実験講座 番外編 アメリカ(中学生)の自由研究とサイエンスフェア

皆さんも小中学校の夏休みに理科の自由研究を楽しんだり、苦しんだりされた経験があるかもしれない。今回は筆者のアメリカ滞在(2022~2024年)をきっかけに本ブログの番外編としてアメリカの子どもたちの理科の自由研究について紹介する。カリフォルニア州サンフランシスコ市にあるRandall自然科学博物館のサイエンスフェア(Science Fair)で展示されていた中学生のScience Project(理科の自由研究)を中心にそのバラエティや日本との違いなどを見てみよう。

Randall自然科学博物館

Randall自然科学博物館

 

サイエンスフェアの会場となっていた、Randall自然科学博物館(199 Museum Way, San Francisco, CA 94114)については、ホームページにアクセスすると詳細を知ることができる。サンフランシスコ市の公営の博物館で入館料は無料となっている。博物館の名前はRandall氏にちなんでいて、彼女はアメリカで初めてのガールスカウト団をいくつか立ち上げた動物学者である。彼女は子どもたちに自然に触れ合う機会を与え、しかも科学や芸術を愛する心を育む場所となることを願ってこの博物館の設立(1951年)に強く関わった。

Randall Museumの入り口

 

この博物館は規模が小さく展示物に直接触れられるものや体験型のものもあるため、小中学生までくらいの子どもを連れた家族連れに人気で、また幼稚園や小学校の校外学習にも活用されている。

年に一度、地元の中学生の理科の自由研究の発表の場として、複数の学校から優れた作品が集められてこの博物館の中(入口のホール、廊下、空きスペース)に、おおむね分野ごとに展示される。今回初めて拝見したが、各学校からの代表作とあり、見応えのあるものばかりであった。写真で紹介するように、いずれの作品も個人を特定する情報はなく、名前や学校名などは明示されていなかった。

基本的に大きな3枚パネルに研究成果を貼り込むスタイルとなっており、ものによってはカラフルで人の目を引くような飾りつけなどの工夫をしているものも多く見受けられた。印刷されたものを貼っているものが多い中、すべて手書き(手描き)で仕上げた作品や分子模型を飾ったものもあった。例えば「果物電池の研究」ではフルーツに流れる電気を検出し、その電圧の違いから化学エネルギーの差を比較したいというものであった。このポスターのように実験の前に「仮説」を立て、それを検証するスタイルのものが多く見受けられた。

 

果物電池の研究

 

「食品に潜む糖の検出」では、グルコース試験紙と転化酵素(ショ糖をブドウ糖と果糖に加水分解する酵素)を用いて食品に添加されたショ糖、ブドウ糖の濃度を測定していた。根気のいる実験をこなしており、化学的かつ生物学的によい研究と評価できる。そのほか、人や動物の行動パターンや、心理的なアプローチをした研究などもあり、科学といっても多岐にわたる分野でかつ身近なテーマに子供たちが感心を持っていることが伺えた。

 

食品に潜む糖の検出

 

カリフォルニア州の学年配当は日本と異なり、中学校(Middle School)は日本の小学校6年~中学2年生の3学年の年齢に相当する(カリフォルニアのほとんどの小学校が5年間であるため)。アメリカではサイエンスフェアの歴史は永く、全国的にみるとおおむね50%の学校で実施されている。優れた研究は地区、州、国、インターナショナルのサイエンスフェアに応募される仕組みになっていて高額な賞金の出るフェアもある。

犬のお手の行動研究

 

近年ではアメリカの次世代科学スタンダード(NGSS)においても科学技術の体験学習が強く推奨されていることから、サイエンスフェアの効果が高いとして各学校での実施が高く評価されている。Education Development Center (EDC)の研究成果によると、サイエンスフェアの実施による子供たちの科学への興味の広がりや、将来の勉強意欲が増加することが明らかにされている。ただし教員、親、クラスメートの協力が不可欠であることも分かっており、教員と家族の積極的な関与(手法の紹介、データ解釈の手伝いなど)が子供たちの自由研究の成功の大きな秘訣になっていることも示されている。日本の自由研究でも今後は教員や家族の関与がもっと求められるようになるかもしれない。

 

 

 

 

参考資料またはWEBページ

RANDALL MUSEUM
https://randallmuseum.org/

 

Science Fair Standardsのページ,Science Buddies のHPより
https://www.sciencebuddies.org/science-fair-projects/references/science-fair-standards

 

California州Santa Clara CountyのScience Fairの情報,Santa Clara Valley Science and Engineering Fair AssociationのHPより
https://science-fair.org/rules-and-registration/requirements/

 

高校講座ベーシックサイエンス,第27回果物で電気を起こせ!~化学変化と電池~https://www2.nhk.or.jp/kokokoza/watch/?das_id=D0022150207_00000

 

栢野彰秀、「わが国の学習指導要領(理科)に記載された“探究の過程”と米国『次世代科学スタンダード』(2013)に記載された“Practices”の比較検討」,島根大学教育学部紀要(教育科学)第52巻  9頁~20頁 平成30年12月

 

Education Development Center (EDC), SCIENCE FAIRS UNDER THE ‘SCOPE
https://sciencefairstudy.edc.org/

 

An Examination of the Features of Science Fairs That Support Students’ Understandings of Science and Engineering Practices, Journal of Research in Science Teaching, October 2020
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/tea.21669

 

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。