希土類の中で、3価と4価の安定な酸化状態を持つ唯一の元素セリウム

元素記号Ce、元素番号58の元素、セリウム。この元素は1803年、スウェーデンのヒージンガーとベルセリウスが発見したが、同年にドイツのクラプロートも発見していた。名前についてはベルセリウスが1801年に発見されたばかりの小惑星セレス(Ceres)にちなんでセリウムと名付けた。セリウムは希土類元素(レアアース)の中で、ランタノイドとして初めて発見された元素である。また、セリウムには4種類の安定同位体136Ce、138Ce、140Ce、142Ceのほか、27種類の放射性同位体が発見されている。希土類元素の中では自然界に比較的豊富に存在する元素で、天然にはモナズ石Monazite-(Ce)、バストネス石Bastnasite-(Ce)などの鉱物に含まれている。モナズ石はかつて大量に南インドで採掘され、現在では南アフリカやボリビア、オーストラリアなどから採掘されている。

実はセリウム目当てではなく、ネオジムNdがこのようなモナズ石やバストネサイト中から抽出されており、その分離過程でセリウムが分離後の副産物として利用されずに廃棄されている場合も多い。いくらネオジムが幅広く用途のある磁性材料として価値の高いとしてもセリウムが捨てられてしまうのはもったいない。

実際セリウムは身近なところではプラスチックなどの赤色顔料としてや、ガラスの添加剤、研磨剤のほか、化学反応における特異的な触媒として重宝されている。

参考URL:https://www.kojundo.blog/color/3090/

左から、セリウム金属、モナズ石、バストネサイト(パキスタン、ワルサク地方産)
写真提供ご協力(バストネサイト):鉱物たちの庭ホームページ管理人

セリウム金属の写真 juriiによるhttps://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cerium2.jpg ライセンスはCC-BY-1.0
モナズ石の写真 Robert M. Lavinskyによる
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/ba/Monazite-%28Ce%29-164026.jpgライセンスはCC BY-SA 3.0
バストネサイトの写真 ご協力 鉱物たちの庭 http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery11/820bastnasite.html

 

 

実験1 触媒として活躍するセリウム(Luche還元を例として)

セリウム触媒が活躍する一例として、Luche還元がある。これはα,β-不飽和ケトンであるエノンからアリルアルコールを選択的に得る反応で、水素化ホウ素ナトリウムに塩化セリウムを組み合わせて使うことにより、その選択性が非常に高くなることが知られている。水素化ホウ素ナトリウムだけが触媒の場合には炭素-炭素二重結合が消えてしまい、1,2-還元の選択率は0%となり、すべてが1,4-還元となる。この反応名は発見者J. L. Lucheの名前にちなんでいる。

 

実験2 水性ガスシフト反応や酸素ストレージで活躍するセリウム

セリウムは希土類元素の中で唯一、溶液中において三価と四価の二つの酸化状態を安定的に取ることができる。実験1のように選択的な有機合成反応のほかに、近年では水分子から水素・酸素ガスを生成する触媒としてもセリウムは活躍している。水性ガスシフトガス反応は、一酸化炭素と水蒸気から水素と二酸化炭素を得る反応である。

CO+H2O → CO2 + H2

この反応を利用すれば石炭火力などで副生する一酸化炭素を有効に活用でき今後活躍が期待されている水素エネルギー源ともなる。現在ではセリウムは、この反応を促進する働きを有することから燃料電池の原料となる水素を得るプロセスにも利用されつつある。

さらに、気体酸素を酸化物イオンとして固体構造中に吸蔵でき、還元雰囲気になると逆に放出する働きをすることのできる物質を酸素ストレージ物質といいセリウムがその物質として期待されている。現在のガソリン自動車のエンジンにおいて三元触媒が 酸素O2 による阻害を受けずに一酸化炭素CO、炭化水素HC 、窒素酸化物NOXを同時に浄化するためには、この酸素ストレージ物質が必須となっている。現在ではCeO2が唯一、自動車排気中の空燃比を制御できる実用材料といわれている。

H2/CO/HC

CeO2 ⇄ CeO2-x

O2

CeO2 の場合、蛍石型構造を保ったまま、Ce4+ ⇄ Ce3+ 間の価数変化をしながら電荷を補償するように酸素を吸蔵したり放出したりできる。上の式において、最大 x=0.125 に相当する格子酸素が放出あるいは吸蔵される。セリウムの酸素吸蔵性能をより向上させるためには、同じ蛍石構造を持つジルコニウムの酸化物 ZrO2が最も顕著な効果を示すことも発見されている。

 

 

実験3 セリウムを使った振動反応~ベロウソフ・ジャボチンスキー反応~

特定の条件でその反応系内の物質の濃度が(溶液の色が)周期的に変化する反応を「振動反応」という。触媒となる金属イオンの価数変化すなわち酸化と還元が連続的に生じることを利用しているものが多い。振動反応の代表的な例として、セリウム塩などの金属塩と臭化物イオンを触媒として、マロン酸などのカルボン酸を臭素酸塩によりブロモ化する化学反応を利用したものがある。これはベロウソフ・ジャボチンスキー反応(Belousov-Zhabotinsky reactionまたはBZ反応)とも呼ばれる。

 

実験のレシピ例

必要な試薬類は次の通り。臭素酸ナトリウム KBrO3(または臭素酸カリウムKBrO3)、臭化ナトリウムNaBr(または臭化カリウムKBr)、マロン酸HOOC–CH2−COOH、希硫酸H2SO4、フェロイン溶液*、硝酸セリウム(IV)アンモニウムCe(NH4)2(NO3)6。* フェロイン溶液:300mlビーカーに蒸留水100mlをとり、1,10-フェナントロリン1.35 gと硫酸第一鉄 (FeSO4)0.7gを溶かして調製する。

 

手順1.  300ml の水をビーカーに入れ、マグネッチックスターラーで攪拌しながら濃硫酸 30ml を加える。そこにマロン酸 10gと臭素酸カリウム 4gを加える(この溶液をA溶液とする)。

手順2.  ビーカー中のA溶液に硝酸セリウム(Ⅳ)アンモニウムを 0.4g加える。

手順3.  臭化ナトリウム 0.68gをさらに同じビーカーに加えて攪拌を続けながらフェロイン溶液を数滴加える。あとは時間とともに変化する色を観察する。

鉄のフェナントロリン錯体が 3 価の時([Fe(phen)33+)は溶液の色が青色となり、2 価の時([Fe(phen)32+)は赤くなるのが繰り返される。

ベロウソフ・ジャボチンスキー反応の様子
Jkriegerによるhttps://en.wikipedia.org/wiki/Belousov%E2%80%93Zhabotinsky_reaction ライセンスはCC-BY-SA-3.0

 

マロン酸と臭素酸カリウムを用いたセリウムの3価と4価の酸化還元反応は、次の表のA~Cのようになっていると考えられている。マロン酸が消費されるまで、BとCの反応が交互に繰り返され、溶液の色は赤と青の間を往復することになる。

 

(ここでMAはマロン酸、fは化学量論因子)

https://www.chemistry.or.jp/edu/magic-dvd/chemical_05rythm.html

 

 

参考文献

桜井弘「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年

Eric J. Schelter, “Cerium under the lens”, Nature Chemistry, 5, page348 (2013)
https://www.nature.com/articles/nchem.1602

Study.Com, “Cerium: Element Discovery & Properties”
https://study.com/academy/lesson/cerium-element-discovery-properties.html

大鳥幸一郎、「セリウム反応剤の有機合成への応用」、有機合成化学第40巻第12号 p.1173-1179(1982)

とらおの有機化学、「Luche還元は水素化ホウ素ナトリウム+塩化セリウムが可能にする1,2-還元」”https://www.tora-organic.com/entry/Luche_reduction”

町田正人「大容量酸素ストレージ物質を利用した水素生成」ENEOS Technical Review、第51巻第3号p.81-82(2009年9月)

一関工業高等専門学校のホームページ、セリウムを触媒とする臭素酸塩 – マロン酸反応

http://www.che.ichinoseki.ac.jp/sosei/hei28/hei28-01.html

西村 美紀枝他著「サイエンスアゴラに於ける振動反応演示の工夫」、桜美林論考 自然科学・総合科学研究 (6),  p.43-60, 2015-03

「夢・わくわく化学展2001」実験DVD 時間と空間のリズム反応

空間振動するベローゾフ・ジャボチンスキー反応

https://www.chemistry.or.jp/edu/magic-dvd/chemical_05rythm.html

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。