宇宙から?地核から?化合物をつくらないがたくさんの同位体をもつ元素、ネオン

元素記号Ne、原子番号10の元素、ネオン。イギリスのラムゼーらが1898年に空気から分離して発見した。メンデレーエフの予測していたヘリウムとアルゴンの間の元素を探していたことから“新しい”を意味するギリシャ語に由来して「ネオン」と命名された。希ガスの中でも特に安定で他の元素との化合物は発見されていない。ネオンには安定同位体が3つ、その他放射性同位体が16種類発見されている。図に示すように、安定同位体は中性子の数がそれぞれ10、11、12の20Ne、21Neおよび22Neである。放射性同位体の中性子の数は5、6、7、8、9、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、24である。中性子数が5のものは15Neとなり、24のものは34Neとなる。これらは質量数が19も異なり、核の中の粒子の数が19個も違うことになる。

Neの安定同位体の模式図と空気中の天然存在比

最初の安定同位体の発見は1913年、J. J. トムソンによる。陽極線管を用いた実験で、ネオン原子には質量数が20のものと22のものがあることを見つけた。トムソンの実験では、陽極線管内部の電場と磁場によってプラスの電荷を帯びたイオンの流れを屈曲させることができる。これによりイオンの電荷と質量の比、e/m値を測定できるようにしたのだ。この装置の原理は現在も活躍していて、機器分析のひとつである質量分析法へと発展した。

 

ネオンの用途といえば、ネオンサインで知られる希ガスなどが封入されたカラフルな放電管のネオン管が有名である。ネオン管の寿命は約3万時間と長く、容易にメンテナンスができない場所におけるサイン照明などに利用できる。ネオン管はネオンサイン以外に避雷管として、雷放電(落雷)に近い場所で起きる電磁誘導による電流・電圧から電子機器を守るのに活躍する。しかし昨今、ネオンの世界消費の約7割が、半導体リソグラフィプロセスに必要なレーザー光源用である。ネオンは半導体デバイスメーカーが使用するエキシマレーザーガスの主成分となっている。「エキシマ」とは、電子励起状態の原子分子が、他の原子分子と形成する励起状態の分子でExcited dimer(励起二量体)を略してExcimerと呼ばれたことからくる。ネオンやキセノンなどの希ガスと塩素、フッ素などのハロゲン原子との組み合わせの二原子がよく用いられる。エキシマレーザーは、眼科におけるレーシック手術や、皮膚科における白斑・円形脱毛症・乾癬などの治療にも用いられている。レーザーの波長と成分の関係でいうとArF (193 nm)で はArとF2またはNeとXeが、F2 (157 nm)ではF2とHeまたはF2とNeが使われている。

 

ネオン冷凍システム 写真提供:株式会社前川製作所

ネオンの沸点はー246℃。極低温用の冷媒としても利用されている。超電導機器の冷却、医療、食品分野、LNGなど液化ガスの液化など様々な分野で使える環境にやさしいパワフルな冷凍庫として期待されている。すでに2016 年に商品化されたネオン冷凍システムは、冷凍能力が5~10 kWで、最大で-220℃まで冷却できる。機体のコンパクト化を実現できただけでなく、冷媒はネオンガスのみであることから温暖化に寄与せず、消費電力も従来の半分以下に抑えられたという。

 

 

実験1 空気からネオンを取り出す技術

希ガスは空気中にわずかに存在していて濃度の多い順にアルゴン0.9%、ネオン18 ppm 、ヘリウム 5 ppm、クリプトン1 ppmである。ネオンは空気1 m3中に約18mL存在する計算になる。

ネオンなど希ガスは大規模な酸素プラントなどを利用して、空気成分から抽出して生産するのが一般的だ。世界的にはロシアおよびウクライナの酸素プラントで生産されたものが多く流通している。日本も海外からの輸入に頼っている。空気中に含まれる希ガスなどの成分は、図に示すような空気分離プラント(複式蒸留塔)で、沸点の違いによって分離と濃縮を繰り返すことにより製造されている。

空気からのネオン分離技術 図面提供:東京ガスケミカルズ株式会社

図に示すようにネオンは窒素などの成分より低い沸点をもつ。窒素などを先に冷却して液化させて分離しておけば、ネオンを上部に移動させて濃縮し、さらに冷却すれば取り出すことができる。より純度の高いネオンを得るためには、沸点が比較的に近い水素やヘリウムも同時に濃縮されるため、触媒による水素除去、極低温冷却によるヘリウム分離などが必要である。

 

実験2 地球大気中のネオンは太陽由来?マントル由来?精密な質量分析実験結果が投げかける謎

ネオンの安定同位体には20Ne、21Neおよび22Neが存在することを先に述べた。上の表の空気中のネオンの20Neと22Neの比率を計算すると約9.8となる。しかし、太陽の元素存在比(分光分析や隕石データなどから見積もられた値)は研究者らにより13.6とされている。このように太陽の組成から比べると、地上の空気中の20Neは著しく割合が低いことがわかる。この20Ne/22Neの比率を調べることは、地球誕生や大気形成の歴史にヒントを与えてくれているようだ。大気中の20Neの濃度が低いことは、地球大気の形成において原始太陽系星雲ガスの影響がほとんどなかったことや、地球を形成する固体物質中に取り込まれていたガスやその変性による影響があったことが容易に予想される。

しかし、マントルや火山など地球の様々な測定不可と考えられていた試料の化学的な精密分析が現代になって可能となってきた。マントル中に含まれる鉱石のネオンの同位体比が質量分析によって精密に調べられた結果、13.6という値を示し太陽の組成に近いことがわかった。他にも研究者たちは、マントル起源のゼノリスや玄武岩他岩石類、火山ガス、熱水ガス、など次々と同位体比を調べている。ネオンの3つの同位体はそれぞれがマントル内のウランなどの放射性同位体の放射性崩壊の影響によって生成することがわかっている。しかし、そこで最も多く発生するのは21Neであり、20Neと22Neの比率にはさほど影響しないこともわかってきた。つまり、大気と太陽であまりにも異なる同位体比に対する答えはまだ出ていないのだ。仮説として、マントルの大移動に伴うネオン同位体比の経年的な変化、ジャイアントインパクトによる影響、原始大気の散逸説、などが唱えられている。

 

実験3 ネオンの核にいくつまで中性子をいれられる?中性子過剰なネオンの合成

2002年、日本の理化学研究所と東京大学理学系研究科の共同研究により、世界で初めて新しい中性子過剰な同位元素、34Ne(陽子数:10、中性子数:24)が発見された。このとき同時に新元素である37Neと43Siも発見されている。

さらに2009年に同研究所の仁科加速器研究センターでは、中性子過剰なネオンの放射性同位元素である32Ne(陽子数:10、中性子数:22)の「大変形」の観測に世界で初めて成功した。一般的に原子核は球形に近いと考えられているが、多くの中性子を有する原子核は球形以外にもさまざまな形、たとえば回転楕円体(葉巻型)に変形しうると予想されてきた。ちなみに32Neは、世界最高性能の超伝導リングサイクロトロンで加速した48Ca(陽子数20:、中性子数:28の放射性同位体)をBe(ベリリウム)にぶつけることで生成された。得られた同位体の、励起準位エネルギー値を測定し、その値がNe同位体の中で最小の値であったことから、32Neが大きく変形していることが判明した。あわせて中性子数が増大すると変形が促進されることも発見された。

引き続き、2019年、理化学研究所仁科加速器科学研究センターおよび東京工業大学、その他の国際研究機関との共同研究により、Neの中性子数が最も多い同位元素の存在限界が34Neであることを初めて決定した。この成果は、原子核の地図の境界線を20年ぶりに更新したことになる。図に、原子核の存在限界が黄色い範囲で示されている。この「地図」から、理化学研究所では多くの原子核が新しく見つけられたことも知ることができる。

図面提供:理化学研究所

 

 

参考文献
桜井弘、「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年

高純度化学研究所 ブログ ネオンとその仲間たち

「原子量表(2020)」日本化学会 原子量専門委員会
http://www.chemistry.or.jp/activity/atomictable2020.pdf

避雷器の寿命
https://www.m-system.co.jp/mstoday/plan/mame/b_arrester/0707/index.html

サージ保護デバイスの保護動作の原理と求められる特性
http://www.gxk.jp/elec/musen/1ama/H21/html/H2104A07_.html

尾﨑、平井ら著「10kW ネオンターボブレイトン冷凍機の実用化開発」、大陽日酸技報 p.11- 15, No.38(2019)

SEMIのホームページより、半導体業界のネオン不足が継続
https://www.semi.org/jp/node/jp-19191

株式会社前川製作所 ネオン冷凍システム 「Brayton NeO(ブレイトン ネオ)」
http://www.mayekawa.co.jp/ja/products/cooling_freezing_sys/13/

東京ガスケミカルズ株式会社 Rare Gas/レアガスの製造
https://www.tgc.jp/raregas/manufacture/chapter3.html

角野浩史著、「希ガス同位体質量分析の温故知新」、J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., Vol. 63, No. 1, p.1-30, 2015年

比屋根肇著、「地球内部の太陽タイプのネオンの起源について」、J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., Vol. 45, No. 6, p.619-639, 1997年

理化学研究所 研究成果(プレスリリース)、フッ素とネオンの同位元素の存在限界を初めて決定
https://www.riken.jp/press/2019/20191119_1/index.html

理化学研究所 研究成果(プレスリリース)、32Ne(ネオン‐32)の大変形観測に世界で初めて成功
https://www.riken.jp/press/2009/20090715/index.html

理化学研究所仁科加速器科学研究センターのHPより、図・イラスト、核図表
https://www.nishina.riken.jp/researcher/archive/illust.html

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山﨑 友紀

山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。