コンビナトリアルによる金属ガラスの合成

みなさんこんにちは
金属ガラス(metallic glass)とはどういうものかご存じでしょうか。金属は硬くてぴかぴか光沢があって電気が流れるものです。それに対して、ガラスは透き通っていて電気は流れないというのが多くの方のイメージと思います。多くの金属は結晶となっていて、固体中で金属原子が規則正しく並んでいる構造となっています。それに対してガラスは結晶ではなく、原子がランダムに(規則性なくバラバラに)配列しているものなのです。そのような構造になっているからこそ、ガラスは加熱していくと次第に軟らかくなっていき、さらに加熱すると液体のような状態になります。氷を思い出していただければ分かるとおり、結晶の場合はある温度になると固体が液体にさっと変化し、この温度を融点というわけです。

金属ガラスは、金属原子からできていながら、ガラスのように原子配列がランダムなものです。同じように原子配列がランダムなものとしてはアモルファス金属というものがよく知られています。アモルファス金属は、通常の結晶の金属に比べて強靱で耐食性があり、添加物を入れることで優れた磁気的性質を示すので、磁性材料などによく用いられているものです。金属ガラスはアモルファス金属の特殊な形で、加熱していくとある温度を境にガラス転移という現象が起き、多少流動するような状態になります。さらに加熱すると融点となり完全に液体の状態になります(図1)。金属ガラスはガラス転移点以上(融点以下)ではプラスチックのように型を使って成型することが可能です。しかし、一般のアモルファス金属は、加熱するとある温度で結晶化してしまい、金属ガラスのように、型を使って望みの形にするのは不可能です。材料が耐熱性があること、そして成型の容易さを考えると、ガラス転移点が高く、そして融点とガラス転移点の差が大きい材料を作ることが求められています。

図1 金属ガラスのガラス転移

 

前置きが長くなってしまいましたが、金属ガラスは1960年にはじめて発見され、それ以来多くの種類が報告されているものです。今回中国、アメリカ、そして日本の研究者の合同チームは新しい金属ガラスを作ることに成功しました[1]。この材料は丈夫で硬く、非常に耐食性もあり、しかもプラスチックのように自在な形に成型しやすいという素晴らしい材料です。

今回作った金属ガラスはイリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、そしてホウ素(B)がそれぞれ35、20、40、5%混じった合金です。いったいどうやってこの比率を見いだしたのでしょうか。もし、これらの元素の組み合わせがいいと分かっていたとしても、この比率を見つけるためには膨大な量の組み合わせを試してみなければなりません。これまでの研究でいくつかの指針が示されていました。たとえば構成元素単体の融点が高い方がいいとか、ヤング率と呼ばれる強度が高い方がいいとかです。それを元に研究者らは、イリジウムとタンタルとニッケルの組み合わせを研究することにしました。そしてまずこの3つの比率を研究することにしたのです。

図2 スパッタリングによって様々な比率の材料を一度に作る。ケイ素基板の場所によって3種の金属の比率を様々に変えた材料の膜ができる。

このときに用いたのがコンビナトリアルと呼ばれる手法です。この手法は、ある用途に最適なものを作るときに用いられる方法です。従来新しい材料を作るときは、ともかく元素の比率や分子の構造を少しずつ変えながら一つ一つ合成して、それらの性質を調べるという非常に手間のかかる方法で研究を行っていました。

たとえば3種の材料の比率を少しずつ変えながら作るには膨大な数の実験が必要となるのです。コンビナトリアルの手法は、様々に変えるべき条件の多数の組み合わせの一連の材料を一回の実験で作ってしまい、できたものの中から条件に合うものを探すというやり方です。今回はスパッタリングという手法によって金属の薄膜を基板上に堆積させる手法を用いました。その際に基板の場所によって3つの金属の比率がいろいろ変わるようにしたのです。これによって一回の実験で3つの金属の比率が異なる多くの膜状の材料を得ることができました。

こうしてできた膜の性質を調べ、イリジウムが20-35%、ニッケルが25-40%、そしてタンタルが35-45%の範囲の中で最もすぐれた金属ガラスが作れると見当をつけたのです。この範囲であれば様々な組み合わせの合金を作ることもそれほど大変な努力でなくてすみます。実験の結果これら3種の金属の比が35、25、40%のとき最も特性に優れる合金ができることが分かりました。さらにこれにホウ素(もともとこの元素は添加することで特性が向上することが期待されていました)を一部のニッケルの代わりに加えることでさらに望ましい材料を得ることができたのです。

得られた材料はガラス転移点が889℃、そしてガラス転移点と融点の差が136度というこれまでにない広いものでした。しかも極めて硬く、空気中で700℃以上まで腐食せず、金を溶かす王水中でも1000時間以上溶けないなどの優れた特性を持っていたのです。この材料を使って作った小さな(直径2mm程度の)歯車状の部品の写真も論文に示されています。

Combinatorial chemistry birth new high-temperature metallic glasses
(American Chemical Society c&enの記事より)

今回は単に素晴らしい材料ができたというだけではなく、そのやり方がコンビナトリアルという新しい手法であったことが、注目された点と思います。それではまた次回お会いしましょう。

 

参考資料:
[1] Ming-Xing Li, Shao-Fan Zhao, Zhen Lu, Akihiko Hirata, Ping Wen, Hai-Yang Bai, MingWei Chen, Jan Schroers, YanHui Liu & Wei-Hua Wang, Nature, 2019, 569, 99-103.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1145-z

 

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坪村太郎

坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。