窒素からアンモニアを作る

皆さんこんにちは
今回は前回に続いて窒素を反応させるお話です。日本でも窒素からアンモニアが毎年100万t程度製造されています。アンモニアは主に肥料の原料として使われ、現代社会になくてはならない材料です。

図1 工場でのアンモニア製造

アンモニアは高校の化学で習われたようにハーバー法(ハーバー・ボッシュ法とも)で作られます(図1)。この方法では空気中の窒素ガスと水素ガスから触媒を使って反応させ、アンモニアを合成します。ただし窒素(N2)は極めて反応しにくい分子なので、反応を行うには数百度、数百気圧という条件が必要なのです。このためにアンモニアの製造には多大なエネルギーが必要です。

凄いバクテリア

実は植物に寄生しているバクテリアの仲間には、空気中の窒素からアンモニアを作っているものがいます。これらのバクテリアはニトロゲナーゼという酵素を持っていて、この酵素はいとも容易に(通常の温度と圧力の下で)アンモニアを作ることができるのです(図2)。

図2 ニトロゲナーゼという酵素中でのアンモニア合成

ニトロゲナーゼの中にはFeMoCo(鉄とモリブデンという金属を含む酵素反応を行う部位)と呼ばれるユニットがあって、このユニットが窒素を反応させる鍵になっていることは以前から知られていました。そこでモリブデンや鉄あるいはその他の金属原子を使って、窒素を反応させようという試みは30年以上前から続けられてきたのです。特にモリブデン化合物は様々に研究がなされてきました。しかしいまだに工業化に結びつくような方法は見いだされていません。人間はバクテリアに勝てないのです。

画期的なアンモニア合成法

本年4月末に次世代型のアンモニア合成反応開発の指針になる方法が見つけられたというニュースが報道されました[1]。東京大学の西林仁昭(にしばやしよしあき)先生らのグループは世界ではじめて窒素分子と水からアンモニアを作ることに成功したのです[2]

バクテリアはハーバー法のように窒素N2と水素H2からアンモニアを作っているのではありません。窒素N2と水素イオンH+そして電子eからアンモニアを作るのです。水素イオンと電子が合体すると水素原子になることを考えると、水素分子を使おうが、水素イオンと電子を使おうがあまり差がないように思われるかもしれませんが、化学的には大いに違うのです。後者の場合水素イオンは水中に存在していますが、電子は還元剤として与える必要があります。西林先生たちは還元剤として知られている二ヨウ化サマリウム[3](SmI2)を加えることを考えたそうです。

最初有機溶媒中でエチレングリコールと呼ばれる物質[4]、モリブデンの化合物(触媒)とヨウ化サマリウムを加え、窒素ガスを吹き込み反応を行ったところ、室温でアンモニアが生成することを見いだしました。さらに実験を重ね、最終的にはエチレングリコールではなくて水を用いてもアンモニアが生成することが分かりました。加えたモリブデン化合物の4300倍のアンモニアが生成したとのことです。またその反応速度はニトロゲナーゼのそれに匹敵するという速いものでした。

彼らはその反応の仕組みについて、たとえば図3のように考えています。モリブデン化合物によって窒素が活性化され、窒素原子になり、一方サマリウム化合物により水から水素イオンとエネルギーの高い電子が作り出され、両者が合体することでアンモニアができるというものです。

図3 窒素と水からアンモニアが生成する反応の推定される機構の1つ。赤で示したMoはあるモリブデン化合物を表している。まずモリブデン化合物と窒素分子が反応して窒素分子をモリブデンが挟むような化合物が生成し、そこから窒素原子間の結合が切れてモリブデン化合物に窒素原子が結合した物質ができる。一方サマリウム化合物と水から水素イオンで電子が発生する。両者の反応で、アンモニアができ、モリブデン化合物は再生され、再度使われる。

図3をご覧になっておわかりのように、アンモニアを2分子合成するには6分子のヨウ化サマリウムが必要です。ヨウ化サマリウムは高価な化合物です。従って今回の発見はそのまま工業化することはできません。しかし、窒素ガスと水からアンモニアを作ることができたということは従来全くできなかったことで、新しいアンモニア製造への大きな一歩とも言える発見です。それではまた次回お会いしましょう。

 

参考資料:
[1] https://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe/press/setnws_201904251057246383830380.html
[2] Y. Ashida, Kazuya.Arashiba, K. Nakajima, Y. Nishibayashi, Nature, 568(7753), 536-540, 2019.  (DOI: 10.1038/s41586-019-1134-2)。2019年4月25日新聞各紙で報道。
[3] サマリウムは希土類元素の一つで、以前磁石の材料として使われていた金属です。通常+3価の化合物を作りますが、ここでは+2価の化合物が使われています。
[4] エチレングリコール(OHCH2CH2OH)はアルコールの一種で自動車の不凍液などとして使われています。

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坪村太郎

坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。
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