毒性があるだけじゃない 顔料から太陽電池まで広く使われるカドミウム

元素記号Cd、原子番号48の元素、カドミウム。元素の発見は1817 年ドイツのシュトロマイヤーによる。その名前は神話や伝説に出てくる古代ギリシャのフェニキアの王子カドモスに由来するといわれている。カドミウムは自然界には硫化物として存在することが多く、硫化亜鉛から亜鉛を抽出する際の副産物として得られている。

硫カドミウム鉱 -チェコ、カタリナ産(右は顕微鏡下で撮影したもの
http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery/g2fr.html

写真ご提供ご協力:鉱物たちの庭ホームページ管理人

 

カドミウムは亜鉛族元素で亜鉛と同様にベースメタルに分類される。カドミウムの最外殻電子配置は5s2 4d10であるため、d軌道が満たされていて遷移金属というよりは典型元素のような振る舞いをする。また0価から+2価の酸化数をとることができる。この元素は、比較的低融点、錆びにくく、光沢を持ち、軟らかく展性に優れる性質を有する金属であり、中性子を吸収する性質も持つ。人体への蓄積性が高く、毒性を示すため食品その他の製品に含まれるカドミウムの濃度や扱いについて注意が必要だ。近年、EUへの輸出品目(電子部品など)に対して、RoHS指令(電気・電子機器のリサイクルその他処理処分されるときに、人や環境に影響を与えため、EUで販売する電気・電子機器の有害物質を非含有とさせることを目的として制定されたもの)により、カドミウムは最大許容濃度が0.01%(100ppm)と設定されていて、他の元素よりも扱いが厳しい。

画像はカドミウムの粉末で色は鮮やかなイエローです。顔料から太陽電池まで広く使われています。ゴッホの作品「ひまわり」やムンクの「叫び」には、このカドミウムイエローが使われています。ただし当時に彼らが描いた色からすると、カドミウムイエローは紫外線などによる劣化が生じるため、変色が進んでいることが指摘されています。
カドミウムイエロー(顔料)

Marco Almbauer による https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cadmiumgelb-_Pigment.JPG ”ライセンスはCC BY-SA3.0 (Wikimedia Commons)

 

ゴッホの「ひまわり」
カドミウムの用途としては、ハンダ、ニカド電池、
太陽電池(カドミウムテルル太陽電池など)、顔料、メッキ材料、テレビモニターなどの蛍光材料、原子炉の制御材料にも使われる。顔料に関しては、例えばゴッホが1889年に制作した「ひまわり」や、ムンクの1910年の作品「叫び」にも同じカドミウムイエローが使われている。ただし当時に彼らが描いた色からすると、カドミウムイエローは紫外線などによる劣化が生じるため、変色が進んでいることが指摘されている。

 

 

キャセロール鍋

ル・クルーゼを代表するキャセロール(またはホーロー)鍋や陶磁器にはときにカラフルな釉薬が使われている。例えば一部のキャセロール鍋ではカドミウムが表面コート部分に17,700ppm含まれていることが確認されたが、それらが料理中に健康に害するほど染み出てくることはない。ル・クルーゼの鍋については耐熱・耐薬品試験によって安全性が実験的に検証されている。

 

 

実験1 カドミウム水溶液の実験

①硝酸カドミウム水溶液(無色)

② ①にアンモニア水を滴下すると、水酸化カドミウム(II)の沈殿を生ずる。過剰のアンモニア水を滴下すれば錯体をつくってその沈殿は溶けて透明となる。

(左)Cd2++2NH3+2H2O ⇄ Cd(OH)2↓+2NH4+

(右)Cd(OH)2↓+ 4NH3 → [Cd(NH3)4]2+ + 2OH

 

 

③ ①にチオアセトアミド水溶液を加えて加温すれば、黄色の硫化カドミウムが沈殿する。

CH3CSNH2+2H2O→CH3COONH4+H2S

Cd2+ + H2S → CdS ↓ + 2H+

④ ①にシアン化カリウム水溶液を滴下すると白色のシアン化カドミウム(II)が沈殿する。過剰に滴下するとシアノ錯体(テトラシアノカドミウム(Ⅱ)酸イオン)を形成して溶ける。

Cd2++2CN → Cd(CN)2

Cd(CN)2 ↓ + 2CN → [Cd(CN)4]2-

 

⑤ ④では錯体が形成されているものの水溶液中にカドミウムイオンが残っているため、チオアセトアミド水溶液を加えて加温すれば硫化カドミウムが沈殿する。

⑤硫化カドミウムが沈殿

 

 

写真・情報ご提供:信州大学理学部無機化学研究室石川厚先生

 

 

 

実験2 ファイトレメディエーションによるカドミウム汚染土壌の浄化

図1 カドミウム汚染土壌のファイトレメディエーション 栽培、収穫、焼却までの一貫システム 出典:農業環境技術研究所 環境化学トピックス(2005)ファイトレメディエーションとは? (農研機構・農業環境変動研究センターHPより)

ファイトレメディエーションとは、特定の植物が土壌に存在する汚染物質(カドミウムなど)を吸収する性質を使い、植物を育てることで土壌を浄化する手法である。すでに国内では、数多くの研究によって環境を浄化するファイトレメディエーションの効果が検証されている。

カドミウムを吸収しやすい植物には、アブラナ科の開花植物スラスピ・シールールセンス(T. Caerulescens)、タバコ、トウモロコシ、麦類、水稲類(ジャポニカ型は他種よりも低い傾向)などが吸収しやすいことが報告されている。

農業環境技術研究所(現・農研機構農業環境変動研究センター)の研究によれば、図のグラフが示すように、いくつかの水田において、浄化用イネ種を栽培することで土壌に含まれるカドミウムの濃度が減少することが示された。カドミウムを吸収した植物は収穫後、燃焼等により処理されるのでカドミウムが効率よく灰に移行する。また処理される植物は、燃焼の他、バイオマス利用としてメタノール燃料への転換や発電等のバイオエネルギーとして有効利用する方法も検討されている。

図2 カドミウム高吸収イネ品種の栽培前と栽培後の土壌カドミウム濃度

カドミウムをよく吸収する複数のイネ品種 (長香穀:ちょうこうこく、IR8、モーれつ)を使った実験結果、低濃度水田ではIR8、中濃度水田では長香穀、高濃度水田ではモーれつとIR8が栽培された。

出典:農業環境技術研究所 プレスリリース「カドミウム高吸収イネ品種によるカドミウム汚染水田の浄化技術 (ファイトレメディエーション) を開発 平成21年8月21日 ―新たな低コスト土壌浄化対策技術として期待―」http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/press/090821/press090821.html#zu2(農研機構・農業環境変動研究センターHPより)

 

 

参考文献

桜井弘、「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年

鉱物たちの庭ホームページ 97.硫カドミウム鉱  Greenockite (チェコ産)

http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery/g2fr.html

AFPBB News、ゴッホやムンク作品の「色あせ」、科学的アプローチ必要 専門家

https://www.afpbb.com/articles/-/3025920

LEAD SAFE MAMA-Le Creuset― Made In France (c. 2013) Yellow Oval Le Creuset Enameled Cast Iron Casserole [#29]: 17,700 ppm Cadmium (a known carcinogen).

https://tamararubin.com/category/le-creuset/

農業環境技術研究所 環境化学トピックス(2005)ファイトレメディエーションとは?

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/topics/envchemi/phytorem.html

農林水産省のホームページ、食品中のカドミウムに関する情報、我が国における食品からのカドミウムの摂取量 平成30年

https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/jitai_sesyu/02_int.html

織田(渡辺) 久男・ 荒尾 知人「作物におけるカドミウムの吸収・移行と生理作用」日本土壌肥料学雑誌、77 巻 4 号 p. 439-449、2006年

農業環境技術研究所ホームページ プレスリリース「カドミウム高吸収イネ品種によるカドミウム汚染水田の浄化技術 (ファイトレメディエーション) を開発 平成21年8月21日 ―新たな低コスト土壌浄化対策技術として期待―」http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/press/090821/press090821.html#zu2

農業環境技術研究所ホームページ 環境化学トピックス(2005)ファイトレメディエーションとは?

http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/topics/envchemi/phytorem.html

ファイレメ CD1 号栽培管理マニュアル 農研機構・農業環境変動研究センター2020年3月

 

 

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。