カルシウム~Ca 一生を通した骨の維持に大切なカルシウム

体内のカルシウム

カルシウムは体重の1~2%含まれ、人の体内で5番目に多い元素である。カルシウムは99%が骨と歯に含まれていて、ヒドロキシアパタイト( Ca10(PO4)6(OH)2 )の形で骨や歯の強度の維持に働いている。カルシウム摂取量は骨量、骨密度に関係し、我が国の調査ではカルシウム摂取が少ないと骨折のリスクが高いことが報告されている。
骨や歯は硬く、死後も長く残ることから、生きている間もカルシウムは骨から出入りしないと考えがちである。しかし、図に示すように、骨は常に破骨細胞によって壊されて血液にカルシウムとリンを供給(骨吸収)し、骨芽細胞によって修復(骨形成)する仕組みで骨のカルシウムは常に少しずつ入れ替わっている。このように骨は静的でなく動的な組織で、近年は骨が他の組織を調節する物質を分泌するなど多くの機能を持った組織であることも分かってきている。

 

十分でない日本人のカルシウム摂取量

骨を健全に保つには十分なカルシウムの摂取が必要なことはいうまでもない。日本人のカルシウム平均摂取量の推移をみると、戦後1970年頃まで増加し、その後しばらくの間1日550mg前後で推移してきた。しかし、1990年代半ばからは減少傾向にあり、近年は500mg前後である。表に示した日本人の食事摂取基準(2015年版)の年齢別カルシウム推奨量と比べると、現在の平均カルシウム摂取量は男女を問わず8歳以上の推奨量を下回っている。このように、日本では依然としてカルシウム摂取が十分でない状況が続いている。

 

高齢期に発症しやすい骨粗鬆症(こつそしょうしょう)

人の身体は年齢にともなって変化するが、骨も当然変化する。概念図の赤線で示すように、女性の腰椎の骨密度は思春期に著しく増加した後、閉経期までほぼ維持される。閉経すると骨密度が大きく減少するが、これは骨のカルシウム維持に働いていたエストロゲン(女性ホルモンの一つ、卵胞ホルモン)の分泌が大きく減ることによるものである。男性の骨密度は、女性の閉経期まではほぼ同じ年齢変化を示し、高齢期になると男女とも低下する。

高齢期に骨密度が低くなりすぎると、骨のミネラルが松かさのように隙間が多くなることから骨粗鬆症と呼ばれる。骨粗鬆症は骨が脆く、骨折しやすい。特に女性は、骨密度の年齢変化から分かるように、骨粗鬆症のリスクが大きい。高齢期の骨折は、若い人より回復に時間がかかり、筋肉の衰えによって寝たきりになりやすい。このように骨粗鬆症は高齢者のQOL(生活の質)を著しく悪化させるリスクを持った疾病である。したがって、長寿社会の日本では骨粗鬆症の予防が強く求められている。

 

骨に力がかかることも必要

骨粗鬆症のリスクファクターに運動不足があるので、その予防には日常的に運動することが必要である。運動といっても、水泳や自転車走行は、水の浮力や自転車の介在によって重力が働かないため、骨の強化には不向きである。宇宙空間に長く滞在した宇宙飛行士の骨密度が低下していることも、無重力状態におかれていたためである。反対に、骨密度を増加させる運動として、バレーボールやバスケットボール等ジャンプが必要なスポーツ、柔道など格闘技があげられる。さらに、激しいスポーツでなくても、ウォーキングでも骨密度を維持、回復することが知られている。
以上のことは、骨の強化には骨に力がかかることが必要で、重力の寄与が大きいことを示している。したがって、概念図緑線で示すように骨折危険域まで骨密度が低下することを予防するには、カルシウムの摂取に加えて、軽くても重力のかかる運動を続けることが求められる。

 

思春期の生活が大切

骨粗鬆症を防ぐために、成人してからよい生活習慣(食生活、運動)をずっと続けることは多くの人にとって難しい。もし、思春期に骨量(骨密度)の増加を大きくして、最大骨量を多くしておけば、概念図青線で示すように骨粗鬆症予防に大きな努力をはらわなくても骨折危険域まで骨密度が低下しないことにつながる。
骨密度が大きく増えるのは幼児期と思春期であるが、思春期の方が骨密度の増加量が大きい。骨密度が最も大きく増加する年齢は、男性が平均13.4歳、女性が平均11.8歳と報告されているので、小学校高学年から高校生にかけての生活習慣が重要である。
しかし、女性については小学校中学年にはスリムな体型を志向する割合が高く、中高生になるとさらにその割合が高い。骨密度は体格指数(BMI)と相関し、低体重は骨密度が低いので、思春期のやせ志向は好ましくない意識である。また、近年は都市部を中心に私立中学を受験する小学生が増加している。そのため、小学校中学年から受験勉強に追われ、運動不足や睡眠不足の小学生も増えてきた。このように現代の思春期の子どもは、骨の成長にとって問題のある社会状況におかれている。こうした状況を踏まえた上で、よりよい思春期の生活習慣ができるような方策を考えていかなければならない。

 

参考書等
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編(2015)『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版』
厚生労働省(2014)『「日本人の食事摂取基準(2015)」作成検討会報告書』
野村慎太郎、東端裕司(2003)「骨の生物学」,『化学と生物』,41巻5号
藤田拓男、江澤郁子(1999)『カルシウムと骨代謝』

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馬路 泰藏

現職時には、主に動物実験による栄養学研究、食生活に関する調査研究に携わり、今も食生活のあり方について関心を持っている。著書に『ミルクを食べる 肉を食べる』、『床下からみた白川郷』(風媒社)『食生活論』(有斐閣)等。趣味はテニス、写真撮影。