メンデレーエフと周期律

周期表
周期律に従って元素が並べられている。この周期律を150年前にメンデレーエフが発見し、
現在の周期表の原型をつくった。(Depositphotos)

2019年の今年は「国際周期表年」です。

ロシアの化学者ドミトリ・メンデレーエフが元素の周期律を発見してから150年めにあたる、記念すべき年なのです。

国際連合は、周期表を“科学において最も重要な功績の一つで、化学だけでなく物理学と生物学の本質をとらえるもの”とたたえています。物理学ではアインシュタインの相対論、生物学ではダーウィンの進化論に匹敵する業績だと考える人もいます。

中学校の校長だった父親は病気のため早くなくなり、母親は14人きょうだいの末っ子のドミトリに最高の教育を受けさせようと、15才の息子を連れて数百キロはなれたモスクワ大学をたずね、入学を願いましたが、シベリア族のドミトリは門前ばらいを受けてしまいます。ドミトリはやむなくペテルブルクの師範学校に入り、教育学、化学、物理学、生物学を学びます。

卒業後、化学の教師として教壇に立つようになると、めきめき頭角をあらわし、すぐれた化学の教科書を編むことに情熱をもやします。元素と原子量に関する正しい知見をみいだすことが、そのために必須の条件だとドミトリは考え、懸命に努力をつづけます。

周期律の発見

1869年2月17日、元素や原子量のことを10年間考えつづけたメンデレーエフに、ついにひらめきの瞬間がおとずれます。

当時知られていた元素の数は63種類でしたが、メンデレーエフはその夕刻、63元素をきれいにまとめた表をつくりました。その表を200部印刷してヨーロッパ中の化学者に送り、3月6日には創立直後のロシア化学会で発表します。元素周期表の誕生です。

周期表を夢に見たとか、元素のカードをトランプのように並べながら周期表をみつけたとかの説もあります。でも、これはあてにならない噂話でしょう。
いずれにしても、メンデレーエフは周期律が元素にとって本質的なものであることを見抜いた最初の化学者なのです。

“元素をその原子量の大きさの順序に並べると、元素の性質が周期的に変わる”というのが、周期律の本質ですが、メンデレーエフは当時わかっていた63元素を一つの表にまとめ、周期表をつくりあげました。

それだけではなく、メンデレーエフは周期表にあらわれた不合理な点を周期律によって是正し、未知の元素の予言まで行ったのです。

後に予言通りにいくつかの元素がみつかったので、それまで必ずしも認められなかった周期表が、一躍科学的な業績として知られるようになりました。1875年にガリウム(メンデレーエフはエカアルミニウムと表記)、1879年にはスカンジウム(エカホウ素)、1886年にはゲルマニウム(エカケイ素)が発見され、それら元素の性質は、メンデレーエフの予言とほとんど一致していました。

表1.エカケイ素(ゲルマニウム)の性質(予測と実測)

2016年に113番目の元素「ニホニウム(Nh)」が正式に認められ、自然界の92元素に人工の元素がいくつも加わっています。周期表はそうした意味で決して完成したものではありません。

元素を並べる指標が原子番号だとわかったのは1913年のことですし、水素(原子番号1)からウラン(原子番号92)までの自然元素がそろったのは、ようやく1945年のことです。こまかい点では、周期表はいまなお進化をつづけているということができます。

全ては元素でできている

ところで、宇宙に存在する星や地球にしても、私たちのような生きものにしても、この世に出現したものは必ずいつかはほろびます。ところが元素は、かたちが変わることはあっても、その成分である中性子・陽子・電子などは決してなくなってしまうことがありません。私たちのからだが宇宙のかけらでできているといわれるのもそういう意味です。

私たちのからだをつくっている元素は、宇宙のどこからか飛んできたちりの一つかも知れませんし、大昔の動物や植物をつくっていた成分かもしれません。もしかすると私たちのからだの中には、シェークスピアやアインシュタインのからだをつくっていた元素の一部が含まれているかも知れないのです。

元素の数はとてつもなく多く、1 cm3の空気には、450億個の10億倍の分子が詰まっているといいます。たとえば、コップ一杯の水を太平洋に流し込んだとします。その水が拡散したあとでもう一度太平洋のどこかで水をすくってみると、その中に数十個は前のコップの中にあった元素が入っている計算になるそうです。

元素の周期表は、私たちにさまざまな想像をかきたててくれる宝庫です。機会があったら周期表に接して、宇宙の摂理に想いをめぐらしてみてはいかがでしょうか。

 

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餌取 章男(えとり あきお)

東京大学卒業。日本教育テレビ(現・テレビ朝日)、東京12チャンネル(現・テレビ東京)などを経て、日本経済新聞社で『サイエンス』の創刊に従事し、初代編集長に就任。その後、フリーで、各種研究機関や大学、一般誌などに記事やコラムを提供。科学ジャーナリストや大学・研究機関のOB研究者らでNPO「科学宅配塾」を設立、主宰する。現在、サイテック・コミュニケーションズ社で特別顧問を務める。
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