筆者のアメリカ滞在(2022~2024年)をきっかけに本ブログの番外編として今回はアメリカのゴミ事情について紹介する。カリフォルニア州San Mateo Countyのゴミ処理場のリサイクル施設の見学で得られた情報も併せて参考にしていただきたい。日本はEUの国々に並んで比較的ゴミの分別が進んでいる国だとされている。自治体によってゴミ分別のルールや資源循環のしくみが異なるものの、例えば「可燃物」、「ペットボトル」、「プラゴミ」、「古紙」、「アルミ缶」など色々と項目がたくさんあることを読者の皆さんも認識されているだろう。
さてこちらカリフォルニア州をはじめとするアメリカの多く州では家庭ゴミの出し方としては3種類程度の分別しかない。近年食品残渣を別の決められた小さな容器の中に入れて堆肥化をより促進しようとする自治体も少しずつ増えつつあるようではある。
写真のように週に1度決められた曜日の朝に、家の前にゴミ箱を出しておくと、ゴミ箱の色に応じて別々のゴミ収集車が来てゴミが回収されていく。ゴミ収集車にはロボットアームがついており、ゴミ箱を持ち上げて上からトラックの中に投入する仕組みになっている。
San Mateo Countyでは3種類のゴミ箱の内訳は、
・青はリサイクル(Recycle)
・黒は埋め立て(Landfill)
・緑は堆肥化 (CompostまたはYard Waste)
となっている。
この3つのカテゴリーは企業や学校などに設置されているゴミ箱にも共通している。しかし、どの品目をどのゴミ箱に入れるか、については市民によく伝わっているとはいえない。例えば、筆者が通っている研究所内で時折ゴミ箱の中身を見てみるが、Compostのゴミ箱の中に食べ残したサンドイッチがプラスチックの包装とともに捨てられ、リサイクル可能なジュースやお茶のガラスボトルやペットボトルがLandfillの黒いゴミ箱に入っているなどの事実が散見される。さらにゴミ出しの曜日の早朝に各家庭でのゴミ箱の蓋が開いていることがあるため、その中をのぞいてみると、さきほどと同様、かなり曖昧に色々なゴミが分別されていない状況が目立っている。リサイクルできそうな紙類、雑誌、新聞紙などが黒いゴミ箱に入っていることがよくある。またファストフード店やフードデリバリーの紙やプラスチックの使い捨て容器に食べ残しがたくさん入ったまま黒いゴミ箱に捨てられていることも多い。
それ以外のゴミについても問題である。使い終わった電池類、カミソリの刃、割れたガラス、古いペンキ類、古い蛍光灯、小型家電、などどのゴミ箱に入れてよいのか、あるいは入れてはいけないのか、多くの市民はそれがわからず結局黒いゴミ箱に入れているのだ。例えば乾電池類は小さな透明の袋に入れて黒いゴミ箱の上に置く、ペンキ類は特定の回収所に持っていく、などがルールは決められているのであるが、そのようなルールを知ることも、知ろうともしない市民があまりにも多い印象である。
ゴミ分別方法が徹底していない理由の一つに、市のホームページなどでもそれを見つけることが困難であることが挙げられる。実際に知人や友人にゴミの分別方法をホームページなどで見つけたことがあるかを質問しても、そのようなページを訪れたことがないとのこと。そのページに行きつこうとしても行きつくことのできない市民も多いに違いない。日本のようにゴミ分別の方法を印刷されたものが定期的に配布されることもなく、地方自治体のゴミへの取り組み方の日米の違いを感じる。San Mateo Countyを初めとするカリフォルニア州の多くで、黒のゴミ箱に入れてよい、つまり埋め立てられる品目には驚く(図参照)。
黒いゴミ箱(Landfill)に入れる品目例
日本ではリサイクルされるようなプラごみや紙おむつなども黒いゴミ箱に入るので、日本でいう可燃ごみの中身に似ていると言える。日本では現在多くの自治体がプラスチックのリサイクルに取り組んでいるが、こちらではフィルム状や袋の形のプラスチックはすべて埋め立て対象でリサイクルされない。そして、カリフォルニア州を含むアメリカの多くの州の家庭ゴミは、焼却処理よりも圧倒的に多くが埋め立て地(Landfill)に行っている。これはもともと焼却設備が少ないことに加えて、二酸化炭素排出削減方針などの影響で、古い焼却処理施設が次々と閉鎖されている。
実際のごみに関する統計データはEPAすなわち米国環境保護庁(U.S. Environmental Protection Agency)のホームページで公開されているのでその一部を紹介しよう。日本では家庭から出る一般ゴミ(Municipal Solid Waste)の総排出量は減り続けているが、図を見るようにアメリカ全体ではまだゴミの総排出量は増え続けていることがわかる。また処理の方法についてもこの図からリサイクル量などが少しずつ増えてはいるものの、Landfill(埋め立て)が半分近くを占めていることがわかる。次の図で埋め立てされているごみの内訳(2018年度)も図で見てみよう。なんと食品系ごみが最も多く、次いでプラスチックが20%近くも占めていることがわかる。せっかくCompostのゴミ箱があるにも関わらず、市民の多くは埋め立て地に行くゴミ箱に食品残渣を入れていることになる。プラスチックも当然自然に帰らないが、そのほかにも樹脂製品、ガラスや金属、紙ゴミなども埋め立てられている。実際に埋め立て地の地下には様々なゴミから、界面活性剤、重金属、PFOS (perfluorooctane sulfonic acid)やPFOA(perfluorooctanoic acid)が浸出し、大切な土壌や地下水源を汚染していることもわかっている。さらに食品残渣の腐敗と発酵により土壌や地下水源に窒素(硝酸イオンなど)やリン(リン酸イオンなど)の濃度も増加している。
アメリカの市民ゴミの総量とその生末の経年変化 米国EPA(米国環境保護庁: Environmental Protection Agency)より引用
アメリカの埋立て地に運ばれるゴミの内訳(2018年時点)米国EPA(米国環境保護庁: Environmental Protection Agency)より引用
また、現在では地球温暖化や気候変動の懸念から、温室効果ガスをどれだけ削減できるかが国際的な課題となっており、アメリカはその最先端の国として、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの削減技術開発のために巨額の国家予算が投じられている。しかしながら青い図に示すアメリカ全土でのメタンの発生源の内訳(2021年度)のように、天然ガスや原油の採掘現場や家畜由来に次いで、ゴミの埋め立て地からのメタン発生が3番目に多いことがわかる。現在、アメリカは世界でメタン発生量第二位(第一位は中国)であることからも埋め立てによるメタン発生量は無視できないと考えられる。
さて、皆さんはゴミ処理施設の見学に行かれたことはあるだろうか。筆者は日本の某市でごみ問題審議会の委員を数年務めている関係で、いくつかのゴミ処理施設見学の経験があり、日本ではゴミ焼却場、リサイクルゴミなどの分別施設、プラスチックゴミのマテリアルリサイクル工場などを訪れたことがある。今回はアメリカの施設と日本の施設を比較したく思い、居住地の最寄りの施設見学に申し込んだ。Shoreway Environmental Centerは年間約40万トンのゴミが処理されるほどの大きな規模のゴミ処理施設である(リンク先参照)。今回、筆者はごみ処理施設運営会社(Rethink Waste)のHPを通じて応募するタイプのパブリックツアーに参加した(2023年5月4日9:30-10:45)。このパブリックツアーは月に一回のみ約15名を限度に開催され事前に申し込む必要がある。1時間とちょっとの短いツアーであるが、施設の全体像説明、ゴミの分別レクチャー、ゴミ分別に関するQ&A、リサイクル設備全般の見学、最後に設備に関するQ&Aという流れになっていた。約15名の見学者にスタッフが5名ほどついての見学ツアーが行われた。途中リサイクル設備は騒音があるため、見学者には小型ラジオが配られスタッフのヘッドセットから音声が流れてくる仕組みになっていた。Q&Aの時間には参加者から熱心な質問が飛び交った。
スタッフの説明によると、黒いゴミ箱(Landfill)は基本的に無分別でそのまま埋め立て地に運ばれるということで、このリサイクル施設では青いゴミ箱(リサイクル)と緑のゴミ箱(コンポスト)の中身の処理がなされており、その流れが見学できるようになっていた。緑のゴミ箱の中は、Yard Waste(庭などの木の剪定屑や雑草)の割合が高いが、中にはプラスチックや金属、宅配ピザなどの段ボール箱、ワックスペーパー、自然に帰らないものも間違って入っている。紙類は除かれないが金属やプラスチックなどは機械や手作業で取り除かれてから堆肥化の工程に回される。またここでは堆肥化に伴い発生するメタンの回収利用も試験的に行われているとのことであった。また、これらのCompostゴミは集積場ですぐに発酵が始まり温度が上がっていくのと、土埃が混ざっていることから粉塵が発生しやすいため、天井から時折ミストが舞い降りて臭い、熱、粉塵を防ぐ仕組みになっている。
青いゴミ箱の中身には様々なものが混入しているため、そのリサイクルのための分別作業は、人の手による分別と機械による分別が両方同時進行に行われていた。数多くのベルトコンベヤーが分別を助けており、機械による分別には主に、ビニル袋を破るための機械、比重の違いで分ける仕組みの機械、篩(ふるい)によって大きさで分ける特殊ベルトコンベヤー、赤外線を使ってプラスチックの種類(樹脂の種類)を見分けて吹き飛ばす機械、などによって分別され、様々な技術が複合されていることがわかった。この赤外線を使った設備は瞬時にポリエチレン、PVC、などの高分子の分子構造をキャッチしてそれぞれを特定の場所にチップ上のプラゴミを風で飛ばして分別できる仕組みになっている(ビデオにて飛ばされている仕組みと、写真に高分子の種類をモニターでキャッチしている様子が写っている)。
IR(赤外線)を使ってプラスチックの種類を高分子の違いで分別する様子
(下のリンクに動画があります)
https://www.kojundo.blog/cp-bin/wordpress/wp-content/uploads/2023/05/IMG_1971.mp4
重力と篩で分別する様子(下のリンクに動画があります)
https://www.kojundo.blog/cp-bin/wordpress/wp-content/uploads/2023/05/IMG_1963.mp4
施設の中央の高い位置に監視塔があり、数名のスタッフがガラス越しとカメラ越しに工程を監視していた。またこの施設は朝4時ごろから稼働し始め、分別作業の従業員は朝の5時には作業を開始するそうである。食品ゴミはリサイクルゴミの中には入ってはいけないものであるが、食品残渣も多く混入しており、それら由来の臭いがプラント全体に漂っていた。スタッフの解説によると、リチウムイオン電池の混入などによる発火事故はまれに起こるようで、ゴミの丁寧な分別が望まれているが、現実はなかなか厳しいようである。
リサイクルゴミは分別されたあと、段ボール類、古紙などの紙類、缶詰由来の金属ゴミ、ワインボトルやジャム瓶などのガラスごみ、ペットボトルや特定のプラスチックボトルなどは、それぞれのリサイクル工場に運ばれてマテリアルまたはケミカルリサイクルがなされる。場合によっては州を越えて遠方まで運ばれるとのことである。
このようにアメリカでは市民のゴミ分別意識が低いものの優れたゴミ分別施設があるおかげで、リサイクルが実現していることがわかった。ただし黒いゴミ箱に入ったものはほとんど分別されずリサイクル可能なものも、自然に帰らないものも埋め立て地に運ばれている。つまりは資源が無駄に葬られている状況が続いている。いくら広い土地のある国とは言え、数年、数十年先に土壌や水質の汚染がどこまで進むのかが重大な懸念事項であろう。
また、アメリカには1,250箇所以上の埋め立て地が存在するとされていて、埋立て地の平均寿命は30~50年と推定されている。いっぱいになるとシートをかぶせてコンクリートなどで固め、さらに土をかぶせて緑を植えて公園などとして活用されるケースが多いようである。
参考WEBページ
San Mateo市のゴミに関するページ
“https://www.cityofsanmateo.org/2164/Solid-Waste-Ordinance-Providers#:~:text=Cart%20Service%20Hours,a.m.%20the%20day%20of%20service.”
San Mateo市のゴミ分別のルール(市がゴミ処理を委託している業者のHP)
“https://www.recology.com/recology-san-mateo-county/what-goes-where-residential/”
ゴミ処理施設の2022年度報告書
“https://rethinkwaste.org/wp-content/uploads/2023/05/2022-Annual-Report.pdf”
EPAのHPより埋め立てに関する情報
“https://www.epa.gov/landfills/municipal-solid-waste-landfills”
EPAのHPよりゴミに関するデータ
“https://www.epa.gov/facts-and-figures-about-materials-waste-and-recycling/national-overview-facts-and-figures-materials”
“EPA, Drinking Water Health Advisories for PFOA and PFOS
https://www.epa.gov/sdwa/drinking-water-health-advisories-pfoa-and-pfos”
山﨑 友紀
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