水素生成のための新たな触媒が開発される

皆さんこんにちは。今回も触媒のお話です。
自動車業界ではガソリンエンジンなどの内燃機関を積んだ自動車から電気自動車へのシフトが急速に進んでいますが、さらには水素を燃料とし、燃料電池で発電した電気を使って走る自動車もすでに市販され、発展が見込まれています。現在のところ、水素は主に石油や天然ガスから水蒸気改質という反応によって作られています。(従って水素は化石燃料を消費しないというのは現状では間違いですがそのことはここでは触れないことにします。)水素自動車が普及するためには、全く新しいインフラであり、高度の技術を要する水素ステーションを多数作らねばなりません。そこでいくつかの自動車メーカーは、自動車上で水素を水蒸気改質反応により作ってしまえばいいと考えています1
水蒸気改質とは以下のような反応(1)です。

[HC] + H2O → H2 + CO (1) <水蒸気改質反応>
(なお、[HC]は炭化水素一般を表す。この反応式は物質の係数は無視している)

このままでは水素だけでなく、一酸化炭素も発生します。そこで、水性ガスシフト反応(2)と呼ばれる反応が行われ、さらに水素が作り出されています。

CO + H2O → CO2 + H2  (2) <水性ガスシフト反応>

今回はこの水性ガスシフト反応に着目します。水性ガスシフト反応を効率よく進めるには触媒が必要です。これまでに様々な触媒が開発され、使われてきました。従来用いられている典型的な触媒は、酸化銅(I)(CuO)と酸化亜鉛(ZnO)と酸化アルミニウム(Al2O3)からなる触媒です。白金などの貴金属を含むものも使われています。しかしこれらの触媒を使っても反応が進むには200℃以上の高温で大規模な反応装置が必要であり、反応器を車に積めるように小型化するのは困難とされてきました。
しかし、北京大学のMaらは最近(2021年1月発表)新しい触媒を設計し、この問題の解決の糸口を見いだしました2。彼らは2017年に炭化モリブデンに金を添加した触媒を使って、120℃程度で働く水性ガスシフト反応の新たな触媒を発見していたのですが3、今回金の代わりに白金を用いることで、さらに低温でも働く高性能な触媒を作ることに成功しました。この研究では、炭化モリブデン(MoC2)粉末を、塩化白金(IV)酸(H2PtCl6)の水溶液に加え、乾燥させて得られた試料をさらに加熱するという方法で触媒が合成されています。
水性ガスシフト反応は、従来最も低温で働く触媒を用いても100℃程度の温度が必要であったのに対し、今回の方法で作られた触媒を用いると40℃でも反応が進んだのです。また、この触媒を用いると200℃以上の温度においても、従来の触媒よりもはるかに速い速度で反応が進むことが分かりました。

図1 論文に示された反応機構のイメージ図。COとH2OからCO2とH2が生成するが、生成するCO2分子のうち、一部は酸素原子が2つとも水分子の中の酸素原子に由来し、一部は1つが COから、1つが水分子から来る。

 また、今回の触媒反応では反応の仕組みが従来と異なる点も見つかりました。これまでの触媒反応では、生成する二酸化炭素のうち1つの酸素原子は水分子から来て、もう1つの酸素原子は一酸化炭素から来るとされてきました(図1のCOO)。ところが今回の反応でできた生成物を詳しく調べると、従来のように生成した二酸化炭素以外に、2つの酸素原子が2個とも水から来た二酸化炭素が見つかったのです(図1のCOO)。つまりCOがいったんCとOに分かれて、水由来の酸素原子と反応するルートもあることが示されました。
この触媒が実用になるにはまだまだ乗り越えねばならないハードルも高いでしょうが、きっと多くの研究者がそれを乗り越えていくことを期待したいと思います。それではまた次回お会いしましょう。

 

1)Chem. Eng. News, 2021, 99, https://cen.acs.org/synthesis/catalysis/Catalyst-boosts-prospects-fuel-cell/99/i3 (accessed Feb 27, 2021).
2)X. Zhang, M. Zhang, Y. Deng, M. Xu, L. Artiglia, W. Wen, R. Gao, B. Chen, S. Yao, X. Zhang, M. Peng, J. Yan, A. Li, Z. Jiang, X. Gao, S. Cao, C. Yang, A. J. Kropf, J. Shi, J. Xie, M. Bi, J. A. van Bokhoven, Y.-W. Li, X. Wen, M. Flytzani-Stephanopoulos, C. Shi, W. Zhou and D. Ma, Nature, 2021, 589, 396–401. https://doi.org/10.1038/s41586-020-03130-6.
3)S. Yao, X. Zhang, W. Zhou, R. Gao, W. Xu, Y. Ye, L. Lin, X. Wen, P. Liu, B. Chen, E. Crumlin, J. Guo, Z. Zuo, W. Li, J. Xie, L. Lu, C. J. Kiely, L. Gu, C. Shi, J. A. Rodriguez and D. Ma, Science, 2017, 357, 389–393. https://doi.org/10.1126/science.aah4321.

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坪村太郎

坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。