植物の灰という名の元素カリウム(K)~旧約聖書の時代から利用されてきた~

元素記号K、原子番号19番の元素、カリウム。
英名potassium は、カリウムの単離に最初に成功したイギリスの化学者ハンフリー・デービーによって名付けられたとされる。pot(壺)-ash(灰)つまり壺に入れられた草木の灰を意味する言葉に由来している。カリウム以降、元素名の語尾に-iumをつける習慣がついたそうだ。日本語ではカリウムというドイツ語読み(Kalium)が使われるが、kaljan(植物の灰、アラビア語)またはkal(軽い、ヘブライ語)に由来するといわていれる。

金属カリウムは空気中ですぐ酸化され金属光沢を失い、水と接触すると激しく反応して水素を発生させる。次の動画では、水をたっぷり含ませたろ紙と金属カリウムの発火の様子、そして、フェノールフタレインの滴下によるピンクの呈色から水酸化カリウムの生成が確認できる。
反応式: 2K +2H2O →2KOH +H2


金属カリウムの水との反応
(動画提供:公立大学法人 都留文科大学教養学部学校教育学科山田暢司特任教授)

植物に最も多く含まれる陽イオンはカリウムである。その濃度はナトリウムの約10倍もあり、その名前の由来に納得できる。カリウムは肥料の三大元素N・P・Kのひとつで、塩化カリウムなどが化学肥料の原料に使われている。世界のカリウム消費量のおよそ 90%がこの肥料用需要である。植物の灰を水につけて得られる抽出液(アルカリ性の水溶液、灰汁あく)が洗濯物の洗濯に使えたことが、旧約聖書に記されている。

カリウムは天然にはカリウムケイ酸塩として岩石や土壌に広く存在している。生物にとって必須元素で、その生理作用は多種多様である。ヒトにおいては細胞内外での浸透圧調整、タンパク質合成、ナトリウムの尿中排泄の促進、また神経や筋肉の興奮信号の伝達、にも寄与している。下痢や多量の発汗などによってカリウムは損失しやすくなり、カリウム不足は 足がつったり、筋肉が痙攣けいれんしたりする原因になる。

カリウムの用途

カリウム化合物の用途は多岐にわたり、炭酸塩はガラスの原料に、水酸化物は液体せっけんの原料になる。ナトリウムカリウム合金は原子炉の冷却材の他、乾燥剤や反応剤などにも使われる。カリウムの蒸気やクロム酸カリウム、酢酸カリウムは、磁気センサ、染料、インク、花火、爆薬や火薬の酸化剤などに使われてる。カリウム硝酸塩は保存食の添加剤、歯磨剤、太陽熱発電の蓄熱媒体などにも使用されている。

カリウムの水和性

ナトリウムとカリウムは同族で似た性質を示すことも多いが、水分子の水和についてはカリウムイオンの方が水分子を強く拘束することが実験的また理論的にも説明されている。相田・田中の計算科学的手法による研究成果によると、イオンのまわりの水分子の配置は、NaイオンよりもKイオンの方が多く、またNaイオンはイオンの半径の外7Åの水分子までイオンの影響があるのに対し、Kイオンの場合は9Åに位置する水分子までイオンの影響があることが示されている。

 

実験1 液体せっけんの作り方

私たちが日頃使っている石鹸には、「液体」と「固形」がある。油脂と水酸化ナトリウムを反応させた「固形せっけん」と油脂と水酸化カリウムを反応させた「液体せっけん」。実は、けん化反応に使われるアルカリの種類が違っている。

身近なオイルと水酸化カリウム水溶液を用いて液体せっけんを作る一例を紹介する。

材料:オイル(ココナッツ、ホホバオイル、オリーブオイルなど)450gに対して、水酸化カリウム100gを精製水(蒸留水)300gに溶かした水溶液を準備する。

手順:オイルを湯浴などで60~70℃に温め、準備した水酸化カリウム水溶液を少しずつ足していき、攪拌しながら混ぜ合わせる。その後湯浴温度を90℃程度に保ち、3~4時間かき混ぜながら温度を保つ。反応が進むと硬めのペースト状のものができる。できるだけ攪拌を丁寧に続けるとよい。反応の完了の判断は、少しだけペーストを取り出して精製水に溶かしてみて、ほぼ透明であれば終了とする。白濁するようであれば保温と攪拌を続ける。

出来上がったペーストを計り取り、20~40%の水溶液になるように精製水を加えて静かに混ぜると液体せっけんの出来上がり。好みに応じて香りづけをしてもよい。ペーストは密閉容器に入れて冷暗所で保管しておくと、“液体せっけんの素”として必要なときに作り足すことができる。

皆さんもご存知のように、固形せっけん(ナトリウムせっけん)を作るときには水酸化ナトリウムを用いるのが一般的である。また、塩析をするとせっけんが水溶液からよく分離される。しかし、液体せっけんを作るときは水溶液から分離をすることができないので灰汁の量はできるだけ最低限に抑えることが望ましい。また、ナトリウムせっけんを作る際に塩析をするとせっけんができる反応の副生成物グリセリン(保湿効果がある)もほとんど除去されるが、液体せっけんの合成では塩析をしないので、グリセリンがせっけんに含まれる。そのため液体せっけんは固形せっけんに比べると使用後に肌がしっとりとする。

液体せっけんが塩析できない理由は、先に述べた、カリウムイオンの水との高い親和性が関連していると考えられている。カリウムせっけんは、水分子を捕まえる力がナトリウムせっけんよりも強く、食塩の力で水分子を奪うことができないため、塩析ができない。

 

実験2 ヨウ化カリウムを使った「ゾウの歯磨き粉」実験

容器として三角フラスコ( 200 mL程度)、溶液の計測用にメスシリンダー(100 mL程度)を準備する。実験台や周りを汚さないように、水槽や桶の中で行うとよい。水槽に設置した三角フラスコに洗剤 (または石鹸水)20 mLと過酸化水素 50mLを入れる。そこにヨウ化カリウム 20g を水30mLで溶かした水溶液を一度に注ぐ。すると反応が始まり、「ゾウの歯磨き粉」を見ることができる。

ゾウの歯磨き粉の様子

これは、中性洗剤(または石鹸水)の中で、過酸化水素の分解によって酸素が連続的に発生するため、次々とマシュマロ状の泡が発生し続ける現象である。この際ヨウ化カリウムから供給されるヨウ素イオンが触媒として働き、勢いよくゾウが使えそうな大きな歯磨きペーストがにゅるにゅると出てくるように見える。過酸化水素水とヨウ素の反応は次のとおりである。

H2O2   +  I  →  H2O  +  IO
H2O2    +  IO  →  H2O  +  O2  +  I

 

参考文献:

桜井弘「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年
小学館、日本大百科全書(ニッポニカ)のページより、カリウム:https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0-47349
一般社団法人日本植物生理学会のホームページ:https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1785
相田美砂子、田中雅人、「溶媒水分子は,溶質によってどの程度変わるのか : アルカリ金属イオンの溶媒和の場合」低温科学、 64、p.21-30、2006年
JOGMEC金属資源情報、鉱物資源マテリアルフロー 2017 33.カリウム (K):http://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2018/03/material_flow2017_K.pdf
石鹸百科のホームページ:https://www.live-science.com/
How to make liquid soap: http://chickensintheroad.com/house/crafts/how-to-make-liquid-soap/

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。