最先端からおもちゃまで ~地味に活躍するホウ素(B)~

元素記号B、原子番号5番の元素。ホウ素の存在は、天然のホウ砂に含まれることからも古代より知られていた。「ホウ素」の英名 Boron は、アラビア語で白色およびホウ砂を意味するburaqに由来する。ホウ素は自然界でコレマナイト:Ca2B6O11・5H2O、ウレキサイト:NaCaB5O9・8H2O、ホウ砂:Na2B4O7・10H2Oなどの鉱石の中に含まれる。残念ながらわが国ではホウ砂をはじめ、ほとんどのホウ素含有鉱石が産出しない。ホウ素は地味な元素と思われがちであるが、工業的にも身近なところでも重要な役割を担っている。

ホウ素の利用

ホウ素の第一番目の用途はグラスファイバーである。グラスファイバーは材料の強度や耐熱性向上として、繊維強化プラスチック (FRP)、耐熱材、スタッドレスタイヤなどに添加される。ホウ素を窒素と化合させて得られる窒化ホウ素(BN)は、ダイヤモンドよりもずっと安価なのに、ダイヤモンドに近い硬度と勝る耐熱性を示すため、産業用の研磨剤として活躍する。他にも、ホウ素はp型半導体の不純物、高分子合成における架橋剤、パイレックスなどの硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)、フェロボロン (Fe-B 二元合金) 特殊鋼添加剤や、 ホウ酸H3BO3として目薬やゴキブリなどの殺虫・防虫剤にも使われている。

ノーベル賞との関係

ホウ素とノーベル化学賞は結構関係が深い。有機ホウ素化合物の父と言われるH. C. Brown博士はヒドロホウ素化反応(ボランがアルケンまたはアルキンに付加する反応)を発見し、1979年ノーベル化学賞を受賞。ヒドロホウ素化反応は、元のアルキル基の立体配置を正確に保つ性質があることを見出し、その後の不斉合成の発展に大きく寄与することになる。2010年のノーベル化学賞の対象となったクロスカップリング反応、その中でも特に鈴木カップリング反応においてもホウ素がキーとなっている。Brown博士が主に扱った元素の、水素、炭素、ホウ素の3つは彼のイニシャルH.C.B.とまったく同一。本人も「私のイニシャルは、水素(H)と炭素(C)の化学にホウ素(B)を持ち込むという運命を示していたのだろう」と述べている。

次にホウ素を使った簡単な実験を紹介しよう。

実験1 ホウ素は白ではなく、緑!?

ホウ素の炎色反応は緑色を呈す。これは家庭でも簡単にできる。料理用のアルミカップに、脱脂綿を丸めて5mm程度の大きさにし、消毒用エタノール(水のできるだけ含まれていないもの)をしみこませる。そこに「ホウ酸」を一つまみ振りかけて、着火すると緑色の炎を観察することができる。安全のために、アルミカップの下に陶器の皿を置き、近くに濡れた雑巾を準備するなどするとよい。

実験2 ホウ砂でスライムづくり

プラスチックカップに水50 mL、PVA(ポリビニルアルコール)洗濯のり50 mL、好きな色の水性絵の具を少し入れて割りばしなどでよく混ぜる。別のコップにぬるま湯25 mLとホウ砂スプーン1杯を入れてよく混ぜ、ホウ砂水溶液をつくる。先のプラスチックカップにホウ砂水溶液スプーン一杯程度を入れ、混ぜていくとスライムが出来上がる。最初の水とPVAと絵の具を入れたプラスチックカップにシェービングフォームを適量混ぜておくと、フワフワのマシュマロのようなスライムをつくることもできる。

スライムのドロドロした状態を作るのに欠かせないのがホウ砂水溶液。実際にはホウ砂が水に溶けて生成するホウ酸:H3BO3またはホウ酸イオン(下式)と、PVA分子内の水酸基とが結合する反応がポイントとなる。この架橋反応によって、もともと直鎖状の高分子であったPVAに次々と網目構造が作られていき、そのすき間に水が取り込まれてゲル化が進行する。この実験ではホウ砂水溶液を多く入れるとスライムは硬くなり、少ないとゲル化しない。

Na2B4O7 + 7H2O → 2Na+ + 2B(OH)4 + 2H3BO3

H3BO3はB(OH)3とも表記でき、次式のようにpHによってホウ酸とホウ酸イオンの平衡が移動する。PVAに架橋したホウ酸中のホウ素の結合状態については近年になってやっと11B NMRなどを利用して明確になりつつある。

B(OH)3 + H2O ⇄ B(OH)4 + H+

(注意)ホウ酸およびホウ砂は急性の中毒性はないとされるが、皮膚や粘膜に刺激性があり人体に有害であるので取り扱いに注意し、使用後は手洗いをするとよい。

 

(関連サイト)ホウ酸と重曹を使ったスライムの作り方のサイトはコチラ↓
https://www.kojundo.blog/daily/565/

 

参考資料
Royal Society of Chemistry – Periodic tableのページhttp://www.rsc.org/periodic-table/element/5/boron
ガラス繊維協会のホームページ
http://www.glass-fiber.net/glasswool_long_process.html
経産省のホームページより 有害性評価書Ver. 0.4. No.127. ほう素及びその化合物 http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g80312b03j.pdf
「半世紀に及ぶ有機ホウ素化合物化学の研究から学んだこと」H. C. Brown、鈴木章訳
化学と工業、42(1)、p.90-101、1989年https://www.csj.jp/news/nobel2010/suzuki-4.pdf
公益社団法人 日本化学会 化学だいすキッズ「スライムを作ろう」https://kdc.csj.jp/learning/item_183.html
高磁場固体 NMR 法を用いたポリビニルアルコールにおけるホウ酸架橋構造の解析
Polymer Preprints, Japan Vol. 60, No. 1 (2011)

 

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。