色だけでなく多彩な機能をもつ元素 セリウム(Ce、原子番号58)

白色LEDと黄色蛍光体

2014年、青色発光ダイオード(LED)の発明と実用化に貢献した業績が認められ、赤崎勇・名城大学教授、天野浩・名古屋大学教授、中村修二・米カリフォルニア大学教授にノーベル物理学賞が授与された。この青色LEDの発明によって、白色光をLEDで表現できるようになった結果、明るくて省エネルギーの白色光源が新しく生まれ、照明やディスプレイの世界を変えた。

図1 発光ダイオード(LED)

白色LEDのほとんどは、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせ、青と黄の補色関係を利用して白色とする方式を基本構成としている。青色LEDには電圧をかけると発光する窒化ガリウムGaN 半導体が用いられ、黄色蛍光体には少量のセリウムイオン(Ce3+)を含むイットリウムアルミニウムガーネット(Y3Al5O12, YAG)が最もよく使用されている。この方式では単一の蛍光体のみで白色LEDを構成できるために光学特性の調整が容易で、しかも青色LEDの透過光を利用できるため発光効率が高いという特長がある。しかしながら、光の三原色である赤緑青(RGB)のうちで赤色光成分を大きく欠いているために、青白い白色となるため、ディスプレイなどのより純粋な白色が求められる用途においては、青色励起により赤色で発光する窒化物蛍光体を混合することによって演色性を向上させている。

図2 白色LEDの基本構成

 

黄色顔料

白色LEDに用いられる黄色発光Ce3+ドープY3Al5O12蛍光体(YAG: Ce)は、発光色だけでなく蛍光体そのものが黄色に着色している。また、酸化セリウム(CeO2)の色は淡黄色であるが、他の金属元素と組み合わせることで黄色の着色が強くなる。例えば、酸化セリウム(CeO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ビスマス(Bi2O3)を組み合わせ、固溶体とよばれる複合酸化物にすることで、鮮やかな黄色が得られる。この複合酸化物の耐熱温度は1000℃と高く、焼き物の絵付けにも利用できる。実際、この黄色顔料を用いると、有田焼(佐賀県)の伝統黄色上絵具である中黄(鉛・鉄・アンチモン系)の色を有害な鉛を使わずに再現できることがわかっている。

図3 酸化セリウムを発色源とする黄色顔料

また、硫化セリウム(Ce2S3)もCe3+イオンを発色源とする赤色顔料として、プラスチックの着色に用いられている。鮮やかな赤色顔料としては、カドミウム赤(CdS)、辰砂(HgS)、鉛丹(Pb3O4)などが古くから知られているが、Cd、Hg、Pbの毒性が問題となっていた。これに対し、硫化セリウムは無毒であるため、人体や環境に優しい赤色顔料として市販されている。

図4 硫化セリウム系赤色顔料

 

紫外線もカットする

酸化セリウムは、可視光領域での透明性が高いこと、そして光触媒活性が低いことなどから、紫外線遮断材としても用いられている。CeO2の電子構造は、電子の充満した価電子帯と電子の存在しない空の軌道である伝導帯からなり、価電子帯はO2p軌道により、伝導体はCe4f軌道でそれぞれ構成される。そして、価電子帯の上端と伝導体の上端のエネルギー差であるバンドギャップエネルギーは、ちょうど紫外線に相当するので、CeO2にバンドギャップ以上のエネルギー、すなわち紫外線より短い波長の光を照射すると、その光は吸収されて価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯には電子の欠陥、すなわち正孔が生じる。励起された電子と正孔はすみやかに再結合し、熱としてエネルギーを放出する。このようなメカニズムで酸化セリウムは紫外線を吸収する性質を持つので、日焼け止めや紫外線カットガラスに応用されている。

図5 酸化セリウムの電子構造

 

その他の機能

酸化セリウムはほかにも面白い機能を持っている。CeO2はガラスよりちょっと硬いだけで、アルミナ(Al2O3)やジルコニア(ZrO2)に比べるとやわらかいにも関わらず、ガラスを磨いたときの研磨速度は早い。これはガラス表面においてCe-O-Si-Oの化学結合形成により、ガラス表面のSi-O結合が弱められる化学的な研磨効果が加わっているためであると考えられている。このメカニズムは高速で平坦化しなければならない半導体シリコンウェハの表面仕上げ研磨には欠かせないものとなっている。
自動車の排ガスには、二酸化炭素(CO2)や水蒸気(H2O)に加え、有害物質である炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)が含まれている。これらの有害物質を浄化する触媒として排ガス浄化三元触媒が搭載されているが、3成分を同時に浄化するには燃料と空気(酸素)の重量比を理論空燃比(14.7)とよばれる一定の値に制御しなければならない。CeO2において、セリウムイオンは+3価と+4価で容易に変化することができ、酸素が足りないときは酸素を出し、酸素が余るときは酸素を吸蔵して酸素濃度を調節し、常に浄化率を高く保つ働きをしている。
このように、セリウムは多彩な能力を持ったおもしろい元素のひとつである。

図6 自動車排ガス浄化三元触媒

 

参考文献:
足立吟也 編著, 「希土類の科学」,化学同人,1999.
足立吟也, 「入門 レアアースの化学」,化学同人,2015.
足立吟也・南 努 編著, 「現代無機材料化学」,化学同人,2007.
田中勝久, 「無機物質の色」, 化学と教育, 65(4), 194-197, 2017. https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/65/4/65_194/_pdf
戸田健司, 増井敏行, 今中信人, 「未来を照らす希土類蛍光体」, マテリアルインテグレーション, マテリアルインテグレ-ション, 19(1), 31-38, 2006.
G. Adachi, N. Imanaka, and Z.C. Kang, Binary Rare Earth Oxides, Kluwer, 2004.
T. Masui, A. Shiraishi, S. Furukawa, Wendusu, N. Nunotani, and N. Imanaka, Novel Lead-free CeO2–ZrO2–Bi2O3 Yellow Pigments for Arita Ware, J. Jpn. Soc. Colour Mater., 85(1), 9–13,2012.

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増井 敏行

増井 敏行

鳥取大学工学部教授。無機化学と希土類の教育・研究を行っています。ISO/TC298 Rare earth/WG4 Testing and Analysis コンビーナ。学生時代はボウリングに夢中でした。