有機物?無機物?地球を旅する炭素

元素記号C、原子番号6の元素、炭素。私たちにとって最も馴染みのある元素のひとつだ。図のように炭素は、地球規模で循環している。水の大循環と似て非なるところは、炭素のほとんどが単体としてではなく、生物や石炭・石油などの有機物や、二酸化炭素や炭酸塩などの無機物などに化学的に変化をしながら循環することである。そこには酸化反応や還元反応、生体反応が複雑にかかわっている。我々、生物の体の中でも炭素は常に化学反応を繰り返しながら出たり入ったりしている。ヒトの経済活動も豊かな生活も炭素循環の恩恵を受けている一方で、過剰な化石燃料の利用によって大気中の二酸化炭素濃度は年々上がり続けている。

地球規模の炭素循環の様子(数値の単位はギガトンまたはギガトン/年)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Carbon_cycle-cute_diagram.svg

天然のダイヤモンドの生成も地球の炭素循環の一部である。かなりの地下深部、約150 km以上の深さのマントル内で何憶年規模の長い時間をかけて生成されたと考えられている。ダイヤモンドが安定に生成する高温高圧の条件として1100℃以上、4万5千気圧が必要である。大きなダイヤモンドにおいては地下500 km以上で形成されたと考えられる。ダイヤモンドは、地下深部と地上につながるキンバーライドという火成岩マグマのパイプを通じて地上に高速に吐き出されたと考えられている。

炭素単体には、図のように様々な同素体があることが知られている。

図 様々な炭素の同素体

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Eight_Allotropes_of_Carbon.png

a ダイヤモンド、b グラファイト(黒鉛)、 c ロンズデーライト(六方晶ダイヤモンド)、 d C60フラーレン、e C540フラーレン、f C70フラーレン、g 無定形炭素、h カーボンナノチューブ

 

 

実験1 ダイヤモンドの実験 

ダイヤモンドの用途は宝飾用だけでなく精密切削用バイト、医療用ナイフ、ヒートシンクや各種窓剤などの広い範囲で利用されている。近年ではホウ素ドープによって超電導を示すこともわかっている。すでに工業用のダイヤモンドの多くと宝飾用のダイヤモンドの一部が人工的に合成されている。化学的には全く同じ物質であり、遜色はないどころか、天然ダイヤモンドよりも純度の高いものを合成することも可能である。

ダイヤモンドを燃やす

ダイヤモンドは炭素の単体であることから、燃焼すれば二酸化炭素に変化することを確認できる。800℃以上であれば燃焼が可能である。動画のように石英管の中にダイヤモンドを入れて、酸素を導入しながら加熱すると激しく光りながら燃焼する様子を確認できる。燃焼実験用のダイヤモンドは理科教材としても販売されている。

燃焼によって発生する気体が二酸化炭素であることを調べたければ、気体を石灰水(水酸化カルシウム水溶液)に通じると、炭酸カルシウムの白濁を観察することができる。これらダイヤモンドの燃焼および、白濁が生じる反応式は次の通り。

C + O2 → CO2

Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O

動画提供:公立大学法人 都留文科大学教養学部学校教育学科山田暢司特任教授

 

ダイヤモンドの熱伝導実験

ダイヤモンドは金属でもないのに、高い熱伝導率を有する。熱伝導率は、その物質における熱伝導による熱の移動のしやすさを示すものである。室温における鉄の熱伝導率が約75 W/m・Kであるのに対し、ダイヤモンド(単結晶の合成ダイヤモンド)は 3300 W/m・Kもの高い値を示す。ダイヤモンドが非常に硬い物質であることの原因となっている強い共有結合がその高い熱伝導率の理由にもなっている。ダイヤモンド結晶内では、炭素原子の結合距離が極めて短く、結晶格子を波として伝える格子振動がダイヤモンドの熱伝導率をもたらしている。次の動画では、ダイヤモンドがいかに熱を伝えやすい物質であるかについて実験した様子が紹介されている。

動画提供:物質・材料研究機構およびユーフラテス(NIMS)
動画情報:NIMS x EUPHRATES 未来の科学者たちへ #06「ダイヤモンドと熱伝導」
制作:EUPHRATES ユーフラテス https://euphrates.jp/
音楽:豊田真之
監修:佐藤雅彦
製作:物質・材料研究機構(NIMS)https://www.nims.go.jp/

 

 

実験2 フラーレンの実験

カラフルなフラーレンの溶液

フラーレンは水中では不安定で溶けにくい。フラーレンの良い溶媒の例としては、二硫化炭素、トルエン、o-ジクロロベンゼン、1-クロロナフタレンなどが知られている。溶媒が異なっていても総じて呈する色はほぼ同じになる。C60は紫色、C70はレンガ色(オレンジ)、それ以上では緑、黄色、茶色、オリーブ色などとなる。

フラーレン溶液の色(炭素数によって異なる色を呈す)の例:
写真の溶液4種は左から C60、混合フラーレン(C60が約50-65%、C70が約15-25%)、C70、高次フラーレン(C70以上)

写真提供:フロンティアカーボン株式会社 https://f-carbon.com/

 

 

フラーレンの特性を維持した自己組織化

フラーレンには特徴的な電気的また光的な応答機能があり、その機能を上手く制御してオン・オフできれば、センサー材料やスイッチング材料への応用が期待できる。京都工芸繊維大学の箕田教授および本柳助教の研究室では、フラーレンに水溶性ポリマーを修飾し、従来の水溶性フラーレンでは失われていたフラーレンの特徴を、そのまま保持した化合物を作ることに成功した。このフラーレン化合物は水溶液の中で、フラーレン部分が自己組織化して会合させたり、離したりすることができる。抗酸化活性やラジカル補足能などの機能特性変化を持つ「人工酵素」についての応用が検討されている。

図 水溶性フラーレンポリマーが溶媒や外部環境に応じて、会合・解離状態を制御できる様子
図面・情報提供:京都工芸繊維大学精密有機材料学研究室

 

 

実験3 CO2がエネルギー源(イーフューエル、e-fuel)に!?

我が国日本は2050年までに二酸化炭素排出ゼロを目指す政策目標を掲げている。資源に乏しい日本は、これまでほとんどのエネルギー資源を海外の化石燃料に頼ってきたが、今後はエネルギーの利用によってCO2をできるだけ排出しないだけでなく、カーボンニュートラルな燃料に大きくシフトせざるを得ない。しかし、化石燃料でなければ稼働しない航空機や工場、自動車を完全ストップするわけにはいかない。そこで考えられている新しいアイデアが、e-fuelである。様々な活動で排出されてしまうCO2を再生可能エネルギーによって作り出した水素H2と化学反応させてメタンをはじめとする炭化水素燃料(e-fuel)に変えるというものである。ドイツのAudi社は自動車の燃料としての利用についてすでに技術的に世界をリードしている。日本でもすでにNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)と民間企業の連携研究によって、水の電気分解によって製造された水素とCO2が反応してメタンを製造する試験設備が稼働していて、実用化が期待されている。

将来のCO2有効利用システムの全体フロー  新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ニュースリリース(2019年10月16日)より作成https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101217.html

 

 

参考文献

山﨑友紀、「地球環境学入門 第3版」講談社、2020年

戸倉和、「ダイヤモンド-性質・合成・加工・応用―」精密工学会誌 Vol. 78, No.3, p,212-215(2012)

NIMS x EUPHRATES 未来の科学者たちへ #06 「ダイヤモンドと熱伝導」

ナノネットインタビュー 分子変換で広がるナノカーボンの世界 ~有機化学からのアプローチ~筑波大学先端学際領域研究センター 教授 赤阪 健 氏https://www.nanonet.go.jp/magazine/archive/?page=851.html

京都工芸繊維大学 産学公連携推進センター 知のシーズ集 分子化学系、「π共役分子とポリマーの融合による機能性自己組織化材料」本柳仁・箕田雅彦https://www.liaison.kit.ac.jp/liaison/db/docs/seeds_d47092573ad7ecd92aa28f9a07428095cf87fff5.pdf

フロンティアカーボン株式会社ホームページ
https://f-carbon.com/

Seema Thakral and R. M. Mehta, “Fullerenes: An Introduction and Overview of Their Biological Properties”, Indian Journal of Pharmaceutical Sciences, p.13-19, January – February 2006

【経済#word】e-fuel ハイブリッド車延命へ 二酸化炭素原料の新燃料産経新聞2020.12.16朝刊https://www.sankei.com/premium/news/201216/prm2012160005-n2.html

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ニュースリリース(2019年10月16日)「CO2を有効利用するメタン合成試験設備を完成、本格稼働に向けて試運転開始」https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101217.html

E-fuels could advance the energy transition in the transport sector

E-fuels could advance the energy transition in the transport sector

 

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山﨑 友紀

山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。