身近なカルシウム化合物を使った実験

元素記号Ca、原子番号20番の元素、カルシウム。私たちの身体の骨や貝殻、サンゴ、鶏卵やカタツムリの殻の主成分だけでなく、鍾乳洞や石灰石などの主成分で、自然界のあちらこちらで見かけることのできる代表的な元素だ。カルシウムは古来、建築材料として大理石や、石膏、モルタルとして利用されてきた。金属の単体としてカルシウムを単離したのは1808年、イギリスの化学者デービーによる。生石灰を酸化水銀とともに溶融電解して、金属カルシウムを得ることができた。石灰石、石膏、などほとんどのカルシウム化合物はご存知のとおり白色であるが、単体のカルシウムは金属光沢をもつ。

アルゴン雰囲気下の金属カルシウム
Matthias Zepperによる”Pure en:calcium in a protective argon atmosphere” ライセンスはPD(WIKIMEDIA COMMONS)

カルシウムは様々な金属元素の中でも、環境をよく循環する元素のひとつである。海に存在するカルシウムは大気から溶け込んだ二酸化炭素を化学的に吸着し、炭酸カルシウムなどになるので炭素の循環の歴史に大きく関連している。ちなみに炭酸カルシウムはカルシウム強化食品、消しゴムの添加剤、紙の白色材など幅広く用いられている。

実験1 カルシウムカーバイドからアセチレン

カルシウムカーバイド(炭化カルシウムCaC2)は、水と激しく反応してアセチレンC2H2を生成する。水道水を半分ほど入れた水槽(洗面器などでよい)に試験管を沈める。水槽の中にカーバイドの小片(1 cmほどの大きさ)を入れる。発生した気体を試験管に水上置換で取る。その際、試験管の中に同時に少し水道水を入れるとのちの火を扱う際に安全である。試験管にゴム栓をして試験管立てに立てる。ゴム栓を外すと同時にマッチなどで着火すると写真のように炎が発生する。

カルシウムカーバイドの入っていた水槽の水を試験管に2 mLほど取ってフェノールフタレイン溶液を滴下するとピンク色(塩基性を示す色)になることを確認できる。

CaC2 + 2H2O → C2H2 + Ca(OH)2

この反応ではアセチレンと同時に水酸化カルシウムも生成するため、反応後の水溶液は塩基性となる。カルシウムカーバイドがアセチレンランプの原料に使われる由縁だ。

アセチレンを水上置換で集めている様子

アセチレンは可燃性のガス

アセチレンランプ

 

実験2 駅弁を温めたり、せんべいを乾かしたりできる生石灰

生石灰(酸化カルシウムCaO)は水と反応して消石灰になる。このときに発熱を伴うため、それを利用したグッズが色々とある。電子レンジもガスコンロもなくてお酒を温められる熱燗、防災用の赤ちゃん向け非常食(粉ミルクから温かいミルクを作るキット)、旅先で温かいお弁当が食べられる加熱式駅弁、生石灰を入れられる加熱部分のついたホットマイ弁当箱、などである。火が不要で安全な上に簡単であることから重宝する。

CaO+H2O→Ca(OH)2

 

加熱式駅弁の例 (ひもを引くと加熱が始まる)    発熱ユニット(生石灰と水)

(写真提供:株式会社ウェルネス伯養軒)

 

石灰乾燥剤の例

生石灰は、石灰乾燥剤として海苔やせんべい、乾椎茸などの包装に入ってくるので身近に入手できる。水和性が強いことを利用して食品が湿らないための乾燥剤として利用される。ただし、石灰乾燥剤の原料の生石灰は水と触れると急激に発熱したり、体積が膨張したりするので注意が必要だ。燥剤メーカでは包装材料の強度を高くしたり、生石灰の粒形やサイズを調整したりして消費者のための安全対策をしている。幼児の誤った誤食による舌の火傷の事例が報告されている。

生石灰の反応に関して、例えば生石灰を水につけて得られる熱に関する実験ができる。ただし石灰乾燥剤の中身を使う場合には、開封間もないものを使うようにする。一定量(例えば10g)の生石灰に対して、水一定量(例えば10g)を加えて何度まで上昇するかを測定する。その際、生石灰の粒度を変えたり、食酢(例えば2 g)やアルミニウム粉末またはアルミホイル(例えば1 g)を共存させたりすると、温度がどう変わるかなどについて簡単な材料と器具でその発熱について考察できる。

実験3 固形燃料をつくって花火のしくみを体験しよう

酢酸カルシウム((CH3COOH)2Ca)、無水物でも水和物でも可能)の飽和水溶液を50~100 mL程度つくる。写真のような複数のアルミカップにスポイトなどで3分の1から半分ほど酢酸カルシウム飽和水溶液を注ぐ。エタノール(無水)を別のスポイトで滴下していくとゲル化する。

ゲル化した各アルミカップの上に、食塩、塩化カルシウム、カリミョウバン、ホウ酸、(実験室であればストロンチウム、銅、リチウムなどの金属の塩)の粉末をほんの少しずつ振りかけて、マッチなどで火をつけて、炎の色を観察する。

固形燃料にはステアリン酸などを利用したものもあるが、ここではカルシウムを題材とした実験であることから酢酸カルシウムによる方法を紹介した。

てづくり固形燃料を用いた炎色反応の例
(左から、塩化ストロンチウム、食塩、カリウムミョウバン、ホウ酸、固形燃料のみ)

 

参考文献:
桜井弘「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年
「らくらく化学実験」目ったにない目玉焼き!:http://rakuchem.com/medamayaki.htm
家庭でトライ!! キッチンで炎色反応:https://kdc.csj.jp/learning/item_1081.html

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。