国際宇宙ステーションでの細菌による希土類金属の抽出実験

皆さんこんにちは。皆さんはバイオリーチングという言葉をご存じでしょうか。リーチング(leaching)は浸出という意味で、バイオリーチングとは、微生物の力によって金属を鉱石から抽出する技術のことです。例えば銅鉱石(銅の酸化物や硫化物)から銅を得る時は、まず硫酸のような強酸を使って銅イオンを溶かし出すのですが、黄銅鉱(CuFeS2)から銅を溶かし出すには極めて長い時間が必要なのだそうです。ところがこのとき、この鉱石に硫酸鉄(III)と特別な細菌(好酸性鉄硫黄細菌)を加えておくと、スムーズに銅イオンが溶け出します。これが細菌を利用して銅の精錬を行うバイオリーチングです1。またある金鉱山では、硫化銅などの鉱物の中に金が含まれている鉱石から、銅を取り除いて金を取り出すためにこの手法が使われています2
さて、今回は野口聡一さんをはじめ日本人宇宙飛行士も搭乗されているISS(国際宇宙ステーション)で行われた実験結果をご紹介します。この実験は欧州宇宙機関に提案された実験の一つで、2019年7月30日から8月20日にかけて行われ、その結果が2020年11月に論文として発表されました3

 

実験の概要

今回の実験では、玄武岩から希土類金属を抽出する実験が行われました。希土類はハイテク素材の原料となることがよく知られている一連の元素です。例えば強力磁石の材料として知られるNd(ネオジム)やSm(サマリウム)そしてDy(ジスプロシウム)をはじめ、発光材料に使われる、Y(イットリウム)やEu(ユウロピウム)などがさまざまな分野で使われています。現在これらの元素は主に中国で産出されています。これらの希少元素は、近年重要性を増してきており、もし今後火星などに人が住むようになった場合に、その星で採掘することが必要と考えられています。玄武岩は月や火星にも見られる岩石で、このような岩石からバイオリーチングによって効率よく希土類金属が抽出されれば有用な技術となるでしょう。今回の研究では、特に重力の違いによって細菌の活性に差があるのかどうかが研究の一つのポイントとなっています。
今回の実験では、用いられる実験条件で生育することや、岩石表面で成長することなどを条件に3つの細菌が選ばれました(Sphingomonas desiccabillis, Bacillus subtillis(枯草菌), Cupriavidus metallidurans)。今回の岩石には1gあたり希土類元素が0.3-11.5μg含まれているとのことです。この岩石にそれぞれの細菌を付着させたサンプルをBioRockと呼ばれる特殊な容器4にセットし、図1に示すようにISS中で生育に適した溶液を岩石に触れさせて、21日間培養を行い、その後すぐに酸性にして細菌の生育を止め、地球に持ち帰ってから分析が行われました。

図1 BioRockと呼ばれる実験装置を使ったISSでの実験。 a 実験に用いられた器具を上から見たところ、下部に見える2カ所の空洞で抽出が行われる。 b 器具aの空洞部分の左右断面図。下にあるのが玄武岩(Basalt)断片。左側は黄色で示されている膜が下に密着しているが、溶液が入ってくると右側のように膜が上に押しやられる。 c 試料として用いる玄武岩断片。 d 実験を行うLuca Parmitano宇宙飛行士。彼は今回の論文の著者の一人。(論文3より引用、Creative Commons Attribution 4.0 International License; http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/.)。

結果

3つの細菌を用いてどの程度金属イオンが抽出されるかを調べた結果、最初に挙げたS. desiccabillisが良い結果を示しました。この細菌を使った場合、ほぼ中性の条件で1容器あたり0.3ng程度~10ng程度のイオンが抽出されました。抽出された元素の量は、元々の玄武岩に含まれていた元素量比にだいたい従っていたとのことです。また、宇宙ステーション中の微少重力だけでなく、遠心力を利用した装置によって地球上を模した重力と火星を模した重力の3つの重力条件で実験が行われましたが、この細菌の場合は、重力によってあまり抽出量に差はなく、また細菌を使わず無機試薬のみを使った対照実験に比べて概ね多い量(最大4倍)の希土類元素が抽出されることが分かりました。なお、実際に地球上で同様な条件で行われた実験結果では、ISS中で地球上を模した重力の中で行われた結果よりも多くが抽出されていますが、これはISS中で人工的に作った重力条件が必ずしも均一でないからだろうと書かれています。
今回、論文の著者らは、S. desiccabillisを用いて、重要な希土類等の元素の生物学的採鉱がさまざまな重力下でできることが分かったと述べています。そして今後地球から離れた場所での、持続可能な、微生物の鉱物への作用の有効性を示したと結論づけています。現在我々はコロナというやっかいなウィルスと戦っていますが、ウィルスも含めて細菌類は人間と共存して役に立つものもあるということが分かりました。ではまた次回お会いしましょう。

 

1)植村一雄、金尾忠芳、生物工学会誌、95,P662-666 (https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9511/9511_yomoyama.pdf)
2)http://wiki.biomine.skelleftea.se/wiki/index.php/Biooxidation
3)C. S. Cockelら、Nature Communications, 2020, 11, 5523 (https://www.nature.com/articles/s41467-020-19276-w 本論文はオープンアクセスなので誰でも読めます。)
4)C.-M. Loudonら、International Journal of Astrobiology, 2018, 17, 303-313.

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坪村太郎

坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっています。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。