすべて加えてある)

最後にご紹介するのはフィンランドのピューッコPekka Pyykköという方が2010年に提唱された周期表(表5)です。彼は理論的に172個の元素の電子配置を計算しそれに基づき、それらの元素がどの族に入るべきかを予測して大きな周期表を作りました[4]。私はOg以上は非常に困難と思っていたのですが、あと50個もありうるとは驚きですね。

表5 Pyykköの周期表

今日はここまでにいたします。皆さんもぜひ昔の化学者の苦労や新しい元素の探究について思いを巡らせながら周期表を眺めてみてはいかがでしょうか?ではまたお会いしましょう。

 

参考資料:
[1] IUPAC (国際純正および応用化学連合)最新版の周期表は以下。
https://iupac.org/wp-content/uploads/2018/12/IUPAC_Periodic_Table-01Dec18.pdf
[2]  Менделеев, Д.. Журнал Русского Химического Общества 1: 60–77(1869). ロシア語で読めませんが、メンデレーエフ、D、ロシア化学会雑誌1巻、60-77ページという意味です。同じ年にドイツの学術雑誌にも報告したとのことです。
[3] たとえばhttps://ja.wikipedia.org/wiki/周期表 を参照
[4] Pekka Pyykkö、Phys. Chem. Chem. Phys., 2011, 13, 161-168.

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坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。