水から酸素を発生させる触媒

光合成について

皆さんこんにちは。
光合成とはどんな反応ですかと学生さんに聞くとよく返ってくる答が、「植物が二酸化炭素をとりこみ光のエネルギーを使って酸素を発生させる反応です」のようなものです。これは間違いではないかもしれませんが、これを読んでおられる皆さんは多分ご存じのように酸素O2は二酸化炭素CO2が分解してできるのではありません。酸素は水を原料にして生成するのです。このことは1941年にルーベンらによって発見されました。残念なことにルーベンは30才の若さでこの世を去ったとのことです。さて、光合成の化学反応式は下記のように書かれます。

              6CO2 + 12H2O → 6O2 + C6H12O6 +6H2O

C6H12O6はブドウ糖を表します。この式は何か変だと思いませんか?左辺に水が12個書いてあり、右辺に水が6個あるのです。これなら単純化して

              6CO2 + 6H2O → 6O2 + C6H12O6

と書いてしまえばいいと思いませんか? しかし2番目の式だと、6個の酸素分子が生成することになっていますが、左辺の水分子が6個なので、これから酸素分子ができるとしたら3個の酸素分子しかできないことになり具合が悪いのです。ともかく植物の中では水から酸素が作られています。言い換えると水を酸化して酸素を作っているのです。

さて、光合成を人工的に行わせようという研究が世界中で行われています。その研究の目標の一つが水から酸素を効率よく発生させることです。この反応はいろいろな意味できわめて難しいものですが、特に反応を効率よく進める触媒が鍵となります。

酸素発生触媒とグラフェン

葉緑体の中では、マンガン原子4個とカルシウム原子1個を含む複雑な構造のタンパク質が酸素発生の触媒として機能していることが分かっています。そこで人工的に酸素を発生させる触媒をつくるにはマンガンを複数個含むものが多く研究されてきました。ところがごく最近1個のマンガンを含む仕組みで効率よく酸素を発生させる触媒が見つかりました[1]。中国とアメリカの合同チームによる研究成果です。

図1 黒鉛の構造

ところでグラフェンという物質をご存じでしょうか。炭素の単体にダイヤモンドや黒鉛があることは昔から知られています。球状の分子であるC60も有名ですね。黒鉛は図1に示したように蜂の巣状に炭素原子が6角形となって並んだ平面構造が平行に重なった構造となっています。グラフェンはこの平面を一層だけ切り取った構造の物質です(図2)。従って厚みは非常に薄いものです。黒鉛にセロテープを貼ってはがすと一層だけはがされグラフェンになると報告されています。このグラフェンは新しい電子材料として注目されてもいます。

図2 グラフェンの構造

今回開発された触媒とその特徴

さて、今回発見された触媒の作り方は簡単です。図3のように原料を水中で混ぜ、アンモニア中で700℃程度で加熱するだけです。

図3 新規酸素発生触媒の作り方

このマンガン入りグラフェンは水から酸素を発生させるきわめて効率の良い触媒であることが分かりました。この物質を水に入れ、酸化剤として硝酸セリウムアンモニウムを加えると効率よく酸素が発生したのです。マンガン1原子あたり毎秒200個以上の酸素分子が発生する程度の速度であり、これは多くの人工的にマンガンを用いて作られた化合物の100倍程度速い速度で、植物の光合成に匹敵する速度とのことです。なお、アンモニアをいれずに合成すると酸素発生はきわめて遅くなるのだそうです。

図4 マンガン入りグラフェン(Mn-NG)の予想構造
緑色がマンガン、青色が窒素原子を表す

電気分解によって水から酸素が発生することはよく知られていますが、この触媒を表面につけた電極を用いると、通常の電極を用いた場合よりもずっと低い電圧で酸素が発生することも分かりました。

この触媒は、アンモニア中で合成することで、4つの窒素原子と共にマンガンがグラフェン中に取り込まれると考えられています(図4)。エックス線を用いる方法など様々な分析手段を用いて筆者らはそのことを示しています。

本論文はグラフェンにマンガン原子を取り込むというアイデアで、非常に効率の良い酸素発生触媒を作ることができたという画期的な研究成果を示したものです。グラフェンに取り込むことでマンガンの特性がうまく発揮されているのかもしれませんね。人工光合成の実現にはまだまだハードルは高いですが、このような研究の積み重ねで実現に近づいていくことを期待したいところです。

それではまた次回お会いしましょう。

 

参考資料:
[1] J. Guan, Z. Duan, F. Zhang, S. D. Kelly, R. Si, M. Dupuis, Q. Huang, J. Q. Chen, C. Tang & C. Li, Nature Cat. 1, 870–877 (2018):  https://www.nature.com/articles/s41929-018-0158-6

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坪村太郎

坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。