原子番号1番の最も軽い元素、水素の実験

図 ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリーによって撮影された画像から合成した太陽(2010年)https://en.wikipedia.org/wiki/Sun#/media/File:The_Sun_by_the_Atmospheric_Imaging_Assembly_of_NASA’s_Solar_Dynamics_Observatory_-_20100819.jpg NASA/SDO (AIA)による

元素記号H、原子番号1の元素、水素。宇宙の始まりは水素からだと考えられている。ビッグバンのあとすぐに電子やニュートリノなどの素粒子が生成し、その後順番に陽子(水素の原子核または水素イオンともいう)や中性子が生成したようだ。さらに重水素を原料としてそこに陽子が核融合してトリチウムやヘリウムなど順番に大きい元素が作られたと考えられている。宇宙ではこのように核融合が順に起きることで原子番号の大きな原子が次第に作られていった。図の陽子-陽子連鎖反応は太陽などの恒星の中で繰り返して行われている核融合反応の一種の反応で、陽子からヘリウムが生成される様子が示されている。

 

 

 

図 陽子-陽子連鎖反応                  Sarangによる https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Fusion_in_the_Sun.svg

身近な太陽は常に明るく輝き、膨大な熱と光を放っている。太陽のような恒星は自分の重力で水素ガスを高密度に抱えていて、太陽の場合には地球の大気圧の状態の水の密度(1.0g/cm3)の100倍以上の密度の水素を持っている。このような核融合反応が太陽の膨大なエネルギーの源となっている。

地球では人口が増え、人々がエネルギーをたくさん必要とすることと、環境への配慮から太陽の力を借りたエネルギー創成が色々と考えられている。現在では太陽の光から電気を生み出す太陽電池いわゆる太陽光パネルがかなり普及してきたが、以前は太陽熱利用でお風呂や台所のお湯を沸かすための太陽熱パネルが国内でもかなり利用されていた。また南米などでは太陽の光を多数のミラー反射で集光して、溶融塩などの熱媒体を加熱して水を蒸気にしてタービンを回して発電する大型設備もある。

革新的な技術として期待されているのが、そのいずれでもないもので、人工の太陽を地上に作りその核融合反応によって原子力発電よりももっとパワフルで安全な発電装置を作るという構想がある。国際協力によって各国の最新鋭の技術を使って取り組まれている実験炉には、ITER(国際熱核融合実験炉)やJT-60SA(Super Advanced)があり、現在建設が進められている。すでに科学的な実現性は確認されており、現在は実験的な装置を建設し、今後実証実験によって発電のプロセスの経済性が確認されれば実用が可能と考えられている。核融合反応によって発電を行うには高温をもたらすプラズマを1億℃以上にするための装置が必要である。その高温プラズマを実現できる反応炉が、現在フランス南部のサン・ポール・レ・デュランスで建設中である。今後の実験成果が期待されている。

 

 

実験1 水素水をつくろう

ちかごろ、健康ブームのひとつとして多様な機能水が注目されている。「美味しい水」はもちろん「健康に良い水」が消費者のあいだで強く求められるようになっていて、ウォーターサーバーの業界の競争は激化している。

フィットネスクラブやヨガスタジオなどでは「水素水」を利用者に提供しているところが増えている。水素水が健康によいかどうかには諸説あり、いわゆる似非科学のひとつともいわれたりしているが、著者が調査をしたところによると癌患者への水素吸引や水素水が推奨されている医療法人も少なくないようである。また学術雑誌においても水素水の効果を実験的に示した論文も多く投稿されている。たとえば慢性的な歯周病患者の歯垢中のバクテリア数の低減に水素水が効果的である、血中コレステロール値が低下する、健康な成人の炎症反応を軽減し、末梢血細胞のアポトーシスを防ぐ、などが報告されている。

個人的な興味で購入した小型水素水製造ボトルについて紹介する。この装置の場合、水の電気分解によって水素をつくり、それを密閉容器内でバブリングすることで水素水を作る仕組みになっている。同時に生成する酸素はボトルの底から空気に放出される。写真のように水素水中の水素の溶存濃度を測定してみると700 ppb(0.7ppm)程度またはそれ以上の水素濃度の水素水ができ、直接ボトルから飲むことができる。このボトルは、アタッチメントをとりつけて鼻から水素ガスを吸引することもできる。

マグネシウムボールの表面酸化物をクエン酸で除去する様子

一方で水素水は飲用や吸引だけでなく、入浴用に使うのも効果的であるという説もある。これまた水素風呂グッズがいろいろと販売されている。著者はさすがに水素風呂グッズを購入することにはためらいがあったため、化学的に水素風呂を試すことにした。金属マグネシウムボール(洗濯槽の殺菌用として売られているもの)が簡単に入手できる。このマグネシウムボール250gほどを小さな洗濯ネットに入れて、沸いた風呂に投入するだけである。40℃くらいのお湯に入れると、ネット越しに小さな水素の泡がたくさん出てくるのを観察することができる。この湯全体の水素濃度を計測してみたが、10ppbにも満たない非常に低い値であった。40℃と温度が高いと水素の溶解度が低下することもあるがマグネシウムボールからの水素発生だけでは高い濃度の水素水は作れないことがわかった。むしろ発生するミクロな水素ガスが皮膚へのはたらきかけを期待できるのかもしれない。

出典:http://suisorich.com/742

マグネシウムは繰り返し水につけて使用すると酸化物が表面を覆うため黒く変色する。クエン酸を大匙1程度振りかけてから水をかけてしばらくすると、あっという間に表面酸化物は分解除去できる。

 

 

 

 

 

 

実験2 水素爆発の実験

【注意】この実験はスキルのある教員とともに安全対策の十分な実験室でのみ行ってください。専門外の人はやってはいけません。

ペットボトルの下3分の1程度をカットしたものを準備する。蓋の代わりにゴム栓の中心に穴をあけて一般的なストロー長さ7cmほどのものを取り付ける。ペットボトルの下から水素ガスを注入して、金属バットの上にボトルを立てて、ストローの上から漏れ出てくる水素に着火してしばらく待つ。水素の着火の際がもっとも火傷の危険性があるため、十分な注意が必要である。詳細は映像を参考にされたい。

動画・情報ご提供ご協力:公立大学法人 都留文科大学教養学部学校教育学科山田暢司特任教授

動画・情報ご提供ご協力:公立大学法人 都留文科大学教養学部学校教育学科山田暢司特任教授

 

水素の発生の実験は金属と酸との反応として小学校や中学校の理科でも取り扱われている。亜鉛と塩酸がその代表的な例であり、その反応は次のように示される。

Zn + 2HCI → ZnCl2+ H2

事故を防ぎ安全に水素を発生される実験については文献の中の「実験の広場 ビギナーのための実験マニュアル 水素の発生と点火実験」を参考にされたい。

 

 

 

 

実験3 水素イオンの実験~アントシアニンの変化でカラフルな溶液を作ろう~

気体の水素ではなく、水素イオン(H+)が水にどれだけ溶けているかを示すのがいわゆるpH(水素イオン指数)である。この値を知ることで、その水溶液が酸性かアルカリ性かを知ることができる。実験室にはpHメーターやpH試験紙などpHの値を知ることができるツールがあるが、ここでは家庭でもできる方法を紹介する。

身近な野菜や果物に含まれているアントシアニン色素がpHによって異なる色を見せるということが原理となる。アントシアニンは植物の光合成の力によってつくられるポリフェノールの一種である。他の植物色素とちがって、特にアントシアニンはpHの違いによって幅広い色を示すことができる。アントシアニンの分子の形は、pHによって図のように変化することがわかっている。金属イオン(アルミニウムなど)が水溶液に共存する場合にはpHの影響によってアントシアニンと金属との結合(錯体の形成)の仕方が異なることもあり、いくつかの分子が集まってできる巨大分子の形になると、さらに複雑な色の変化をみせることもある。アジサイなどの色の変化が土壌のpHだけでなくミネラル成分によっても異なることなどがわかっている。試験管の写真は化学構造式に記載のデルフィンとは異なる構造のアントシアニン(ゲンチオデルフィン)のpHによる色変化である。

写真および図のご提供:名古屋大学大学院情報学研究科複雑系科学専攻吉田久美教授

 

●実験に必要なもの

①アントシアニン溶液

アントシアニン色素(食紫)を入手して水に溶かして溶液してもよい。またはブドウジュース、赤ワイン、紫の野菜ジュースを直接使ってもよい。紫キャベツ、茄子、ブルーベリー、赤紫蘇(じそ)、マローブルーティーなどからアントシアニンを絞るなどし、沈殿と分離して調整することもできる。ジュースなどは、濁っていて濃いと思われる場合には水で適宜2,3倍に薄めるとよい。

 

②pHの異なる水溶液

酸性の液体:食酢、レモン汁、トイレ用洗剤(サンポールなど酸性のもの)、クエン酸、1 mol/L程度の塩酸、など

アルカリ性の液体:キンカン(虫刺され用ぬり薬)、アンモニア水、石けん、重曹、キッチン用洗剤(油汚れ用)、1 mol/L程度の水酸化ナトリウム水溶液など

 

●実験手順の例

準備したアントシアニン溶液を7つ程度、サンプルの数だけ透明のプラスチックコップにコップの下から3分の1程度入れる。①、②、③・・・⑦とマジックペンなどで番号を書くなどして対象溶液のどれをいれるかを決めておくとよい。約30mLずつ①のアントシアニン溶液を入れておく。そこに①サンポール、②クエン酸、③何も入れない、④ハイドロハイター、⑤キッチン油汚れ用マジックリン、⑥重曹、⑦1mol/L水酸化ナトリウムをそれぞれのコップに少しずつ入れて観察する。写真は食紫色素を使った実験の結果の例である。

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

東芝エネルギーシステムズ株式会社、「地上に太陽を作り出す!?夢のエネルギー・核融合の最前線」https://www.toshiba-energy.com/nuclearenergy/topics/clip_nuclear_fusion.htm

 

鮫島朋美、「実験の広場 ビギナーのための実験マニュアル 水素の発生と点火実験」、化学と教育、56 巻6 号、p.270-271、2008 年

 

佐野元昭、水素ガス吸入療法による 心肺停止蘇生後臓器障害抑制、Organ Biology VOL.23 NO.2 2016、p.117-120

 

田村 幸子ら、「水素水を用いた足湯の効果 : 健常成人での検証」神奈川工科大学研究報告、A‐43、p.51-53(2019)

 

Aarati Nayakら、「Assessment of antibacterial effect of hydrogen water on plaque from patients with chronic periodontitis」J Indian Soc Periodontol, May-Jun 2021;25(3):193-196. doi: 10.4103/jisp.jisp_317_20. Epub 2021 May 3.

 

Sim Mら, 「Hydrogen-rich water reduces inflammatory responses and prevents apoptosis of peripheral blood cells in healthy adults: a randomized, double-blind, controlled trial.」Scientific Reports 2020, 07;10(1):12130-12130

 

吉田久美、花色素アントシアニンによる青色発色「天然物の化学II 自然からの贈り物」(上村大輔編)東京化学同人、pp. 37-44 (2018)

 

名古屋大学複雑系科学専攻・生命情報論講座 吉田研究室HP
http://www.info.human.nagoya-u.ac.jp/lab/yoshida/research1.html

 

 

 

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。