写真1:アルミニウム製の台所用品(depositphotos)
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アルミニウム製品に囲まれた暮らし
朝一番、顔を洗って「今日の調子はどうか?」と覗き込む“鏡”は、光の反射を利用して形・姿を見る道具です(『大辞林』より)。最近は、ガラス板の裏面にアルミニウムをメッキしたものが多いようです。
朝食をつくりにキッチンに移動すると、鍋やヤカン、アルミホイルなど、アルミニウムでできているものが結構多いことに気付きます(写真1)。気づきにくいところでも活躍していて、お菓子の袋は中身を守るために、内側がアルミニウムになっていることがあります。いろいろなところに使われているのは、いろいろと優れた性質があるからです。今日は、そんなアルミニウム(Al)のことを考えてみましょう。
まず大前提として、人の体に悪い影響を与えることはありません。その上で、鍋やヤカンに使われるのは、アルミニウムが熱を伝えやすい(熱伝導率が高い)からです。もし、鍋やヤカンが熱伝導率の低い材料でできていたら、なかなか料理や水が温まらなくて、イライラするでしょう。
熱伝導率という点では、銅(Cu)の方が優れています。毒性もないため、銅の鍋やヤカンもよく使われています。ただし、銅はアルミニウムよりも3倍以上重いので、年を取ったら、アルミニウム鍋の方が使い勝手がいいかもしれません。ちなみに、お菓子の袋に使われるのは、アルミニウムが光や空気を遮断してくれるからです。
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製錬法が開発され、ようやくメジャーな金属に
さて、今回アルミニウムを取り上げることにしたのは、“軽い”という性質をもっていて、なおかつよく使われているからです。前回、マグネシウム(Mg)を、「世界の省エネルギー化に貢献する、期待の軽い金属」として紹介しました。そのせいか、「ちょっと待ってよ!元祖軽い金属は私たちでしょ!」というアルミニウムの怒りの声が聞こえたように思いました。
人間は紀元前から金属材料を使ってきました。特に、鉄と銅はその後の技術的な発展がめざましく、現在も私たちの生活を支えています。そこへ、もう一つよく使われる金属として加わったのが、アルミニウムでした。といっても金属アルミニウムの存在が確認されたのは1807年のことですから、時代はかなり下ってからのことです。単離されるまでには、さらに1825年まで待たなくてはなりませんでした。そのため”若い金属”と呼ばれています。
アルミニウムは当初、製錬(鉱石から金属を取り出して精製すること)が難しくて貴重でした。アルミニウムが高価で大切に使われていた様子は、ナポレオン3世がお客様にアルミニウム製の器をお出しして自分たちは金・銀の器を使った、というエピソードからも伝わってきます。アルミニウムの器といえば・・・、給食の食器がそうだったのではないでしょうか。それにしても、相変わらず貴重とされる金・銀に対して、アルミニウムはすっかり普段使いになったことに驚かされます。
というのも、1886年にアメリカのホールとフランスのエルーがそれぞれに発明した電解製錬法(現在、ホール・エルー法と呼ぶ)によって、単体のアルミニウムが手に入りやすくなったからです。アルミニウムの原料は、ボーキサイトと言われる赤褐色の鉱石です。まずはボーキサイトからアルミナ(酸化アルミニウム、Al2O3)を取り出します。続いてアルミナに電気を通して分解させ、アルミニウムを製錬します。この電気分解がホール・エルー法です(図1)。アルミニウムが「電気の缶詰」と言われるのは、この時に大量の電気が必要だからです。
こうしてアルミニウムは材料として使えるようになりました。アルミニウムは金属元素としては地殻中でもっとも多く、8.2%を占めています。人類は大きな財産を手に入れたのです。
図1:ホール・エルー法の概要。資料⑧を基に作成。アルミニウムの単体が沈殿する。
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“軽さ”を売りに既に広く使われている
アルミニウムは、前回のマグネシウムに比べたら重いですが、鉄や銅から比べたらずっと軽い金属です。しかも、ほかの金属を混ぜて合金化することで、十分に強い材料になることが既に知られています。例えば、強い金属の代表として、“ジュラルミン”という名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。ジュラルミンは、アルミニウムに銅を約4%と、マグネシウムとマンガンをそれぞれ0.5%ずつ加えた軽合金で、1906年にドイツのウィルムが発明しました。
その日、ウィリアムは強いアルミニウム合金の開発に成功したと思っていませんでした。ところが数日後、材料強度の計測の続きを行うと、アルミニウム合金は硬くなっていました。こうしてジュラルミンの発明では、合金がある時間放置しておくと硬くなる「時効硬化」という現象の発見というおまけがついていました。ジュラルミンは鋼に匹敵する強さをもっていながら,重量は鋼の3分の1ほどの軽い“軽合金”です。この特徴が買われ1914年にはツェッペリン飛行船に採用されました(写真2)。その後は航空機の機体材料として発達してきました。
写真2:ツェッペリン式の飛行船(depositphotos)。第一号は1900年6月にツェッペリン伯爵によってつくられた。単なる袋に浮力を得るために空気よりも軽い気体を入れる「軟式飛行船」に対して、このガス嚢を骨組みの中に収めたツェッペリン式の飛行船は「硬式飛行船」と言われる。骨組みにジュラルミンが採用された。このタイプの飛行船は、日本では2010年頃まで飛んでいたようだ。
より優れたアルミニウム合金の開発は、その後も続けられ、現在、超ジュラルミンと呼ばれているアルミニウム合金は1931年にアルコア社によって開発されました。これは、ジュラルミンのマグネシウム量を1.5%まで増やしたものです。『アルミニウム技術史』(URCJ Technical Reports,Vol4(1))で吉田英雄氏は、「たった1%マグネシウム量を増やすことに、どうしてウィリアムは気付かなかったのだろうか」と書いていますが、研究の難しさを改めて感じさせられるエピソードです。
さらに1936年には、日本人によって超々ジュラルミンが発明されました。日本でのジュラルミン開発は、1916年に墜落したツェッペリン飛行船から骨材を入に入れた海軍が、住友伸銅所(現在の新日鐵住金)に調査依頼したことから始まりました。そして、住友において超々ジュラルミンの開発を成功へと導いたのが五十嵐勇博士でした。当時の最先端材料は、零戦の主翼桁材に採用されました。
こうして強くなったアルミニウム合金は、現在も飛行機、電車、自動車で多く使われています。最近では、自立式電波塔として世界一の高さを誇る「東京スカイツリー」(写真3)にもアルミニウムはたくさん使われており、シャフトの外装材はアルミニウムハニカムパネルで、展望台の外装材はアルミニウムカーテンウォールでできています。アルミニウムはその軽さと強さを武器に、いつの時代も最先端技術の中で活躍しているのです。
写真3:634 mの高さを誇る「東京スカイツリー」(photo ac)。
【参考資料】
①『元素の事典』朝倉書店、2011年
②『アルミニウム大全』日刊工業新聞社、2016年
③『航空機用アルミニウム合金展伸材の歴史』JFA 2014 JANUARY No.45
④ESD Lab:https://esdlab.jimdo.com/%E8%B3%87%E6%96%99%E5%AE%A4/%E6%AD%B4%E5%8F%B2/
⑤誰でも分かる技術(日本鋳造工学会関東支部):http://www.j-imono.com/column/daredemo/57.html
⑥アルミニウムの基礎知識(東洋アルミニウム):http://www.toyal.co.jp/jiyukenkyu/basic_03.html
⑦アルミの基礎知識(日本アルミニウム協会):https://www.aluminum.or.jp/basic/alumihistory.html
⑧アルミ産業のあゆみ:http://www.aluminum.or.jp/basic/alumi-sangyo/index.html
⑨第28回:電気分解:https://www.sidaiigakubu.com/examination-measure/chemistry/28/index_3.php
⑩金属加工・金属切削加工:http://www.metal-speed.com/processing/1341/
⑪アルミエージ:http://www.aluminum.or.jp/alken/cms/files/1374811702-siryo1.pdf
*ウェブサイトはいずれも2019年2月現在
池田亜希子
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