ダイヤモンドは超高圧下でもダイヤモンドだった

ダイヤモンドは、炭素原子のみでできている単体ですね。ほかに炭素原子のみからできている同素体には、黒鉛やサッカーボール型のC60(フラーレン)などがよく知られています。その中でダイヤモンドは世界で最も硬いものであり、圧力をかけても簡単には壊れません。しかし、理論的な研究によって、ダイヤモンドは1 TPa(テラパスカル、大気圧の10000000倍)の超高圧下では別の構造である、C8体心立方炭素に変化すると言われてきました1

図1 炭素の同素体の例。 (a) ダイヤモンド、それぞれの炭素原子には4つの炭素原子が結合している。炭素原子の周りは正四面体構造。 (b) 黒鉛、炭素原子は蜂の巣状に結合した炭素原子が平面をなしていて、それらが積層した構造となっている。 (c) C8体心立方型炭素、超高圧下で存在すると予測されている。
(c)の図は https://en.wikipedia.org/wiki/Allotropes_of_carbon より転載

 今回、米国の研究所の科学者らは、大規模なレーザー実験装置を用い、2 TPa という超高圧下でもダイヤモンドはその構造を保っていることを見いだしました。この実験は米国の国立点火施設(National Ignition Facility、NIF)2というところで行われました。この施設は、アメリカ合衆国カリフォルニア州にあるローレンス・リバモア国立研究所にあり、超高出力のレーザーを用いる実験施設として計画され、2009年に完成して以来様々な実験が行われています。
テラパスカルという超高圧を実現するために、Ramp Compressionと呼ばれる方法が近年開発されています。測定したい試料(図2 S)に、光を吸収する物質(図2 A)を貼り付け、ここに超高出力のレーザー光(今回は1cm-2あたり5×1012 W)をごく短時間(ns = 10-9 秒程度)当てます。するとAが急激に加熱され、原子状になったAが急速に膨張し、Sに圧力をかけます。これによって20 ns程度の時間のあいだに、試料にかかる圧力は2 TPaにまで上昇するのです。これまでにも単にダイヤモンドにこの手法を用いて高圧をかけた実験結果は報告されていました3。しかし、そのような高圧下でどのような構造になっているかは分からなかったのです。
固体試料(特に結晶)の構造を調べるのに、X線を用いる方法はよく知られています。今回の実験では、上述の方法で試料のダイヤモンドに高圧をかけ、圧力が2 TPaになったときに、X線を試料にごく短時間当てて、試料から散乱されるX線を分析することで、試料の構造を調べることに成功しました。しかもそのX線は、やはり強力レーザー光をゲルマニウムなどから出来ているターゲットに当てることで発生させました。こうして得られたデータを調べると、なんと2 TPaにおいても、ダイヤモンドはもとの結晶構造を保っていたのです。もちろん超高圧下ですからダイヤモンドは全体に縮んでおり、密度は8.4 gcm-1に達していましたが(ダイヤモンドの密度は通常は3.5 gcm-1)、その構造はもとと同じ形であり、C8体心立方型ではなかったのです。

図2 超高圧実験の模式図。 試料(S)は土台(T)と吸収体(A)に挟まれている。Aには超強力レーザー光を16方向から同時にあて、Aが急速に加熱され原子が放出されて試料(S)のダイヤモンドが加圧される。圧力が最大限に達したときに、別のレ-ザー光がターゲット(緑色四角)にあたり、X線が発生する。それが加圧されたSに当たって構造に応じた散乱角で散乱される。散乱されたX線は右側薄緑色で示された部分に当たることで検出される。

 今回かけられた2 TPaという圧力は、地球の中心部分の圧力の5倍程度とのことです。それでも通常のダイヤモンド構造を保っていたということは、四面体型の構造においてC-C結合がいかに強いかを表しています。このような実験は、炭素という生命体に欠かせない元素が多くの天体の中でどのような構造となっているかなどの疑問に対して多くの示唆を与えるとして注目されています。それではまた次回お会いしましょう。

 

1)Johnston, R. L.; Hoffmann, R. J. Am. Chem. Soc. 1989, 111 (3), 810–819. https://doi.org/10.1021/ja00185a004.
2)https://lasers.llnl.gov/about/what-is-nif 非常に大規模な装置であることが分かります。規模は多少小さいですが、大阪大学にも同様な実験施設があります。https://www.ile.osaka-u.ac.jp/ja/facilities/gxii/index.html
3)Smith, R. F.; Eggert, J. H.; Jeanloz, R.; Duffy, T. S.; Braun, D. G.; Patterson, J. R.; Rudd, R. E.; Biener, J.; Lazicki, A. E.; Hamza, A. V.; Wang, J.; Braun, T.; Benedict, L. X.; Celliers, P. M.; Collins, G. W. Nature 2014, 511 (7509), 330–333. https://doi.org/10.1038/nature13526.

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坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。