実験講座 番外編 カリフォルニア州のワイン造り その2

アメリカ、カリフォルニア州での赤ワイン造りの流れについて前回に続いて紹介しよう。美味しいワインを造るには、工程を丁寧に行うことも大変重要であるが、よい葡萄を入手することが欠かせない。よい葡萄の特徴はその遺伝子からだけでなく、土壌や気候などの環境からも大きく影響を受ける。よい葡萄にはバランスのよい水分や糖分のほかに、味や風味の決め手となる成分がすでに豊富に含まれている。一次発酵から二次発酵に至るまでそれらの成分が活躍することになる。

ワイン造りの流れ 
1.葡萄の入手
2.葡萄の破砕(除梗)と殺菌
3.一次発酵
4.圧搾と二次発酵

5.ラッキング(滓(おり)引き)
6.樽熟成
7.瓶詰め(コルク栓)
8.瓶熟成

工程1から3までは、前回のブログをご覧ください。こちらです。

 

4.圧搾と二次発酵
先述のように、一次発酵の過程では樽の中で葡萄液の糖分が酵母の助けによって発酵し、エタノールへと変換されていく。この葡萄液は英語ではラテン語由来の「若いワイン」の意味でwine mustまたは単にmustと呼ばれる。まだ樽には葡萄の皮や種などの固体が共存しており、二次発酵の過程でこれらは不要なので圧搾によって皮と種が取り除かれる(写真)。

個人ワインメイキングの場合には、4~5ガロンサイズの容器(20L程度のガラスジャー)に圧搾によって分けられた液体を入れて冷暗所で寝かせて1カ月ほど二次発酵を行う。その際、ガラスジャーの蓋の部分に内部からの二酸化炭素を逃がすエアロックを取り付ける。この中に水道水を入れておくと外部からの空気(酸素)と雑菌侵入を防止しながら二酸化炭素を逃がすことができる。時より蓋をあけて攪拌棒で均一にする作業を行う。この二次発酵では特にワインに含まれる酸の種類とその濃度が影響する。ワインに含まれる有機酸としては、もともと葡萄に含まれる酒石酸とリンゴ酸のほか、シュウ酸、乳酸、クエン酸、酢酸、酪酸など発酵の過程で生成するものもある。二次発酵の段階で重要視されるのが、リンゴ酸の存在である。乳酸菌の働きによってリンゴ酸(Malic acid)が乳酸(Lactic acid)に変換される反応である。乳酸菌による二次発酵はML発酵やMLFとも呼ばれている。リンゴ酸によって酸度の高すぎるワインは味が偏ってしまうため積極的にML発酵によってリンゴ酸を乳酸と二酸化炭素に変換させる。ちなみに、酸性を示す-COOH がリンゴ酸には2つあるが、乳酸には1つしかない。乳酸菌は葡萄由来に任せる方法と添加する方法があるが、多くのワインメーカーが添加法を採用している。今回は例のワインメイキングを趣味とする人のためのショップMore Wine!にて入手した乳酸菌を利用した。

ペーパークロマトによるチェック

同時に二次発酵の段階では、香りをもたらすエステル生成反応が並行して生じており、酢酸エチル(リンゴの香り、濃度が高いと溶剤のニオイ)、酢酸イソブチル(バナナの香り)、イソ吉草酸エチル(チェリーの香り)、酢酸β-フェネチル(バラの香り)、イソ酪酸エチル(イチゴの香り)、カプロン酸エチル(洋ナシまたはリンゴの香り)などのエステルが生成することがわかっている。
二次発酵の進度についてはこの二つの酸の濃度をペーパークロマトグラフィーで調べる手法が一般的である(写真)。四週間後くらいを目安にこのチェックを行う。二次発酵が完了するとリンゴ酸のスポットがほとんど検出されなくなる。

 

 

5.ラッキング(滓(おり)引き)
先述のように一次発酵の終了判断は、比重の違いを利用した糖度計によってチェックを行っていたが、さらに二次発酵終了時にもより正確な残留糖度を確認する。ワインの糖度確認には糖尿病患者の尿中糖度を測定するために開発されたものが応用されていて、試験管にmustと水と糖試験タブレットを入れてしばらく待つと比色方式で糖分を判断することができる。写真では筆者のmust中の糖分が1/4(0.25)%以下と判断できる。

 

(写真1と2)糖分チェックの反応とその結果、(写真3と4)滓引き作業と残った残渣(滓)

 

十分に二次発酵が完了したと判断すると、滓引きを行い樽熟成の準備を行う。サイフォンの原理を使ってガラスジャーの下に沈んだ滓の部分を取らないように液体だけを別のガラスジャーに移す。その際にpHを測定してその値に応じてSO2を添加する。実際には前回紹介した10%のメタ重亜硫酸カリウム水溶液を滴下する。

 

6.樽熟成
本格的な商用ワインメーカーでは燻製にされたオーク(ナラ)の樽を樽熟成の段階で使うことでワインによい香りづけを行うことができるが、個人的なワインメイキングではサイズ的に樽を使うのは厳しい。そこで写真のようなオークチップをガラスジャーのmustに投入して樽熟成をすることでオーク樽による香りづけを模擬的に行うことが可能である。著者はフレンチオークのキューブ状のチップ(More Wine!より購入)を採用した。ガラスジャーはエアロックをつけずに栓をして少なくとも5カ月ほど熟成させる。

(上の写真)ワイン用のオークチップ

 

コルク栓をする様子

7.瓶詰め(コルク栓)
樽熟成が終わると滓引きを再度行い、いよいよガラス瓶に詰める作業となる。それでも滓が残ることもあるためワイン用のガラス瓶は底にくぼみが設けられていることが多い。ガラス瓶はリユースでも購入するのでもよい。リユースの場合、空のワインボトルを入手して温水にしばらくつけてラベルをはがし、さらに内部は熱湯で消毒をしてきれいに乾かしておけばよい。コルク栓は近年コルクの木が枯渇しており値段が高騰していることもあり、樹脂製の栓も利開発されている。著者はガラス瓶を1年以上熟成させる可能性も考えて密度の高いコルク栓を利用した。ラベルデザインは個人の自由である。葡萄を入手した年と入手した葡萄園の名称、ワインを造った人の名前などを入れる。瓶に入れてからも1年ほどしてからの方がワインの味わいが深くなることが多い。ボトルショックといって樽からの瓶詰めの作業で味が変化するとされている。これらのワインは趣味の範囲で造ったもののため、販売をすることはできない。

 

ラベルとキャップをしたワイン
(写真は2015-2016年に著者が造ったワイン)

 

 

 

*このブログは「実験講座 番外編 カリフォルニア州のワイン造り その1」の続きです。

 

参考資料

後藤奈美、「連載第 22 回 ワイン醸造の基礎 第3回 -マロラクティック発酵の話-」Sake Utsuwa Research /09 V 10/16-11/16
”https://www.kitasangyo.com/pdf/e-academy/tips-for-bfd/BFD_22.pdf”

 

横塚弘毅、「〈シリーズ・醸造の基本技術〉ワイン製造(その3)」醸協、95、1、17-22 (2000)
”https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/95/1/95_1_17/_pdf/-char/ja”

 

赤ワインのマロラクティック発酵―サントリー
”https://www.suntory.co.jp/wine/nihon/blog/15120416.html”

 

趣味のワイン | ワインの通販 葡萄畑ココスのブログ
“https://cocos.co.jp/blog/farmentation/red-white-wine/“
“https://cocos.co.jp/blog/farmentation/my-wine-making/”

 

 

The following two tabs change content below.

山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。