実験講座 番外編~アメリカの化学実験室から~

筆者は現在(2022年10月)3度目の長期アメリカ滞在で旧スタンフォード大学付属研究所(現在は独立機関)にて二酸化炭素吸着研究プロジェクトに参画している。今回の講座では、日本の化学実験室とはそう変わらないものの、アメリカの実験室でのちょっとした日本との違いや器具類の英語名などを紹介したい。
グローバル化も進み、日本の化学実験室で見かけるアイテムの中には、アメリカの規格にならった商品やアメリカからきた商品もたくさんあるようだ。そんな中で筆者が目についたひとつの例は「キムワイプ」いわゆる実験室用のティッシュペーパーである。日本の化学者なら実験室でキムワイプを見たことがない方はいないだろう。日本のキムワイプの歴史は長いようで、日本製紙クレシア株式会社がアメリカの大手製紙会社のひとつであるキンバリークラーク社(Kimberly-Clark Corporation)との提携に基づきキムワイプを製造販売し始めて間もなく50年になるそうだ。

(左)アメリカのキムワイプ(280枚入り)と(右)日本のキムワイプ(200枚入り)

日本のキムワイプとアメリカのキムワイプを見てみると、どちらもキムワイプ(またはKimwipes)と書いてある。実際のところ、同じキムワイプでも若干手触りは違う。日本のものの方が若干分厚く吸湿性に優れていそうだが、ごわごわと硬い気がする。これで鼻をかむのは無理な感じだ。アメリカのものは柔らかく、吸湿性は劣るかもしれないが鼻をかむことはできそうな手触りだ。もちろん基本的には同じ用途で実験室にて使われている。水には溶けないしホコリが出ないので化学実験では何かと重宝する。スパチュラやピペットの先端をキレイに保つなどいろいろ用途はある。さて、値段を比べてみたのだが、かなりアメリカのものが高額であることがわかった。どこの小売業者を使うかによって比較が難しい可能性があるので、アマゾンアメリカとアマゾン日本での箱買いの比較をしてみた。アメリカのアマゾンサイトでは280枚入り60箱(16,800枚)が187ドル、日本のアマゾンサイトでは200枚入り72箱(14,400枚)が9760円で販売されていることがわかった(2022年10月現在)。100枚当たりの値段はアメリカでは1.1ドル、日本では67円となるので現在の為替で考えるとアメリカのキムワイプは2倍以上であることがわかった。実際、生活面でも紙製品はアメリカではノートやティッシュペーパー、トイレットペーパーや衛生用品なども高額で日本の値段の2倍くらいはすると実感している。

 

さて、pH試験紙(pH test strips またはpH test paper)についてはどうだろうか。これはたくさんの種類があるので一概には言えないかもしれないが、現在の研究所ではこのような4色タイプのものが一般的である。筆者が日本の研究室で使っていた、ちぎって使う一色でpHによって色変わりするタイプのものはアメリカのアマゾンサイトなどでも、ほとんど見かけられないのであまりポピュラーではなさそうだ。

(左)アメリカで使っているpH試験紙と(右)日本で使っていたpH試験紙

 

 

ガラス器具はいたって日本のものと同様であるといえる。ビーカー(beaker)、メスシリンダー(graduated cylinderまたはmeasuring cylinder)、メスフラスコ(volumetric flask)、ホールピペット(volumetric pipette)、安全ピペッター(pipette bulb)、マイクロピペット(micropipette)などはほとんど形状も同じものが多く、mL表記である。電子天秤(analytical balance またはlab balance)も当然グラム(g)単位である。写真のように、いくつかのメスシリンダーには面白いものが見受けられた。口が漏斗の形状をしているもの、口がやたら分厚いものなどである。

 

写真 アメリカのメスフラスコ、マイクロピペット、いろいろな形のメスシリンダー

 

 

また、パスツールピペット用のゴム球(pipette dropper)の形が違うのには驚いた。写真のように筒状になっていて、日本のゴム球のように上が膨らんでいない。しかも頂上に穴があいているので、そこを指で押さえながら吸引しなければならない。たくさん吸えないことと、ハンドリングに慣れるまで時間がかかるし、少量の出し入れにはあまり向いていないことが難点だ。

写真 アメリカで見かけるパスツールピペット用のゴム球

 

 

pHメーターはMettler Toledo社製など、日本でもみかけたタイプのものが多い。pHメーター校正用の標準液を購入してみたが(本研究所には通称Chem Storeと呼ばれる実験消耗品販売店がある)、各pH標準液それぞれに色がついているのには感心した。以前、日本の実験室で間違いそうになるなとよく思っていたので、このように色が付いていれば確かに間違えなにくいと実感した。実際、そのあとにインターネットで調べると日本でも色のついたものを売ってはいるようであるがあまりポピュラーではなさそうだ。

写真 アメリカで見かけるpHメーター用校正液(左から、pH4、pH7、pH10)

 

最後に、もうひとつ驚いたのがガスボンベ(gas cylinder)の色の違いである。ガスボンベは種類を間違うと大きな事故にもつながるため、日本でもアメリカでも色やシールによってボンベの種類が一目でわかるようになっている。今回の実験室にはGC-MS運用のためにヘリウムガス(現在では大変希少!)が設置されおりその色は茶色であったためボンベの色の違いに気づいたというわけだ。別の実験室では肩だけ(ボンベの上の部分だけが色分けされていて下はネズミ色のものもある。アンモニアガスボンベは珍しいが日本では白、アメリカでは肩が赤になる(ただし珍しいため特注オーダーの場合には緑や黒のこともある)。国が違うと色指定が異なるのにも驚きだ。またガスボンベ用の圧力調整弁(regulator)の形はアメリカも日本も全く一緒である。ただアメリカの圧力の単位にピーエスアイ(psi、1 psi = 0.068 atm = 6.89 kPa)をいまだに使うため、psiとpaが併記されたものが多い。このように圧力だけでなく、単位換算については、何かと不便を感じる。アメリカ育ちの人は、温度には華氏(℉)、サイズにはインチ(inch)かフィート(feet)、距離にはマイル(mile)、重さにはポンド(pound)、容量にはオンス(oz)を日常生活に使うため、研究生活の中でもこのような単位が会話で飛び交ってしまう。さすがに日本人にとってはなじみがない単位のため感覚がつかみにくい。これらの単位もそうだが、やはり日本人の数値の感覚は4桁ごとなので(1万、1億など)、3桁が基準の欧米人と数値を扱う会話を難なくするにはまだまだ経験が必要そうだ。

写真 (左)アメリカのガスボンベ と (右)日本のガスボンベの色の違い

(左)https://en.wikipedia.org/wiki/Bottled_gas  Ildar SagdejevによるライセンスはCC-BY-SA 4.0
(右)https://www.koike-japan.com/291903(写真提供ご協力:小池酸素工業株式会社)

 

 

 

 

 

参考文献

Kimberly-Clerk社のサイト

https://www.kcprofessional.com/en-us/products/wiping-and-cleaning/controlled-environments#numberOfResults=30

 

日本製紙クレシア株式会社のサイト

https://pro.crecia.co.jp/kimwipes/product.html

 

日本アマゾンのサイト

https://www.amazon.co.jp/

 

アメリカアマゾンのサイト

https://www.amazon.com/

 

川口液化ケミカル株式会社 高圧ガス容器の色

https://klchem.co.jp/blog/2007/10/post-534.php

 

小池酸素工業株式会社HPより 高圧ガス容器

https://www.koike-japan.com/291903

 

大阪大学、高圧ガスの取り扱いについて 安全講習会資料

https://www.tech.eng.osaka-u.ac.jp/Data/tech/act/a_rep/gas08_1_houkoku.html

 

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。